第一章四話『所有権』
目覚めた。
何もない空間だ。
周りの色さえ識別できない。
これが無というものなんだろうか?
本当に何もない。
否、目の前に光る玉がある。
死んだのか、俺?
『死んでないよ』
……ッ!?
なんだ?なになに?俺の声じゃん!
正確にはこの体の声だけど。
『そうそう、それだよ。僕はその身体の持ち主だよ』
は?え?何?このタイミングで?
死ぬわけにはいかないとか決意固めて死を覚悟したタイミングで?
やっぱりそんな体たらくじゃ俺に身体は預けられないとか?
まぁ確かにね、いいよ別に。
この身体もともとは君のなんだから。
『もう僕のじゃないから取り返したりとか考えてるわけじゃないけど、そんなに要らないの?』
へ?もう僕のじゃないってどういうこと?
『君にあげたんだよ』
え?身体ってあげたりできるものなの?
ってかいいの?親からもらった大事なものでしょ?
『その親はもういないんだ。それに僕なんかよりも君の方が大切に使ってくれそうだしね。僕はさ、君に体を譲る前、死のうとしたんだ。けどたまたまその身体を有効活用してくれそうだった君が見えたから君の魂を引き寄せて譲っただけ』
魂引き寄せるっておい。とんでもないことのたまうガキだな。
つかそれ、俺の魂は拉致られたってことですよね?
それよりもその歳で自殺考えるっておい。
まだまだもっと楽しいこといっぱいあるだろうに。
『君が言うのかよ』
少し不満げな声が伝わってきた。
なんだよ、今の俺はこんなにも希望に満ち溢れているのにその言い方じゃあまるで俺も自殺を考えていたみたいじゃないか。
そんな記憶ないぞ。
まああまり深く考えすぎないようにしよう。
俺はこの少年のご好意で身体をもらった。
乗っ取ったんじゃない、受け継いだと表現するのが正しいだろう。
それに明日からは魔法が習える。待ってろよマ●ンテ!
『あー、盛り上がってるところ非常に言いにくいんだけどさ、その身体、魔法が使えないんだ』
へ?ウソだろ……
『いや、ホント』
……なんで?
『いやね、魂を引き寄せるのってバカにならない魔力を消費するんだよね。まだ幼くて大して魔力もない身体でそんな燃費の悪い魔法を使ったんだ。そりゃあ何しらのか代償はあるでしょ。今ここで君が僕の身体にいるのも結構奇跡なんだよ。まぁせいで多分魔法は一生使えないんだろうけど』
ねぇ今さ、一生っつった?
『うん』
使えないの?
『多分ね』
俺、何のために異世界まで来たの?
もとの世界に返せよ。
『……』
沈黙が続いた。
なんとなくだけど光の玉も居心地が悪そうだ。
割と泣きそうだ。
今ちょっと涙目かもしれない。
『まあそう落ち込まなくてもさ、何もこの世界は魔法だけが強いわけじゃないんだ。剣だって弓だって練習を重ねれば一流の冒険者になれるんだ。魔法ができない分ほかの練習に時間を当てればいいじゃないか』
そうだけど、そうだけどね、そうなんだけどね。
魔法で派手にバーンってドーンってやりたいじゃん。
夢があるじゃん。
『いや、ほら、剣だってかっこいいじゃん。おっきなドラゴンに剣一本と鍛え抜かれた己の肉体だけで立ち向かうとかすっごくワイルドじゃん。一瞬の油断も許されない剣士同士の勝負で相手の技を見切ってその刹那の隙に必殺の一撃を叩き込むのなんて最高に痺れるだろうね』
そ、そう?
確かに向こうの世界では剣だって持ち歩くだけで捕まっちゃうもんね。
剣士だって異世界ならではだ。
でもさ、剣士ってそんなにかっこいい?
『かっこいいよ!いやぁ、きっと君の戦いぶりを見た女の子たちは君にメロメロだろうなぁ。そんな剣士が道場なんて開いちゃえばそりゃあもう門下生なんてわらわらで億万長者にだってなれるかもしれない』
やっちゃおうかな。俺剣士になっちゃおうかな。
女の子にモテモテ。
億万長者でウハウハ。
いいねやっちゃおうよ。
『ちょろいね』
あ?今なんつった、おい?
『ま、まあ、魔法が使えないくらいでそんなに気を落とさないでよ。じゃあまたね』
お、おい。待てよ、お前。
『君が目覚めるまであまり時間がないんだよ。でもまた会えるから。それから僕はお前じゃない。僕の名前はロウズだよ。ロウズ・アゼマー』
ロウズがそう言うと光る玉と俺がいた空間は消えていった。
再び目が覚めた。
昨日横になっていたベッドの上だ。
昨日の不思議な出来事とさっきの夢、それにあの水面に映ってた不気味な俺。
いったいなんだったんだろう。
いや、あまり深く考えすぎるのはよそう。きっと全部夢だ。
魔法が使えないとかどうせ今日でホントかウソかわかるんだ。
ウソだったら魔法使いライフを楽しめばいい。
もしホントだったら剣士にでもなればいい。
ロウズの言うとおり、魔法使いだけが傭兵じゃない。
前向きな気持ちで俺はベッドから起き上がった。
身体をあげるって表現ちょっと卑猥だけどBL展開なんかないんだからね!