表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

平和

 トントン、部屋のドアの戸を叩く音が聞こえる。

「はい。」

戸を開けるとまるで庭師のような汚れたツナギを着たラルフの姿があった。

「待たせたな。行こうか。」

そう言うと私の手を引いて歩き出した。

「あ、あの…1人で、あるけます。」

ラルフはキョトンとした顔でこちらを見たが、にんまり笑うと繋いでいる手に力を入れた。

「俺が、こうしたいだけだからいいんだ。」

再び前を向いて歩き出すラルフの背中を見ながら、初めての経験にドキドキするしか無かった。

 やがて城の外に出て裏側に回ると、そこには広い花畑が広がっていた。

その大半を占めるデイジーの花が風に緩く揺れていた。

「きれい……。」

「ここには、秋になればコスモスが咲く。アヤメなら花言葉がわかるだろ?」

デイジーの、コスモスの花言葉…

「……平和…。」

「そう。この花畑はこの国の平和を象徴している。」

「素敵ですね。」

「今は隣国と緊張状態にある。この国の大臣や政治に関わる者たちが王の言いなりだ。皆、隣国との戦争を望んでいる。今は王が伏せていて滞り気味だが、準備も着々と進められている。」

ラルフはつらそうに顔を歪めた。

「だからこそ、今止めなければならない。花に想いを込めたところでどうにもならないことなどわかっているんだ。だけどこれは、願掛けになっているんだ。…王がこのまま伏せているようであれば近いうちに俺が王になることになるだろう。そのときにアヤメ、お前の力が必要だ。」

「私の…力……?」

「お前には俺の抑止力になって欲しい。頭に血がのぼると何をしでかすかわからないからな。」

ラルフ乾いた笑いをもらす。表情はまだつらそうだ。

なぜ、私なのかわからない。でも1つわかることがある。

「話してくれてありがとうございます。1人で、ずっと、悩んでいたのですね…。私で力になれるのであれば、惜しみなく協力します。だから、あまり1人で溜め込まないでください。」

小さく震えていた肩をなだめるように抱きしめた。

ラルフは1度驚いたように肩を上げて、やがて私の首筋へ顔を埋めた。

「ありがとう……。」

ラルフは少しだけ泣いていたように感じた。

私よりも大きいはずなのに、すごく小さくて消えてしまいそうに思えて腕に力を込めた。

きっと、ラルフの考えているように物事がうまくいくことはないのだろう。

私は大切なものを奪ったこの国が嫌いで、王族がどうしようもなく嫌いなはずだった。

でももし、この国にたくさんの血が流れるのだとしたら私は私のできることをしたいと思う。

そして何よりもこの小さく消えてしまいそうな存在を守りたいと思った。

今は、それだけ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