第一章七話『秘密』
ルミアの授業があった日の夜、俺たちはいつものようにみんなで集まって夕食を食べていた。
いつものようにおしゃべりしながらご飯を食べる。
最初は勝手がわからずおどおどしながら食べていたものだが楽しそうなみんなを見ていれば混じりたいとも思う。
今では俺も輪の中でみんなと話せている。
話題もなくなってきた頃ふとロウズの使った魔法が気になり、昼間ポルクに聞けなかったことだし丁度いいと話を振ってみた。
「そういえばポルクさん、魂を呼び出せる呪文って知っていますか?」
その言葉にポルクだけでなく傭兵団全員が驚いた。
「なんで急にそんなことを聞くんだ?」
探るような、それでいて少し厳しい口調でポルクは俺に問う。
よくわからんがなんかあまり良くない話題なのかもしれない。
焦って誤魔化そうとした時、なぜかルミアが助け舟を出してくれた。
「私が今日教えたんです。その、うっかりしゃべっちゃって」
そう言うとルミアは俺に目配せしてきた。
私に任せてみたいな目をしている。
任せてもいいのだろうか。
いや、今は彼女を信じよう。
焦ってテンパっている俺よりはずっとうまくこの場を収めてくれるだろう。
「あれほど気をつけろと言ったのに、どうしてそんな簡単に……」
オーフィアスが言う。
「すみません。彼が熱心に質問してくれるものだから調子に乗ってしまってつい……」
しょんぼりしたような感じで彼女は言う。
すげぇ、迫真の演技だ。
そしてそのまま当り障りのない言葉で誤魔化し続けていく。
しかし悪気はなかったとはいえ俺の言葉のせいでルミアが怒られていると思うと申し訳ない。
「あの、すみません。ルミアさんがなんか気まずそうな顔をして詳しく教えてくれなかったからつい気になってしまって」
罪悪感のおかげで少し冷静になった頭で必死に考えてルミアを擁護するような言い訳をする。
俺の言い訳を聞くとオーフィアスは俺にに問う。
「あまり詳しく聞けなかったのか?」
「はい、魂を呼び出す魔法があるということくらいしか」
「そうか。だがな、それはとても危険な魔法なんだ。間違ってもお前たちに危ない目に遭ってほしくはねぇ。だからルミアもお前に詳しく教えなかったんだ。記憶がなくてそれを補おうと熱心に学ぶのは大いに結構だ。だがな、世の中には知っているというだけで命を狙われるようなことも沢山あるんだ。んで、これもそのうちの一つだ。わかるな?」
「はい」
どうやらこの話はタブーらしい。
これ以上話が長引いてしまうとボロが出るかもしれない。
俺は素直に返事をする。
「俺たちのように自分の身を守る力があるのならそういったものに手を出してもいい。だがお前たちは自分の身を守る力はまだねぇ。お前たちを守るのはお前たちを引きとったの義務だがさすがに四六時中お前たちを守ってやることは不可能だ。どうしても知りたかったらせめて力をつけてから自分の責任で知るんだ。いいな?」
「はい、すいませんでした」
俺も迫真の演技で謝る。
「いや、勉強熱心なのはいいことだ。今回は内容が内容だから注意したがお前のその姿勢が悪いわけじゃないんだ。謝る必要はない」
オーフィアスは慣れたような雰囲気で俺に優しく諭す。
「それからルミア、マズイことを教えそうになったのは良くないが勢いに流されず気づいて踏みとどまったのは立派だ。今回のことは仕方ないが同じミスは繰り返すんじゃねぇぞ」
「はい、気をつけます」
「悪いなみんな。だがいま話したとおりだ。好奇心旺盛なのはいいことだが中にはお前たちにとって害になるような話もある。極力教えないように気を配るが俺たちも人間だ。うっかりしゃべっちまうかもしれねぇ。これは危険な情報だって説明されたら素直にあきらめてくれ」
それまでのピリピリした空気を吹き飛ばすような優しい口調でオーフィアスは俺たち孤児に説明した。
俺がちびりそうになったあのゲスい笑顔で。
多分、誤魔化しきれたな。
しかしなんでルミアが俺を庇ってくれたのだろうか?
全く見当もつかない。
しかし彼女のおかげでうまくことが収まったのは事実だ。
彼女には今日一日だけで感謝してもしきれない恩ができた。
後できちんとお礼をしなければならないだろう。
俺がそう考えてながら食器を洗っているとルミアがやってきた。
「このあと、少しいいですか?」
彼女は小声で耳打ちする。
もちろんデートのお誘いなんかではないことくらいはわかる。
恐らくさっきの出来事についてだろう。
「はい、大丈夫ですよ」
「では近くの川で待ち合わせしましょう。みなさんが寝静まった頃にそこで」
「わかりました。あの、さっきはすみませんでした。俺のせいで……。それから、ありがとうございました」
「それについてもこのあと話しましょう」
そう言うと彼女は自分の部屋へ向かっていった。
どうもこの傭兵団はいろんな秘密を抱えているらしい。