第7話 引っ越し
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第7話 引っ越し
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今まで住んでいたマンションは都心にあり、とてもじゃないが同レベルのマンションには住めない。家賃があり得んくらい高いので、郊外か田舎に引っ越すつもりだった。
引っ越すためには、就職する必要があった。職場から通える場所に引っ越したいからな。
だが、探索者を続けることにしたので、今度はC級ダンジョンに通うためによい場所に引っ越したいと思うようになった。
そこでダンジョン管理省のサイトで、ニッポン全国のダンジョンの場所を確認した。
今の俺ならやがてB級、A級と能力を上げることも可能なはずだ。だから、最低限B級ダンジョンを視野に入れた場所に住みたい。
タブレットであれやこれや探したら、あった。
東海州愛知県海部郡蟹江町という町の一軒家だ。築五十年とかなり古いが、ステーションから徒歩十分というのがいい。
俺が住んでいるのは西京都だ。ニッポンの首都である西京は俺が生まれた日本の神戸市にあたる場所にある。
昔は東京が首都だったのだが、地震によって壊滅的な被害を受けたそうだ。その時に遷都されたのがこの西京なのだ。
西京から蟹江町までは百八十キロメートルほどの距離になる。さすがに遠いことから内覧は無理だが、ちゃんと映像がアップされている。それを見る限り、古いがそこまで痛んではいないようだ。
俺はその家を借りることにした。
三年間世話になった移民局の人に挨拶をし、さっそく引っ越す。大きな荷物はないため、ちゃちゃっと荷物をまとめて飛空船に乗り込んだ。
西京から名古屋まで一時間で到着。名古屋からは飛空車のバスで三十分で蟹江のステーションに到着した。
都心部や渋滞の酷い地域では、渋滞緩和のために飛空車しか所有が認められていないが、地方では普通に自動車が走っている。
畑仕事をするのに、軽トラは必須。そんな感じだ。
蟹江町のステーションから徒歩十分。
「うん。古いな」
格安物件だから仕方がない。
この借家は5DK+倉庫+広い庭。
せっせと掃除。掃除機かけて水拭き、畳の部屋は乾拭きもする。
大家さんが水道と電気の手配をしてくれていた。ありがたや。
掃除が終わったら、ごろ~ん。だらり~ん。
「畳の部屋って、なんでこんなに落ちつくんだろうか……布団、買いにいこ」
ステーションの反対側にショッピングモールがある。空を飛ぶ飛空車もあれば、地上を走る自動車もある。ここは都会と田舎の境界の町だ。
引っ越しして三日が過ぎた。生活環境はなんとか揃った。そろそろ出勤(ダンジョン探索)しようかな。
防具を入れたバックパックを背負い、ステーションとは反対のほうへ向かう。コンクリートブロックの塀で囲まれた場所に四階建ての小さなビルがある。
ビルの中へ入り、案内板を見て更衣室へ向かう。仕事着(ボディースーツ、胸当、籠手、佩楯、臑当、ブーツ)に着替え、ステーション前のショッピングモール内で購入した剣を佩く。
更衣室から出て出勤の手続きとして、スマホを機械にかざして。ビルから出る。
ダンジョンのゲートはどこも同じ青白い渦だが、いつ見ても魂が引き込まれるような不思議なものを感じる。
このダンジョンは『第231ダンジョン』と言われるC級ダンジョンだ。
ゲートを通り、ダンジョンへと入った。洞窟型のような無骨な岩肌が俺を迎え入れてくれる。
「さて、いくか」
初めてのC級ダンジョンということで、今日は様子見程度にするつもりだ。
二分ほど歩くと、何かを引きずる音がしてきた。警戒しながら岩陰から覗くと、体長二・五メートルほどの緑色の肌をした人型が、大きな棍棒を引きずっている音だった。
このダンジョンに出てくるのは、オークと言われる猪頭の鬼だ。腰蓑だけ身につけたヘンタイだ。女性探索者からは特に評判が悪い。
オークがその猪の鼻をブヒブヒさせ、俺のほうを向く。どうやら臭いで俺の存在を感知したようだ。
「ブモォォォッ」
涎を撒き散らして叫ぶオークは、駆け出す。太い棍棒を振り下ろす。俺は大きく跳び退く。
棍棒の衝撃で地面に小さなクレーターができる。俺は足に力を入れ、着地と同時に力を解放した。
「はっ!」
オークの脇腹を深々と斬った。オークの脂肪は分厚い。その脂肪を斬るだけでは、致命傷にならないようだ。
今までのように、ただ我武者羅な戦い方ではいけない。そんな気がした。
「急所や動きを止める攻撃を心がけるべきだな」
オークはパワーがあり、厚い脂肪のおかげで防御力もある。だが、動きは緩慢だ。どこを狙う?
棍棒を避けながら狙いどころを探す。
喉はいいが、リーチを考えると真正面から懐に入らないといけない。やや不安だ。
心臓は分厚い脂肪と強靭な胸筋に守られているし、突いた剣が抜けなくなる可能性があるから駄目だ。
となると……腱か。手首やアキレス、そして肘や膝裏の腱ならなんとかなりそうだ。
―――タイミングを見極めろ。
オークの動きを見つつ、できるだけ最小の動きで回避する。
なんか、分かった気がする。ここだ!
「ブモォォォッ!?」
棍棒を振り下ろした瞬間、俺は剣を小さく振り抜いた。
剣の先がオークの右手首の腱を捉えた。あまり力は要らない。むしろタイミングと手首のスナップを利かせるだけで、あの頑丈なオークが棍棒を落とした。
その隙を見逃さず、俺はオークの後方に回り込んで両アキレス腱を斬った。
「グモォォォッ」
悲鳴。地面を這うオークの左手が棍棒に延ばされる。
が、俺はそのがら空きの背中に飛び乗り、首の裏に腱を突き立てる。
「ブ……モ……」
オークの目から光が消える。
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