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異世界なのに俺だけ魔法が使えないだって!?  作者: ヘンガン
第二章『魔王と傭兵育成学校』
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第二章番外編『我はこの人間に恋をした』

「お嬢ちゃん一人かい」

親切そうな壮年の男が我に問う。

我は今、ベルラルドのはずれにいる。

ここから馬車でこの街を出るつもりだ。あやつらは迷惑をかけすぎたからな。

これからも我が近くにいるともっともっと迷惑をかけてしまうかもしれない。


「うむ。一人だ」

「お金はあるのかい?」

「あるぞ。足りるか?」

我は靴磨きや露店の手伝いでもらった金を渡す。

「行き先にもよるけどどこに行くんだい?」

「この国から出たい」

「うーん……この国から出るとなると少し足りないかなー。別にまけてもいいんだけどこれしかお金がないならここを出たあとにどうやって生活をするんだい?」

「なんとかする」

「なんとかっていってもねぇ……。おじさんも一応客商売だからお客さんに野垂れ死なれるのは困るんだよねぇ」

「ダメか?」

「ダメだね」

「そうか、時間を取らせてすまぬな」

「これも仕事だからいいよいいよ」


人間とは基本的にいいやつばかりだ。

さっきの男のように大抵の人間は他人を気遣うことができる。

それに比べて魔族は常に相手を出し抜くことばかり考えている。

我もそうだったし我を封印してしまった部下たちも自らが魔王になるためだったら手段を選ばなかった。

だから我は人間が好きだ。


そしてこの国では我の宝になるであろう友を見つけた。

三度の人間の友だ。


最初の友は我に人間の素晴らしさを教えてくれた旅人だ。

もう千年以上昔のことだが忘れずに覚えている。

やつのおかげで我は滅ぼす対象であるだけの人間に価値を見出すことができた。


二度目の友は二百年前に我を倒しに来た勇者たちだ。

我はこの頃戦争に明け暮れる人類に宣戦布告をした。

魔王という脅威として君臨することで人間たちに互いに争うのをやめてもらうためだ。

最初は小さな村を狙い、住民を全員避難させた上で攻め込んで少しずつ恐怖を与える予定だった。

しかし調子に乗った部下たちは我の指示も聞かずに大きな国に攻め込んだり人々を虐殺したりした。

我はもはや飾りで配下の上位魔人たちが実質指揮を執っていた。


そんな中魔王である我を討伐しに勇者がやってきた。

我は彼らを必死に説得して配下の上位魔人たちを止めるために協力を取り付けた。

今思えばよく成功したものだ。

勇者たちと力をあわせてなんとか奴ら全員を封印することができた。

まあ勇者たちの一人を庇って我が封印されてしまったのは誤算だったが。


そして三度目の友。

ノインとフラヴィ、そしてクサカマコトだ。

あやつらは我のワガママを叶えようとしてくれた。

人間の世界に溶け込んで人間として生きる。

魔王に生まれた我には叶わぬであろう夢を笑わずに叶えようとしてくれた。

嬉しかった。

人間を好きで良かったと思えた。

最後は我のせいで台無しにしてしまったことが本当に申し訳ない。

何も言わずに出てきたことも少し心残りではある。

だが我のワガママにあやつらの人生を費やさせるのはダメだ。

今生の別れになるだろうが我はあやつらという友のことを絶対に忘れない。


しかし金がなければこの国から出られないというのは少し困ったな。

時間をかければ稼げるのだろうがあまり長い間ここにいるとあやつらに見つかるかもしれぬ。

記憶を消しておるが我を見たら思い出すかもしれぬからな。

ふむ、どうしたものか……。


くうぅぅぅぅぅぅ


腹が鳴ってしまった。

急いで飛び出したものだからここしばらく何も食べていなかったな。

しかし飯を食うのにも金がいる。

これでは稼いでも稼いでもすぐになくなってしまうな。

