第一章五話『魔法』
俺は魔法が使えなかった。
まず今日は最初に魔法を教えてくれることになった。
もしかしたらと期待していたことは言うまでもない。
前もって知ってはいたが本当に使えないという現実を突きつけられるとやはり少しショックだ。
だがこれでロウズの話は本当だったということになる。
ポルクが言うには才能がないというより魔力そのものがないらしい。
努力でなんとかできる次元ではないとのことだ。
少し、魔法について教わったことを説明しようと思う。
今この世界で使われている魔法というものは昔使われていた魔法のほんの一部らしい。
というのも昔は魔法というのは十人いれば十通りあったらしく、人によって使う魔法の系統も方式もてんでバラバラ。
何よりも魔法使いというのは何年も修行してやっとなれる珍しい存在だったそうだ。
それ故に当時の魔法使いの数はせいぜい数万人程度。
ちなみに当時の全世界の人口は10億人程だったらしく、魔法使いは相当貴重だったことがわかる。
しかも魔法使いは人に魔法を教えることはほとんどしなかった。
自分が血の滲むような努力で手にした魔法が昨日今日来たひよっこが簡単に使えてしまったらたまったものではないだろう。
しかしそこにあるきっかけが訪れる。
魔王の降臨だ。
当然実力のある魔法使いたちは魔王に果敢に挑んでいった。
だが相手は何千万もの魔物を束ねる魔物の王だ。
せいぜい数万人しかいなかった魔法使いたちは多勢に無勢であっという間に数を減らした。
生き残った魔法使いは死んでいった魔法使いたちの穴を埋めるため、魔王を倒し世界に平和ををもたらすために自分たちの技術を出し合い、魔法を簡易化し、現在の魔法を作った。
結果魔法は質が少し落ちたものの十分に戦力になり得る技術として広まった。
なぜこのようなうんちくを語ったのかというと俺が魔法を使えないのはどうも魔法を簡易化した際に体内の魔力を使う方式にしてしまったせいらしい。
ロウズの話ではこの身体は俺の魂を引き寄せた魔法の代償で魔力が全くないということになる。
魔力は普通なら時間とともに回復するらしいがそれすらしていない。
魔力の使いすぎた際の症状についても聞いてみたが例え魔力が底をついたとしてもせいぜい2日か3日、長くても1週間ほど魔力が回復しなくなる程度だという。
2日から1週間というのは使う魔法の消費魔力や本人の魔力の総量によってまちまちだからだそうだ。
ロウズ曰く俺は一生魔法が使えない。
多分異世界から魂を引き寄せるには莫大な魔力をつかうのだろう。
そんな魔法をまだ魔力総量が少ないこの身体で使用すればたしかに一生魔力が回復しないとしても不思議ではないのかもしれない。
だが疑問だ。
どうしてロウズはそこまでして俺の魂を引き寄せたのだろうか。
ここまでの代償を払ったのだとしたら何かしらの重要な意味があるように思える。
……いや、俺が考えてもわかるはずもない。
今度会った時にでも聞けばいい。
だが収穫がなかったわけではない。
俺は今の魔法使いが使う魔法は使えないが[外法]と呼ばれる技術なら使えるそうだ。
詳しいことは省くが外法とは魔法を簡易化する際に抜け落ちた、あるいは使えた魔法使いたちが全員死んでしまったかで伝わらなかった魔法のうち、自分の体の外の魔力、すなわち自分のものではないを使用する魔法だ。
といっても簡易化されたときに省かれたのなら相当難しいのだろう。
使えた魔法使いが全員死んでしまったのなら下手をすれば現在使える魔法よりも劣るかもしれない。
そんなものを身につけるよりだったら剣や弓だけ絞った方が効率がいいだろう。
武器の使い方や技術はみんなと一緒に教えてもらう。
ポルクが魔法を教えている間はトレーニングや自主練なんかをしていればいい。
物覚えがいい今のうちに体に動作を叩き込んでおいて損することはないはずだ。
回復魔法が使えなくても治療はできる。
攻撃魔法が使えなくても武器を使えばダメージはあたえられる。
魔法は万能だが何も魔法だけが全てではないのだ。
魔法が使えないなりの戦い方を身につければいいだろう。
外法に興味がないわけではないが命をかけるほど魔法を使いたいとは思わない。
それに強くなるための方法がより明確になったと思えばいいのだ。