電話
なんか長いです。
「・・・うん、うん、それじゃあ・・・おやすみ」
ピッと、確認音が部屋に響いた。
季節は初夏。梅雨全開。窓の外は大雨が降っている。
今の私も、心の中は土砂降りだ。
3月の第1土曜日。
携帯の音楽が部屋いっぱいに溢れた。
電話は彼からだった。
「俺・・・大学、受かったよ」
私の彼氏は、東京の有名な大学に合格した。
もちろん私にとっても嬉しい知らせだったが、彼と離れてしまうと思うとどうしても、心からは喜べなかった。
私と彼は、同じ日に同じ病院で生まれた。
何かの縁があったのだろう。家も、九州の田舎で隣同士だった。
小さな頃はよく遊んだし、ケンカだってたくさんした。
兄妹のように慕ってきた彼が、いきなり遠くへ行ってしまう。
私は、絶望した。
「それじゃあ、行ってきます」
「・・・・・・うん」
彼を見送る日。私はろくに眠ることが出来なかった。
「泣くなよ」
そういうと彼は私を軽く抱きしめた。
「泣いてなんかないよ・・・」
本当に泣いていないか不安だったから、目元に触れながら答える。
「そっか?俺には泣いているように見えるけど」
あぁ、そうだ。
涙なんて流れてはいない。
それでも、彼は私が泣いているのがわかるんだ。
それだけじゃなく、彼は例え、目が見えなくとも私の表情がわかるのだろう。
「美羅は泣き虫だから心配だな」
頭上から、優しい彼の声が降ってくる。
「・・・・・・・・・」
「行ってきます」
私を抱きしめる手を解くと、彼は電車に乗った。
「・・・・いってらっしゃい、真悟」
私は、出来るだけ明るく笑った。
「おう!」
彼も、明るく笑って答えてくれた。
愛しい彼の笑顔がこれからしばらく見られないと思うと、余計に目頭が熱くなった。
最初は、狂ったように大泣きして大変な毎日だったけど、一ヶ月くらいすると少しだけ慣れたのか、さすがに泣き叫んだりはしないようになった。
それに、彼が大学の寮に住み始めた頃からは、寝る前に携帯電話で30分だけ話すことが日課となった。
時々、発作のように無性に逢いたくなるけれど、この電話のおかげで平常心が保てている。
窓の外から聞こえる雨音を聴きながら、意味もなく携帯を開いた。
待ち受けは当然、愛しい彼氏とのツーショット。
この時の私は、彼とずっと隣り合って幸せに生きていけると思った。
人は『たった4年』と口をそろえて唱えるが、そのたった4年間が私を苦しませるのだ。
先程も言った通り、この電話は私の平常心を保つもの。いわば薬だ。
私の命を左右するものといっても過言ではない。
それなのに。
「なんで・・・!?」
7月の出来事だ。
彼が電話に反応しなくなった。
こんなことは初めてだった。
たまに電波障害か何かで繋がりにくい時はあったが、操作ができないわけじゃない。
雪だってめったに降らないから、大雪で繋がらないわけじゃない。
ただ単に、相手が出ないだけ。
「どうして・・・、昨日までは確かにっ・・・」
一気に不安になって、無意識に涙がこぼれ落ちる。
あぁ、ほらまただ。
電話に出ないというだけで。こんなにも苦しい。寂しい。
死んでしまいそうだ。
そんな現象があってから一週間が経った。
未だに彼は電話を無視し続けている。
私はというと、暇さえあれば携帯をいじって彼からの連絡を心待ちにしていた。
これまでに何回も電話をしたし、メールだって数十件も送った。
それなのに。彼は反応してくれない。
ただでさえ表情が見えない会話なのに。
彼の優しい声が聴けないだけで。
私の胸は締め付けられる。
逢いたい。逢いたいよ。
次の日の夜。
彼から電話があった。
だけど・・・彼の携帯からじゃなくて、公衆電話から。
理由はすごく簡単。
携帯を、水の中に落としたのだ。彼の携帯は防水機能が付いていなかったのだ。
で、故障したままの携帯をそのまま一週間持ち続け、連絡にも気付かず応答しないで過ごしていたそうだ。
そこまでの話は聴いていた。
久しぶりの彼の声が聴けて嬉しかったし、彼が元気そうで安心した。
だけど。
あまりにも。
酷いではないか。
「・・・一週間、何してたの」
言い表すことのできない怒りで体が熱くなるが、やっとのことでこれだけ絞り出した。
「え、レポート・・・」
なんということか。
彼は私のことを忘れて、大学に提出するレポートを書いていたのだ。
これは彼女としては許せないことだった。
「私のことは?」
「・・・え?」
「私のことは忘れて、レポートやってたの?」
「そんなことっ・・・」
「私がっ・・・どれだけ不安だったか・・・わかる!!?」
あまりの怒りで後半の声が裏返ってしまった。
それだけ怒ってるってことだ。
「電話はくれない、メールも返してくれない、真悟に何かあったんじゃないかって・・・ずっと心配してたのに!!・・・なのにレポート!?」
「ちょっ・・・美羅っ・・・?」
「たかがレポートでしょっ!!?そんなに単位が欲しいの!?」
自分の内に溜まっていた言葉でまくしたてる。
自分で言っておいて涙が溢れる。
「・・・おいっ・・・・・・!!」
「私より勉強の方が大事なんでしょっ・・・!!」
「いい加減にしろよ」
ビクン、と自分の身体が跳ねたのがわかった。
静かだが確かに怒気を含んでいる声が耳に響いた。
こんな声を聴くのは初めてだった。
