復讐
夜更け、都市郊外の駐車場。
白い高級車の後ろに陣取り、俺はあぐらをかいて座っていた。
上下都市迷彩を着込み、顔には灰色のバラクラバを装着している。
もう何回目かの手順のチェックを行って大きく息をつく。
目をつぶり、音に集中する。
脳裏にあの日のやつの顔がフラッシュする、ニヤケ顔で俺の半身を奪った。奥歯からギリギリと音が鳴る。
ロック解錠の電子音が聞こえ、瞼の裏に黄色い光が差し込む。
俺が潜む方に向けて足音が近付いてくる。
音が出ないように慎重に身を起こした俺は、金属バットのグリップを右手で掴んだ。
クソ野郎は助手席に荷物を置くと、運転席のドアに手をかけた。
俺は素早く躍り出ると、クソ野郎の後頭部へ向けてバットを叩き込む。
「ぐっぁ」
くぐもった声を出し、クソ野郎は車のドアに縋り付くように崩れた。
殴打した感覚が手のひらから脳にせり上がり、興奮と快感が身体を駆け巡る。
身動ぎするクソ野郎の背中に追い打ちの一発。
口から空気が漏れるような音がした。
「きちんと頭に当てないと音が響いちまうな」
崩れ落ちたクソ野郎の襟首を掴み、頭の位置を調整する。
振り上げたバットを後頭部に二度叩きつけた。
クソ野郎は失神し、手足が痙攣をはじめた。
口元が釣り上がるのを感じる。
まだだ、万が一の可能性も消す、きっちりやり切る。
俺はうつ伏せになったクソに歩み寄ると、首にブーツを乗せ、全体重をかけて踏み抜いた。
硬質な音とともに、脊椎が破壊される感触が足に残る。
「手間を掛けさせやがって」
俺はクソの体を運転席に押し込むと、車の後ろに回ってガソリンタンクを手に取る。
クソに念入りにガソリンをかけると、助手席、後部座席とかけ、ポリタンクを車に放り込んだ。
懐からタバコを取り出すとライターで火を付けた。
深く煙を吸い込み、一服しながら変形したクソの顔を眺める。
「自分は死なないとでも思ったのか」
深い溜息をつき、無造作にタバコを運転席に放り投げた。
たちまち炎が車を包み込む。
俺はその光景を目に焼き付けると、計画した逃走ルートへ走り出した。




