第4話(後):はじめてのおつかい(重装備)
「あ、そうだルミナさん。これから少し、買い物に行きませんか?」
ひとしきり喜び合った後(ルミナさんが僕の匂いを嗅ぎまくった後)、僕は提案した。
「えっ、買い物?」
「はい。着替えとか、日用品とか……。ルミナさんの服を借りるわけにもいきませんし、いつまでもこのボロボロのジーンズじゃみっともないですから」
「あー……そっか。下着とかも必要だもんね……」
ルミナさんは「下着」という単語を口にした瞬間、鼻血が出そうな顔をして天を仰いだが、すぐに真剣な表情に戻った。
「わかった。必要なものは揃えなきゃね。でも、一つだけ条件があるの」
「条件?」
「うん。外に出るなら、『完全防備』をしてもらうからね」
数十分後。
僕は玄関の鏡の前で、自分の姿を見て絶句していた。
「……あの、ルミナさん。これは……?」
「うん! 完璧! これなら野獣にも見つからないよ! 私のセンス、最高!」
鏡に映っているのは、不審者だった。
いや、不審者という言葉すら生ぬるい。
まず、頭には目深に被った黒いニット帽。顔の半分以上を覆う大きな黒マスク。さらに、目を隠す真っ黒なサングラス。首にはマフラーが巻かれ、手には革手袋。
そして服は、体のラインを完全に隠す、二回り以上大きなダボダボのダウンジャケット(夏なのに)。下はカーゴパンツで、足元はゴツいブーツ。
「暑くないですか、これ? 今、夏ですよね?」
「我慢して! 外敵から身を守るためだから!
ここには『視線』という名の毒矢が飛んでくるの! 肌を1ミリでも見せたら、そこから食いつかれるよ!
特にミナトくんの鎖骨&二の腕は、国家機密レベルの危険物だから!」
「そこまで!?」
異世界の紫外線か何かだろうか。肌に有害な光線が出ているのかもしれない。
僕は渋々、その重装備を受け入れた。サウナスーツのように暑いが、彼女がここまで言うなら従うしかない。
「あと、絶対に私のそばを離れないこと。手を繋ぐこと。いい?」
「は、はい。子供じゃないんですから……」
「ダメ! 迷子になったら一生会えなくなるよ!? デパートの迷子センターなんて行ったら、アナウンスされた瞬間に争奪戦が始まっちゃうんだから!」
ルミナさんは真剣な目で、革手袋越しの僕の手をギュッと握りしめた。
彼女は本当に僕のことを心配してくれているんだ。過保護すぎる気もするけれど、異世界の常識を知らない僕を守ろうとしてくれている。
「わかりました。ルミナさんを信じます。離れません」
「うん……! 信じて! 私が絶対に守るから!」
ルミナさんは嬉しそうに微笑み、僕の手をさらに強く握り返した。
そして、空いている方の手で、玄関のロックを解除する。
ガシュッ、キュイーン……ズズズン。
重厚なドアが開く。外の光が差し込んでくる。
僕たちはいよいよ、外の世界へと足を踏み出すことになった。
「よし、行くよミナトくん! 初デート……じゃなくて、お買い物だね!」
「はい、行きましょう」
これから向かう街中で、僕のこの格好が逆に目立ちまくり、「逆に怪しい」「あの中身はなんだ?」と衆目を集め、さらなるトラブル(と新たなヒロインたち)を引き寄せることになるなんて、この時の僕は想像もしていなかった。
――ルミナの心の声。
(ふふふ……これだけ隠せば大丈夫。誰にもミナトくんの可愛さはバレない。あのフェロモンボディも隠蔽完了。
手も繋げたし、これは実質デート! 初デート!
買い物したら、そのまま既成事実を作れるようなアイテム……『ペアリング』とか『お揃いのパジャマ』とか、買っちゃおうかな……ふふふ……)
彼女の黒い野望と共に、僕の初めての外出が幕を開けた。
扉の向こうには、飢えた女性たちが徘徊する、危険で甘美な世界が広がっていた。
(第4話 終わり)




