私を、想ってください
「遅かったな。」
ラルフは呆れたような声で言うと私の方へと歩いてくる。
「申し訳ありません……。」
「はぁー……まあ、女性は着替えに時間がかかるものだしな…。」
そう言って私のすぐ近くにあった椅子を引いた。
そのまま座るように促される。
「ありがとう…ございます…。」
ラルフがどのような顔をしているのか怖くて見ることが出来なかった。
テーブルの上の花瓶には上品にシロツメクサの花が飾られていた。
「(……私を、想ってください)」
このお城に来てから見る花達はまるで私に花言葉で何かを訴えかけてくるようだった。
「(自意識…過剰かな……?)」
ラルフはそのまま私の席から一番近い席に座った。
「……俺は、何か怖がらせてしまっただろうか…?」
不意に言われた疑問に反射的に顔を上げる。そこには泣きそうなラルフの顔があった。
「そんな…そんなことはないんです……ただ、待たせてしまって申し訳ないと思って……。」
素直な気持ちを伝えると安堵の表情を浮かべる。
「そうかよかった…。」
食事中会話はほとんどなく、そのまま時間が流れていった。
「アヤメ…アヤメは今日の晩、食べたいものはあるか?」
「いえ、特には……。」
「今日、やりたいことは?」
「……いえ、ないです…。」
「………じゃあ今日は、俺に時間をくれないか?」
「は、はい。もちろんです。」
返事をするとラルフはニコッと笑った。
「準備ができたら後で迎えに行くから、部屋で少し待っていてほしい。」
「はい、わかりました。」
そのまま出て行こうとするラルフの背中を見て思い出す。
「ラルフ!」
「ん?どうかしたか?」
振り返ったラルフに笑顔で伝える。
「ドレス、選んでくれてありがとうございます。とても気に入りました。」
きっと、お城に連れてこられて初めてちゃんと笑った瞬間だった。
「…そっか……選んだ甲斐があったよ。」
ラルフはまるで太陽のように笑った。
トクンと胸が鳴り、暖かい気持ちが身体いっぱいに流れ込んだ。
「本当に…ありがとう……。」
もう一度小さくラルフの背中にお礼を言うと、ラルフを追うように食堂を後にした。