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魔王RPG  作者: 颯音ユウ


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2/3

2話 チュートリアル開始

 

【チュートリアルを開始します】


 ……空気が、ほんの僅かに“軽く”なった。


【目標:廃村の外縁を突破せよ】

【補足:権限レベルを上げると、便利機能が解禁されます】


「……便利機能、ね」


 異次元収納が死んでる時点で、

 便利の意味は分かってる。

 分かってるが――。


 俺は手持ちを確認した。

 壺の破片と、草と、硬貨と、種子。

 手元の布袋もどきは、すでに膨らんでいる。

 これだけで移動が面倒になる。

 火力は最強でも、利便性は最低だ。


 村の外れ――朽ちた杭と、

 傾いた看板の向こう。

 そこで、見えない何かに額が当たった。


 ごん。


「……壁?」


 痛みが遅れて来た。

 額を撫でると、指先に赤がつく。

 薄い。だが確かに傷だ。


「……くだらん」


 反射で回復の術式を組もうとした。癖だ。

 体が覚えている。俺は魔王だった。

 治せないはずがない。


「――回復」


【権限不足:回復系統は使用できません】


「……は?」


 乾いた拒否。

 火は出せるのに、傷のひとつ塞げない。

 この世界は、

 俺の強さの“種類”を選り好みしている。


「……便利機能ってのは、こういうのもかよ」


 血がまた一滴垂れそうになって、

 俺は苛立ちに舌打ちする。


 手元の袋を探り、

 さっき拾った草を引っ張り出した。

 厚くて、妙に艶がある――

 役に立たないと思っていたやつだ。


「……これでも当てておくか。

 せめて止血ぐらいは――」


 額の擦り傷に、葉を押し当てた。


 ひやり、とした感触。

 次の瞬間、熱が抜けるみたいに痛みが消えた。

 葉がしなって、肌に馴染む。――傷口が、閉じる。


「……治った?」


 指でなぞる。血も、痛みもない。

 俺は葉を見た。何の変哲もない草が、

 平然と薬の顔をしている。


「……薬草か。なるほどな」


 鑑定も回復も封じておいて、

 代わりに“物”に頼れと。

 ……気に食わないが、助かる。


 俺は草を丁寧に畳み、袋の奥へ戻した。

 今のは偶然じゃない。今後、絶対に要る。


 手を伸ばす。空気が硬い。

 触れないはずの“境界”が、そこにある。


【境界:通行不可】

【目標:敵性個体の撃破(1)】


「倒せってことか」


 遠くの方で、ぬめる音がした。

 枯れ草を踏むような、ぺちぺちというリズム。


 そして――


【スライムが出現した】


「……ふん、雑魚か。消し炭になれ」


 指を鳴らす。火が走る。

 スライムは言葉もなく、黒い粉になった。


【スライムが撃破された】


「弱い。相手にならんな。」


【経験値:+1】


「……この世界は、

 俺の火力じゃなくて“許可”を寄越すのか」


 黒い粉が、風に舞って散る。

 残ったのは焦げた匂いだけ。

 ――核も粘液も、何もない。


【警告:過剰火力によりドロップが焼失しました】


「……は?」

「ドロップ、だと?」


「加減を覚えろって?」


 拳を握る。火が指の間でちらつく。

 できる。加減はできる。だが――気分が悪い。

 俺の強さが、世界の都合で“損”にされる。


【チュートリアル進行:1/3】

【境界:通行条件を達成】


 見えない壁に、

 ひびが入ったように感触が変わる。

 硬さが薄くなる。押せば、押し返されない。


「開け」


 ――すり抜けた。

 世界の外側へ、一歩だけ滑り出す。


 境界の向こうは、道だった。

 踏み固められた土。車輪の跡。


 人が行き来する“気配”だけが残っている。

 だが、人は見えない。音もしない。

 代わりに、またログが鳴る。


【新規エリア:街道(未登録)】

【目標:拠点を探す】

【注意:権限不足により施設利用が制限されます】


「……拠点ね」


 異次元収納もない、

 鑑定もない、通貨換算もない。

 最強の火力を持ったまま、

 素手で生活を始めろと言っている。


 俺は布袋を持ち直した。重い。邪魔だ。

 それでも捨てない。

 捨てた瞬間、次の“許可”を失う気がする。


「行くぞ」


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