ケンカはたくさんしたが、彼は本気では怒らなかった。
だけど。
今回は、本気だ。
表情の見えない声だけでの会話なのだが、電話の向こう側にある彼の・・・彼の激怒する様子が見えた気がした。
「お前より勉強の方が大事だ・・・?馬鹿げたこと言ってくれんじゃねぇか」
明らかに今までと口調が違った。
きっと、怒るとこんな風になるのだろう。
「俺は片時もお前を忘れたことねぇし、むしろお前の言う大事なお勉強の時だって、ずぅっとお前のこと考えとるわ、バァカ」
乱暴ではあるが、気持ちのこもった言葉だ。
「だからぁ・・・その・・・自分にもっと自信持っていいんだからさ・・・えぇと・・・」
今更バツが悪くなったのか、段々言葉が途切れ途切れになっていく。
「あんまさ、マイナスの方向にばっかり考えなくてもさ・・・・・・」
そこで、遂に言葉が切れてしまった。
「・・・・・・」
待ってもなかなか続きがこない。
「しんg・・」
声をかけようとしたその時。
「俺はお前のことが大好きだからっ・・・!!」
突然の告白だった。
「っ・・・・・・!」
それは思ってもいなかった、それでいて一番欲していた言葉だった。
「わっ、わた、私も!!私も・・・真悟が大好き!!」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・?真悟・・・・・・?」
「わっ、悪い・・・嬉しくって・・・」
照れている。
声だけだが、明らかにこれは照れている。
自分の精一杯の言葉で、相手を幸せに出来ている。
それはとても嬉しいことだった。
でも、その喜びは次の瞬間に罪悪感へと変わった。
「・・・ごめんね、真悟」
「こっちこそごめん、早めに携帯変えるよ」
「・・・うん」
「どんなのがいいかな、スマホとかにしようかなぁ・・・」
「あれがいいよ、防水付いてるやつ」
「そうだな、そうするよ」
ハハ、と彼が笑う。
「あ、明日も電話してね・・・?」
「うん、寂しい思いさせてごめんな」
「ん・・・」
「じゃ、また」
「またね・・・おやすみ」
「おやすみ、ちゃんと寝ろよ」
「わかってるって」
「・・・美羅」
彼の口調が改まる。
「何・・・?」
「もう少し待っててな」
それはきっと大学の期間のことだろう。
「・・・うん、待ってるよ」
「じゃ・・・おやすみ」
「おやすみ」
ツーツー・・・と単調な機械音だけが耳に残った。
「・・・・(俺はお前のことが大好きだから・・・か)」
今頃になってすごく照れる。
顔に触れると、火傷しそうなくらい熱かった。
色々大変な事があった一週間だったが、無事に終えられて良かった。
そう思いながら今夜は床についた。
翌日。
40度を超える熱で倒れた。
もしかしたら昨夜の熱もこれが手伝っていたのではないか。
高熱にうなされながら、そんな疑問が脳内を駆け巡っていた。
真相は誰も知らない。
それでも薬である電話はちゃんと応答した。
直後に熱は下がってしまった。
本当に薬なのかもしれない。
***
時は少し戻って・・・真悟サイド
久しぶりに電話をしたら、美羅はご立腹だった。
寂しい思いをさせてしまったのだろう。
罪悪感でいっぱいだった。
しかもすごく感じ悪く怒ってしまった。
一週間応答しなかっただけであんなに怒るってことはそれ程俺を想ってくれているということなのに。
穴があったら入りたいくらいだ。
「(もう別れたいとか言われても、しょうがないな・・・)」
そう思った矢先、告白を告白で返してきた。
嬉しかったし、正直こんな返事が返ってくるとは思わなかった。
照れるわ、顔は真っ赤ですごい熱いわでやばかった。
死ぬほど嬉しいと思った。俺、幸せだな。
美羅は遠距離恋愛を嫌がっていたけど、俺はそれほど嫌いじゃない。
確かに逢えなくて寂しいけれど俺はあいつの表情がわかる。
だからそんなに寂しくない。
だから、その自分だけの安心感が今回の過ちを招いたんだ。
俺に見えていてもあいつには見えていない。
相手の気持ちを考えていなかった。
自分に見えるものが相手にも見えていると思っていた。
だから相手を傷つけてしまったんだ。
それでもひとつだけ得をしたことがある。
電話で会話していたから、照れた顔をあいつに見られなくて済んだ。
美羅のことだから、絶対にからかったはずだ。
きっと気付いていない・・・はず。
不謹慎だけど、そこだけは本当に良かった。
それに30分だけの電話なら、その間だけ俺だけを見ててくれるだろう?
だから、遠距離恋愛だって悪いことづくしじゃないと俺は思うわけなのだった。
こんなに長い小説書いたの初めてかもしれない。
自分でもビックリです。
遠距離恋愛・・・(笑)
恋愛自体したことない私が書いたんで、おそらく所々おかしい部分があるでしょう。
目を瞑って見なかったことにしてください・・・←
お題小説書くのも初めてですた。
それと、今日卒業式でした。
親友MとM・・・両方イニシャルMとかなんなのw
と、KとAちゃんにこの場を借りて感謝を伝えたいです。
ありがとおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!!
一万年と二千年後も愛してるうううううううううううっっ!!!
特にM。てかむーたん。