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あなたを信じて待つ

 ガタガタと揺れる馬車の中、怪しい風貌の男と2人きり。

そういえば名前を聞くのを忘れてしまっていた。だがそんなことは正直どうでも良いことだと思った。

「貴女は、王子との接触に心当たりはありますか?」

先に口を開いたのは男の方だった。

「いえ…私のような一般市民には王子様を見る機会ですらありませんので……。」

「そうですか…。」

男は不服といった表情で溜息をこぼす。

外は家が無くなり、やがて森の中へと変わった。

夜の森は鬱蒼としていて恐怖を煽る。

「(私、これからどうなるんだろう……。)」

考えるだけで怖い。

けど、お父さんは生きているのだ。

急なことで先程は男の言葉に気がつくことができなかったが、少しづつ落ち着いてきて気がつく。

「(生きてる。みんな、生きてるんだ。)」

微かな希望を持つことにした。

そうじゃないとおかしくなってしまいそうだった。

 馬車が止まり私は男と共に馬車を降りる。

「わあ……。」

門の脇には思わず感嘆の声が出るほどに綺麗なフジの花が枝垂れていた。

「貴女は、花が好きなのですね。」

「…ええ、そうですね。」

男は感心したように私を覗き込む。

「この花にも花言葉はあるのでしょうか?」

「もちろんです。全ての花には花言葉があります。…フジの花の花言葉は優しさとか歓迎という意味があります。」

「……なるほど。」

「でもまさかフジの花を見られるなんて…思ってもみませんでした…。」

フジの木は遠い国の固有のもので普通では、この国では見ることはできない花だ。

「この木は、昨日届いたのですよ。王子が貴女に…と。」

「えっ……私の…為に?」

まじまじと花を見つめていると背後からドアの開く音がした。

「エドガー!!遅いと思ったらこんなところに………!」

長いブロンド髪の高貴そうな男の人が少し早足で近づいてくる。

「王子……こんな時間に大声を出すのはやめてください。…姫を、お連れしましたよ。」

呆れたように溜息を吐き、私の背中を押してくる。

そして、王子様の前へと押し出される。

王子様は途端に先程の傲慢な感じが無くなり、身体が強張って緊張しているような素振りを見せた。また、心なしか少し頬が赤いようにかんじた。

「こ、これはすまなかった。長い道中お疲れだろう。部屋へ案内しよう。」

「はい…。お待たせしてしまい、申し訳ありません。フジの木があまりにも綺麗だったものですから……。」

王子様は少し驚いたような顔をした後、強張ってしまっていた肩の力を抜いた。

「気に入ってくれたのならば良い。取り寄せた甲斐があったというものだ。」

微かに笑みを浮かべる。その顔が少し、リアムに似ていた。

「急かもしれないが、お前を姫として迎え入れたい。」

なぜ、そのようなことを言うのか、私にはわからない。

混乱している私を安心させるように、王子様は柔らかく笑った。

「心配しなくていい。すぐにというわけではない。心の準備とかいろいろな準備とかする時間くらいは与えよう。」

長い階段を上って、一つの部屋に辿り着く。

「さあ、姫、お部屋へお通ししよう。まずはここでの生活になれるのだ。」

そう言って扉が開けられた。

そこには、今まで見たことの無い豪華な部屋が用意されていた。

「好きなように使うと良い。足りないものがあったら言ってくれ。」

ここでも圧倒されて言葉を失った。

「なにか、不満があるだろうか?」

固まっている私を不審に思ったのか、王子様は不安そうに覗き込んでくる。

「…いえ……特に不満はありません…。ですが、少し私には豪華すぎて、驚きました。」

素直な感想を言うと王子様は笑った。

部屋へ一歩踏み込むとベッドサイドにある花に気がつき歩み寄る。

「綺麗……。」

紫色のアネモネが上品な花瓶に飾られていた。

「その花は俺からのプレゼントだ。姫に向けて俺の想いを込めてみた。」

「ありがとう…ございます。」

紫色のアネモネの花言葉は”あなたを信じて待つ”だ。

少しづつでいいから心を開いてほしい。

そう言われているようだった。

「じゃあ、今日は疲れただろうし、休んでくれ。」

そう言って部屋の扉を閉じようとする。

「王子様!」

咄嗟に呼び止めたからか、王子様は少し驚いた表情をしていた。

「おやすみなさい。」

深々と頭を下げると王子様は笑った。

「俺の名前は王子様じゃなくて、ラルフだよ。おやすみ、アイリス。」

懐かしい名前を呼ばれた。もう、忘れかけてしまっていた名前。

王子様が何故…?

問いかけても答えなど出なかった。

だけど一つだけはっきり分かっていることは、今の私は驚きとドキドキで顔が赤いということだけだ。

「おやすみなさい、ラルフ。」

小さく呟くと、ラルフは今日見た中で一番の笑顔で笑った。







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