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楽しい想い出

 朝、早く起きてベッドに腰をかけたままベッドサイドにある窓の外をぼんやりと眺めていた。

小さな鳥が二羽木の枝に止まり戯れている。

「いいね、貴方達は自由で………。」

切なく胸が締め付けられ目から涙が零れた。

ふと時計に目を移すと時刻は7時を過ぎていた。

そろそろ誰かが来てもおかしくない時刻だ。

目の色が変わるのがばれないようカモフラージュにカラーコンタクトを入れる。

あの時慌てて持ってきたコンタクトも1ヶ月程しか保たないだろう。

自分では鏡を見なければ気がつくことさえ出来ないこの目にも困らせられるばかりだ。

 パタパタと廊下を走る音が聞こえ、ドアの前で止まり、バンっと勢いよく戸が開く。

「朝だぞ!おはよう、アイリス。」

音と声に驚いて振り返る。着替える前で良かった。

「おはようございます。……ラルフ、昨晩言い損ねたのですが、私はアイリスではありません。」

そう、私はアイリスではない。

ラルフは顔をしかめて口を開く。

「…アヤメ……今は、アヤメと言うんだったか?」

ラルフは、私のことをどれだけ知っているのだろう。

「今も昔も私はアヤメですよ。」

クスリと作り笑いを浮かべる。ラルフの顔は更にしかめられ、まるで怒っているような、悲しんでいるような表情だった。

「朝食が出来ている。着替えてすぐに食堂へ来るように。」

ラルフはそのまま強く扉を閉めて行ってしまった。

「……ふぅ…」

恐怖と驚きで早くなった鼓動を押さえるために大きく息を吐く。

そのままクローゼットへ向かい扉に手をかけ少し開く。

用意されていた服はどれも高そうなドレスばかりだった。

その全てに綺麗な造花があしらわれている。

しかし、なんだか落ち着かなくて昨晩着てきた自分の服に袖を通した。

 扉を開けると同じ年頃の女の子が丁度部屋の前を通り過ぎるところだった。

「あの……」

声をかけると彼女は私を見てギョッとする。

「ア、アヤメ様。なぜ、そのような格好を?……用意したドレスはお気に召さなかったでしょうか?」

彼女はシュンとして肩を落としてみせる。

「あ、いや…気に入らなかったのではなく……私には、豪華すぎて…。」

素直にそう言うと彼女は柔らかく笑った。

「そうですか、良かった。では本日中にもう少し質素なものを用意させていただきますね。……申し訳ないのですが、今日はあのクローゼットから選んでいただけないでしょうか?」

「……どうして?」

首を傾げると、彼女は少し困ったように笑う。

「あのドレスは全て、ラルフ様と共に私が選びました。私はアヤメ様と歳も近いので、お声がかかりました。」

彼女は私をクローゼットの前に連れて行くとドレス1つ1つを愛おしそうに触れる。

「ラルフ様は小さな頃からお花がお好きで花言葉をたくさん知っておられます。この造花達にも1つ1つラルフ様からアヤメ様へ込められた意味があるのです。」

ラルフはどんな気持ちでこのドレスを選んでくれたのか、そのことを考えるだけで申し訳なく感じた。

「じゃあ、あなたがお洋服選んでくれる?…私にはどれが良いのか判断できないから…。」

「はい!お安い御用です!」

彼女は人懐こい笑顔を浮かべる。

なんて可愛い人なのだろうと思った。

「名乗り遅れました。(わたくし)、エリーと申します。」

「エリー……」

「はい!アヤメ様のお世話係ですのでなんでもお申し付けくださいね。」

エリーは鼻歌でも歌うかのように上機嫌で1着のドレスをクローゼットから引き出した。

「このドレス、ラルフ様が一番に気に入られておりました。」

そう言って手に持たれていたのは淡い紫色のドレスだった。裾には紫色や桃色、白色のニチニチソウの花が散りばめられていた。

「このお花はニチニチソウといいまして、花言葉はえーと……。」

「楽しい想い出。」

「そうです!お詳しいのですね。」

エリーは嬉しそうに笑うとドレスを眺めながら言った。

「このドレスは、アヤメ様がこのお城で一生忘れられないような楽しい想い出を作れるようにとラルフ様が選んだものなんです…。他のドレスにもそれぞれラルフ様の想いが詰まっているんですよ。」

エリーはそっとドレスを差し出す。

なんとなく恥ずかしくて後ろを向いてドレスに着替える。

エリーの方へ向き直ると嬉しそうに笑う。

「とってもお似合いです!」

その言葉を聞いて嬉しくなり、胸のあたりがふわっと暖かくなる。

「エリー…私、明日からもここにあるドレスでいいわ。…ラルフが悩んで、選んでくれたドレスだもんね。」

「はい!」

エリーは嬉しそうになんどもうなずいた。

 エリーと別れた後、少し遅くなってしまったので、食堂へと早足で向かった。

扉の前で大きく深呼吸をして、私は扉に手をかけた。


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