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異世界なのに俺だけ魔法が使えないだって!?  作者: ヘンガン
第一章『譲られた身体』
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第一章六話『初授業』

突然だがこの世界では魔法は全ての人が使えるらしい。

そして全ての人は多かれ少なかれ魔力を持っている。

全人類が、だ。俺を除く、全人類が。


これは一般常識らしく、目の前のポルクは困った顔をしている。

魔力というのは誰もが生まれつき持っているものなのだそうだ。

量や成長に個人差はあるものの、魔力そのものがないなんてことはありえない。

ありえないはずなのだ。


そしてポルクがここまで困るのにはわけがある。

これから教えてくれる傭兵としてやっていくのに必要なことの大半には魔法を使うらしい。

いや、傭兵としてではなく普通に生きていくだけでも魔法はないと不便だという。

火を起こすのだって魔法を使う。

洗濯だって魔法を使う。


どこまでを魔法に頼るかは人それぞれだが、一切魔法を使わない人など極端に魔力が低い人やよほどの物好き以外にはいない。


これは困った。


以前俺はこの世界に大した技術力はないと考えた。

だがそれは必要がなかったからなのだ。

魔法があれば俺がいた世界のような技術力なんて必要ない。

そんなものに力を注ぐくらいなら誰でも使えてしかもさまざまな可能性を秘めた魔法を発展させた方が効率的だ。

俺以外にとっては。


困り果てたポルクは傭兵団の全員を集め事情を説明し、しばらく話し合っていた。

結果俺だけ魔法の授業の間はほかのみんなとは別メニューになった。

オーフィアスは終始疑っているような表情だったがこれが多分彼の素の表情なのだろう。


幸いこの世界には魔法をしばらく使えなくなることもあるため保険として魔法なしでも生活が困難にならない程度の技術や知識はある。

せいぜい日本の江戸時代程度のものだが何とかなるだろう。


みんながポルクから魔法を習っている間、俺はルミアから治療術や野草の知識、野宿の際の手順を教わった。

なんでも魔法があまり得意ではないためこういった知識に関してはこの傭兵団の中で一番詳しいのだそうだ。


若くて美人なお姉さんに教えてもらうなんてこの上なく興奮するし、下心がないといえば嘘になる。

だがせっかく俺1人のために時間を割いてくれているのだから妄想ばかりで全く内容が頭に入らないなんてことはあってはならない。

ルミアの時間を奪ってしまっているのだからせめて彼女には教えにきて良かったと思ってもらえるようにしなければ。



治療術や野宿については学校で習ったり、キャンプなどのレジャーで身につけた知識が役に立ち、すぐに覚えることができた。

改めて一から学ばねばならないのは野草に関してだ。

これは魔法で解毒や回復ができない俺にとって死活問題だ。

きちんと学ばねばならない。


俺はルミアの話にしっかりと耳を傾け、30分ほどで用意されたすべての野草の特徴と効果を覚えた。

俺が集中していたのもあるが、彼女の教え方も上手い。

頭がこんがらがらない程度に必要な知識だけを教えてくれる。

ひたすら板書して参考書をを読み上げるだけの退屈な講義とは大違いだ。


「今回用意したこれらは基本的に探せばどこにでも生えています。でも場所によってはその地方独特の野草も多々あります。そういったものは地元の住人に聞くなどして安全かどうかを確認してから使用するようにしてください。」

「はい」

「いい返事です。それでは今日学んだことを確認するためにテストをしましょう」

そういって彼女は今日習ったことに関する問題を20問ほど出してきた。

俺は出された問題全てに難なく答えることができた。

答え終わると彼女は満足そうな顔で微笑む。


やばい。ドキッときた。ただでさえ美人なのにこの笑顔は反則だろう。

しかもその笑顔は今、俺1人に向けられているのだ。

これだけでもこの世界に来た意味は充分にあるじゃないか。

ロウズ、魔法が使えないってだけできつくあたってごめんな。

この笑顔を見れたのはお前のおかげだ。


「合格です。あまりにも出来が悪ければ痺れ草でも飲ませて簀巻きにして明日まで外に放置するつもりでしたが心配要りませんでしたね。」

うわぁ、ちゃんと聞いといて良かった。

「笑顔で随分鬼畜なこと言いますね」

「ふふ、冗談です。さすがにそこまではしませんよ。ですがそれほど大切なことなので忘れないようにしてください」

どこまではするのだろうか。

いや、これからも真面目に授業を受ければ大丈夫だ。優しいルミア像を崩さないためにも聞かない方がいい。


「わかりました」

「何か質問はありますか?」

「じゃあ、すり……、いや、かれ……違う」

危ねぇ、教育実習で来た女の先生をからかうノリじゃねぇか。

スリーサイズも彼氏いますかもアウトだ。

簀巻きで明日まで外に投げ捨てられるかもしれない。

「えっと、……ルミアさんは何歳なんですか?」

だからなんで教育実習生のノリなんだよ!ごめんなさい簀巻きにはしないで。

いや、それはそれで興奮するかもしれない。

むしろ綺麗なお姉さんに簀巻きにされるのは本望だ。全人類がそうであるはずだ。


「16です。ですが女性に年齢を聞くのは失礼にあたるので気をつけてください」

そう言う割に別に腹を立ててはいないようだ。

なんだ簀巻きワンチャンあると思ったのに残念、ではないぞ。これで良いのだ。


「意外と若いんですね」

あ、やべえ失礼のオンパレードだ。

簀巻きワンチャン再び。


「あ、いや、まだ若い割にしっかりしてるなって意味で…」

しどろもどろで言い訳する。

「悪意がないのはわかるのですがそれも相手を不快にさせますよ」

「はい、すいません」

「よろしい。じゃあ今日はひとまずここまでです」

「はい、ありがとうございました」


ルミアは失礼なことを言いまくるクソガキに最後まで笑顔で対応してくれた。

やはり16歳とは思えないくらいしっかりしている。


なにはともあれこうしてこの世界での最初の授業が終わったのだ。

そして俺は今まで感じたことのない達成感を味わっていた。

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