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異世界なのに俺だけ魔法が使えないだって!?  作者: ヘンガン
第一章『譲られた身体』
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第一章九話『2人の異世界人』

「今から僕が話すことを信じてくれるかどうかはルミアさんにお任せします」

俺はそう前置きをする。

「信じますよ。それからどんな内容だったとしても私は君の味方でいるつもりです。安心してください」

嬉しいことを言ってくれる。


「僕、いや、俺もルミアさんと同じ世界かはわかりませんが、異世界からここに来ました。記憶もあやふやで、覚えてないことも結構ありますが俺はサラリーマンをしてました。あ、サラリーマンっていうのはですね……」

「わかりますよ。私の世界にもあった単語です」

どうやらサラリーマンは通じるらしい。

だがあまり具体的すぎる単語だと伝わらないかもしれない。

少し気をつけよう。


「俺が最後にどんな状況でこっちの世界に来たのかは覚えてません。でも俺が最初にこの世界で目覚めたのは牢屋から出て皆さんと顔を合わせた日です」

「確かにそうみたいですね」

「え?それはどういう……」


彼女はロウズという少年がここに引き取られたとき、オーフィアスに対してえらく敵愾心を持っていたということを話してくれた。

今にも襲い掛からん勢いだったため、落ち着くまで牢に入れられていたらしい。


ところが俺が目覚めた日、今までの態度とは打って変わってオーフィアスの話に素直に耳を傾けたんだそうだ。

まるで人が変わったかのように。


だからオーフィアスは俺が記憶喪失だとか魔法が使えないと聞いたときに微妙な表情をしていたのだろう。

うん、辻褄も合う。


「あの、俺が異世界の住人だっていつから気づいていたんですか?」

「一応、オーフィアスさんの話を聞いたときです。でも気づいたと言ってももしかしたら、程度ですよ。でも今日の夕食の出来事でもしかしたら、から多分に変わりました」

「確信はなかったんですか?」

「本当に記憶を失っている、という可能性もありましたから。でも思いきって聞いてみて良かったです」

「もし本当に記憶を失っていただけだったらどうするつもりだったんですか?結構まずいことも教えてくれちゃってましたよね」

「そのときはそのときでもう一度記憶喪失になってもらうつもりでしたが」

「またまた物騒な」

「冗談ですよ」

彼女はそう言うとまた微笑む。

可愛い。じゃねえ、危うく大事なことを忘れるところだった。


「あの、ところでここに呼び出した理由って他にもあるみたいな言い方をしてましたよね」

俺がそういうと彼女は思い出したようにこっちを見ると顔を赤くして目を逸らしながら言う。


「いえ、それは、その、ですね、8日前の夜にもロウズさん、ここに来てましたよ、ね?」

何やら気まずそうに言う。


え?あれは夢じゃないのか?

おかしい。朝起きたら俺はいつも通りベッドの上で寝ていた。

だが彼女が嘘を言っているようには思えない。


仮に嘘じゃないとしても、まさか見られていたのか?

いや、待てよ。

8日前といえば見張り当番はルミアだ。

彼女が外に出ていく俺を見ていたとしても別に不思議ではない。

そしてここに来たことを知っているということは心配して後をつけてきてくれたのだろう。

本当に彼女には感謝してもしきれない。

まるで天使じゃないか。


しかしどう説明しようか。

なんとなく川に来たら水面に死人のような顔をした俺が映っててびびって気絶した、なんてちょっと恥ずかしいし、そんなオカルトすぎる話、信じてくれないかもしれない。


言うか言わないか迷って俺が黙り込む。

「いえ、いいんです。無理に答えなくても。わかってますから。変なことじゃないです。普通ですから。私だって何度かここで……」

なんかすげぇ気を遣ってくれているのがわかる。

なんていうか、ホモ疑惑がかけられた時の友達の俺そういうのにも理解あるから、差別とかしないからみたいな感じの反応に似ている。

生暖かさを感じる優さだ。

十中八九誤解されているだろう。


「あの、ルミアさんは俺が何してたと思ってるんですか?」

俺がそう聞くと彼女は真っ赤になりながらえー、とかあー、とか唸る。

そして意を決したかのように口を開いた。

「そ、その……、じぃ……こぅぃ……をしていたんじゃ、ないかと。そ、そのあとここで寝てしまっていたので私が部屋まで運んだのですが……」

「は?」

俺は固まった。


「い、いえ、大丈夫です!さっきも言いましたがその、全然普通ですから!むしろ溜めるのは体に良くないと聞きますし、ロウズさんも精神年齢的にはもうそういうことをしてもおかしくないですし、いいんです!誰にもいいませんから!私の胸に秘めておきますから!嘘じゃないですよ!信じてください!わかりますから!わかるんですよぉ!」

後半は彼女には肩を掴まれてブンブン振り子のようにされながら聞いた。


とりあえず8日前の出来事は夢じゃなかった。

そして彼女は気を失った俺を部屋まで運び、俺はいつものようにベッドの上で目覚めた。


それはいい。

やっぱりルミアは天使だったんだ。

だが残念なことにどうやら彼女は俺がここで自慰行為をしていたと思っているらしい。

俺がもとの世界で大人だったと聞いて尚更確信を持たせてしまったのかもしれない。

そして彼女の恥ずかしい秘密もどさくさに紛れて暴露させてしまった。

そうかー、ルミアさんもここでねぇ。

いや、あとで覗きに来ようとか思ったりもしているが今はいい。

思わぬ収穫だったが今はいい。


彼女の考えすぎかもしれないが、自分も経験があるとすれば同じことをしているのかもと思考をつなげてしまうかもしれない。

というか夜中に人気のない場所でしばらくしゃがみこんでいきなり倒れて寝始めたのなら彼女じゃなくても自慰行為のあと疲れて寝落ちしたと誤解するかもしれない。


だがびびって失神なんてことよりはるかに恥ずかしい方向に誤解されてしまっているというのは不名誉だ。

ちょっと恥ずかしいなんて理由で言い出せなかったせいで思春期男子がオナニーを家族に見られちゃった感じのしばらくお互い気まずい状況になっちゃうパターンじゃないか。

……やっぱり素直に話した方が良かったのか。


俺は8日前ここで起こったことを全てに彼女に話し、彼女の誤解を解いてから2人でアジトまで戻った。

彼女は最後まで顔を真っ赤にしたままだった。

そりゃあそうだろう。

たまに自分はここでオナニーしてますって宣言したようなものなのだから。

だが安心してくれ。

彼女が俺の自慰行為のことを秘密にしていてくれようとしたように俺も彼女の自慰行為のことは墓まで持っていくことにする。


まあ、ときどき覗きには行くのだが。

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