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異世界なのに俺だけ魔法が使えないだって!?  作者: ヘンガン
第一章『譲られた身体』
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第一章八話『ルミア』

ルミアが言っていた通りにみんなが寝静まった頃合をはかり、俺は部屋を出て川へ向かう。


傭兵団はいつも一日交代で夜に見張りをするらしい。

今日はたまたまルミアが当番だったらしく彼女は一足先に川に向かっている。

おかげで俺もあっさりとアジトを抜け出すことができた。


しかし今更だがあの川には少し抵抗がある。

夢の中とはいえついこの間自分の怨霊みたいな存在と遭遇した場所なんだ。

しかも割とガチで呪い殺されるかもって思った。

怖くないわけがない。


だが今回はルミアがいる。

頼りになるお姉さんと一緒なら少しは恐怖も紛れるだろう。大丈夫だ。


そう自分を励ましながら歩いているうちに川までたどり着く。


そこにはちゃんとルミアがいた。

それだけで少し安心する。


「来ましたね」

「すみません。待たせましたよね」

「いえ、今来たところです」

そんなわけないのに俺を気遣ってくれているのか彼女はそう言った。


しばらく沈黙が続く。

「ここまで呼び出した理由はわかるとは思いますが君に聞きたいことがあるからです」

彼女はそう言って話を切り出した。


そのくらいはわかる。夕食の時のことだろう。

「わかってます。魂を呼び寄せる魔法についてですよね?」

「それもありますが、まあいいでしょう」

え?それ以外にもあるのか?


「まずそのことからです。君はどこでそれを知ったんですか?」

「……」

俺は答えられない。


言ってしまっていいのだろうか。

俺が異世界の住人であることを。

このロウズという少年の身体を乗っ取っているような状態であることを。

言ったら信じてくれるのだろうか。


「……なら質問を変えます。本当に君はロウズ君という人間なんですか?」

「ッ!?」

彼女のその質問に俺は思わず息を呑む。

なんなんだ、この人。

何をどこまで知っているんだ?

恐怖が俺を支配する。

自分の全てが彼女に筒抜けかもしれないという恐怖が。

彼女が何か得体の知れない存在なんじゃないかという恐怖が。

何よりも真実を打ち明けた時、彼女が敵になってしまうのかもしれないという恐怖が。


「いきなりこんな質問に答えられませんよね。それにこちらもたくさん隠し事しているのに君にだけ答えてもらおうなんてずるいですよね」

「……」

俺は黙っていることしかできない。


沈黙をやぶったのはまたもや彼女だ。

「私が隠していること、あなたに教えます。これから私が言うことを信じるか信じないかはあなたの自由です。ですがこれだけは約束してください。誰にも言わないでください。……約束、できますか?」

「……はい」


俺がそう答えると彼女は満足そうに微笑んだ。

そして授業の時のようにこう言う。

「いい返事ですね」


それから彼女は話した。

彼女はもともと俺と同じ異世界に住んでいたこと。

そこで付き合っていた男性と喧嘩をして道路に飛び出してしまったこと。

そこを運悪くトラックに轢かれ死んだと思ったこと。

目覚めたら目の前に女の人がいて優しく微笑んでいたこと。

ルミアとしてこの世界に来たこと。

女の人はルミアの母で娘の魂を呼び寄せようとして間違って彼女を呼び寄せてしまったこと。

ルミアの中身が自分の娘じゃないと知った母親に罵声を浴びせられたこと。

ルミアの母親に孤児院に預けられてしまったこと。

その孤児院が大戦でなくなり、オーフィスに拾われたこと。

俺のようにオーフィスに傭兵になることを勧められたこと。

傭兵学校を卒業し、オーフィスの傭兵団に加わって現在に至ること。


多分彼女は包み隠さず話してくれたんだと思う。

そしてその内容は一部は今の俺の境遇と似ている。


「私のように魂を引き寄せられてしまった人間は不幸な人生を送ってしまうかもしれない。だからオーフィスさんたちは私みたいな人を増やさないために魂を呼び出す魔法をついて隠すのです。そしてこの魔法はもともと存在自体を隠されています。知っているだけでも自身に危害が及ぶかもしれない。しかも内容が非常に難しいものであるため、使える人は全世界を探しても片手で足りるでしょう」


これがオーフィスたちが魂を呼び出す魔法に対して異常なまでに反応した理由なのだろう。

というか使える人間が片手に収まる人数ってことはロウズは若いながら魔法に関してとんでもない才能を持っていたんじゃないだろうか。

そんな将来有望な少年の魔力も未来も奪って俺はここにいるんじゃないのか?


「大丈夫ですか?何言ってるのかわからないですよね」

「い、いえ」

「信じてくれるかどうかは別ですが、でもあなたが知りたがっていたことはについては話しました。次は私の質問に答えてくれませんか?」

不安げな目で俺を見る。


ここまでされたら隠す理由もない。

もともと話してはいけない理由なんてなかったんだしロウズに口止めもされていない。

それにルミアはきっと俺のことが心配なんだろう。

自分と似たような状況で辛い目に遭っているかもしれない相手に手を差し伸べたいだけなんだろう。

彼女は全てを話してくれたんだ。

……俺も話そう、全てを。

ルミアと少年ロウズがメインの話はどうしても長くなってしまいますが飽きずに読んでいただければ幸いです。

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