食い逃げでもしようか……ダメだな。

マコトたちにもうしないと約束した。

腹がすいても友との約束を破るほど落ちぶれてはいない。


「おい、探したぞ」

そんな声が聞こえた。

誰に向けられた声なのかはわからない。

でも我に向けられた言葉でないのだけはわかる。

我に関わった全ての者の記憶を消したのだから。

「無視かよ」

誰だかわからんがさっさと返事をしてやるがいい。

「おいってば!」

足音が近づいてくる。

そしてその声の主に手を掴まれた。

驚いて後ろを振り返る。


「ほら、帰るぞ。腹減ってんだろ」

マコトだった。


なんで来たのだ。これ以上我に関わってもろくな事がないというのに。

「人違いではないですか?」

我は冷たく言ってマコトの腕をふり解く。

そして走る。マコトが我を見失うように人通りの多い道を選んで逃げる。


身を隠すために裏路地に入る。

撒けただろうか?


「ったく、逃げきれると思うなよ?」

撒けていなかった。

また逃げようと振り返る。

が反対側にはフラヴィとノインがいた。


なぜじゃ?こやつらの記憶はきちんと消した筈なのに。

「さっきからなんなんですか?人違いだと言ったじゃないですか」

「そんなしっぽに中途半端な角の魔王様を間違えるわけないだろ」

「片方をへし折ったのはお前だろ!……はっ、しまった!」

我としたことがうっかりボロを出してしまった。

というかあれはほんと危なかった。

なんなんだあれ?えぐい角度にえぐい速度、えぐい重さの三拍子揃った一撃だったぞ。我じゃなきゃ頭蓋骨陥没してただろう。


「なんでいなくなった?」

「……主らに迷惑をかけると思ったからじゃ」

「迷惑って何?わたしはそんなこと思ってなかったよ」

「ノインもランヴァルちゃんといて楽しかったよー?」

「で、でも、我のせいでマコ――ロウズは暴走してしまった」

そうだ。我がワガママを言わなければあの試験は何事もなく終わったのだ。


「止めてくれたのもお前だろ?どの道いずれああなってたかもしれないんだ。だからお前のおかげで俺は誰も殺さずに済んだ」

「それはただの結果だろう!あの者は我のせいで大怪我をした!我がいることで周りの誰かを不幸にしてしまう!」

「迷惑をかけて生きちゃだめなのか?俺だってフラヴィだってノインだって生きてく上で誰かに迷惑をかけるぞ?それがそんなにいけないことなのか?」

「だって、我は魔王だから人間に迷惑はかけられない」

「お前と俺たちで何がそこまで違うんだよ」

「角やしっぽだってあるし寿命も違うし力だって我の方がずっと強いんだぞ?」

「そんなもんかよ」

「そんなもんって……」

「腕が千本生えたりしないのか?」

「全身が目玉で覆われたりは?」

「お城よりも大きくなったりできないのー?」

「そんなことできるわけがないだろう!」

こやつら我をなんだと思っておるのだ!たしかに魔人の中にはそういう姿のやつもいたが我はこれが本来の姿だ!


「なら大したことないじゃんかよ」

「でも我は……」

やっぱり魔王だから。


「ああもううるさい!」

フラヴィに抱きしめられた。

我より何百歳も年下のくせに。

でも涙が溢れてきた。


「ほら、帰るぞ」

「……う"ん」

そのまま泣いた。

本当は追いかけてきてくれて嬉しかった。

帰ってこいって言われて嬉しかった。

必要としてくれて嬉しかった。

フラヴィに抱きしめられて嬉しかった。

ノインが頭を撫でてくれるのが嬉しかった。


そしてなによりもマコトの大事なものの中に我が入っていたのが嬉しかった。

我のために本気で怒ってくれたのが嬉しかった。


我はこの人間に恋をした。

第二章はここで終わりです。

しばらく休みたいです。

次は一週間後くらいで。


あと感想とか評価とか心待ちにしてます。

もうけちょんけちょんにけなしてください!

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