第8話 罠
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第8話 罠
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オークの緑色の血を見つめる。これを口に入れるのは勇気が要る。蟻を散々食らった俺だが、オークのような人型のモンスターで緑色の体液にはまだ抵抗があるようだ。
目を閉じてエイヤーで、口に入れる。本来は猛毒のオークの血肉は……高級豚肉のような甘さがあった。これ、焼いて塩胡椒するだけで、滅茶苦茶美味いと思う。
【職能・吸収が発動しました】
【オークの力を取り込みます】
【職能・剛腕を覚えました】
【能力がわずかに上昇しました】
よしっ!
職能・剛腕のせいか、バックパックがかなり軽く感じる。
そのバックパックにオークの二本の牙を放り込む。剣は布で体液を拭き、鞘に納める。
この剣は少しだけいいものを購入した。C級モンスター相手に戦うのだから、それなりのものでないとすぐに折れてしまうからだ。
剣自体が波打った形で、片刃の刃は水色に輝き、刃の長さは八十センチほど。このビジュアルが気に入っている。
その名もウェーブブレイド。大枚をはたいて購入したお気に入りの剣だ。
何度かオークと戦い、かなり戦いに慣れてきた。オークの動きの癖も掴んだ。さすがに一撃では倒せないが、戦闘時間はかなり短くなっている。
バックパックを下ろして、水を飲む。少し休憩するが、モンスターがいつ現れるか分からないため、立ったままの休憩だ。
さらにいくつかの戦闘を経て、広いエリアに出た。
「うわー……」
そこにはオークが待ち構えていた。
棍棒オークが五、大剣オーク、斧オーク、そして魔法を使う杖オークがそれぞれ一体、数は全部で八。
「おいおい、何を待ち構えているんだよ……」
こりゃー無理だと感じた俺は、引き返そうと踵を返すが……。
先ほど通ってきた通路が塞がっていた。
どうやらあの八体のオークを倒さないと、このエリアから出られない罠にハマってしまったようだ。
「参ったな、こりゃ……」
二体ならなんとかなりそうだが、さすがに八体は厳しい。しかも魔法オークまでいる。
どうする? どうしたらいい?
「はぁ……」
深く大きなため息が出る。
退路は断たれた。先に進むしか俺の生きる道はない。やるしかないようだ。
奇襲は無理だ。ヤツらは完全に俺をロックオンしている。
魔法オークを最初に倒したいところだが、一番奥に陣取っている。ヤツらを率いているのは、魔法オークなんだろう。だとすると、各個撃破しかないか。
あいつらは巨体だ。一度に相手するのはせいぜい三体。常に密集すれば魔法も飛んでこないはずだ。
意識を広くもち、集中するんだ。なんとかなる。これまでもなんとかなったんだ、これからだってなんとかなる。
覚悟を決めれば、あとは行動するのみ。ウェーブブレイドを引き抜き、大きく息を吸う。GO!
地面を蹴る俺に合せて、最前列の五体の棍棒オークが動き出す。
棍棒オークの攻撃を避け、その右腕の腱を斬ろうとウェーブブレイドを動かす。だが、そこに別の棍棒オークの棍棒が迫ってくる。
「ちっ」
カウンターを諦め、回避に専念する。どうやら棍棒オーク以外は様子見するようだ。
ありがたいが、舐められたものだ。
予想通り、三体に囲まれ、二体はその後方で指を咥えて見ている。
三方向からの攻撃を紙一重で躱し、反撃の隙を窺う。
棍棒なんてうけたらパワー負けするから、受けることはしない。あまりにも危険な攻撃が受け流す。
致命傷にならなければ、最悪は体に当たっても構わない。
ヤツらの攻撃を躱すこと五分。多分、そのくらいは経過していると思われる頃、俺はヤツらの連携のパターンを見つけた。
そのパターンに合わせて、ウェーブブレイドを振る。
「ブモッ!?」
一体の右膝の腱を斬った。ぐらつき頭が下がったところに、別の棍棒オークの棍棒が振り抜かれた。
仲間に頭を砕かれた棍棒オークが力なく地面に倒れると、別の棍棒オークが交代で参戦してくる。
だが、棍棒オークたちの攻撃パターンは同じだ。今回はシステマチックに連携してくれることに感謝だ。
隙を見つけて先ほどと同様に膝の腱を斬る。そして、別の棍棒オークに頭を砕かれ、二体目が轟沈する。
三体目も同じ方法で倒せた。
棍棒オークが二体になると、今度は大剣オークが参戦した。
「くっ」
大剣オークは棍棒オークよりも動きが速い。こいつが加わったことで、三体の連携パターンがリセットされた。
さすがに息が上がる。だが、ここで足を止めるわけにはいかない。
どこかで距離を取るべきだが、今はそれもできない。
体内の酸素が急激に消費され、体温が上昇していくのを感じながらも回避を続ける。
「見えた!」
大剣オークの隙を突く。ウェーブブレイドがヤツの太い腕に大きな傷を作る。だが、俺の狙った場所ではない。
「ブモォォォッ」
「ちっ。反応されたか」
だが、これで隙間が空き俺は三体の包囲から脱出―――っ!?
脱出した先に火球が飛んできた。ダダダッと連射してくる。俺を休ませるつもりはないようだ。
魔法オークは連続で火球を飛ばしてくる。
大剣オークと棍棒オークたちは俺を追ってくる。
斧オークは魔法オークのそばに陣取っている。護衛かよ!
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ」
どれだけ空気を取り込んでも、肺が満たされることはない。苦しい。疲労の蓄積で、足が重い。このままでは体力が尽きる。
頭を使え、俺!
猪頭より多くの脳みそを持っているだろ!
そうだ、この手があった!
俺は魔法オークへと足を向ける。すかさず斧オークが斜め前に陣取る。
そこに魔法オークから火球が放たれ、走っている俺へ迫る。
「くっ」
火球が命中するかどうかのギリギリで横に飛ぶ。足が悲鳴をあげる。
「ブモーッ……」
俺を追いかけてきた大剣オークに火球が命中。大剣オークは火に包まれ、苦しみ足掻く。
「ざまぁ!」
さらに追撃。熱さによって暴れる大剣オークの喉を切り裂く。
足は決して止めない。魔法オークは大剣オークに火球が命中しても動揺なく火球を連射してくる。
俺もアクロバティックな動きで、火球と棍棒を避ける。
だが、棍棒オークへの対処は大剣オークと同じだ。俺を追いかけてくる棍棒オークに火球を命中させてとどめを刺す。猪同様、猪突猛進のおかげで位置調整は楽だった。
残りは魔法オークと斧オーク。俺は壁際まで移動して大きく距離を取った。
「ふーっはーっふーっはーっふーっはーっ」
距離があれば、火球が撃たれても余裕で回避できる。その間に息を整える。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
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