第5話 兵隊群体蟻
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第5話 兵隊群体蟻
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やった! 蟻の大群を食らいつくしたぞ! その数なんと三千体。
職能・群体司令官はこれ以上昇華しなかったが、能力は三千体分上昇した。
途中から食うのではなく、舐めるに変更した。それでもちゃんと能力は上昇する。おかげで、結構早く食らい尽くすことができたはずだ。
「しかし武器が……」
俺の剣は数百体を倒して、ぽっきり折れた。安物の剣で数百体の蟻を殺したのだから、十分に元は取れている。
剣が折れてからは、仕方がないので蟻を撲殺した。その時気づいたが、俺の腕力はかなり上がっていた。わずかにでも数百回も上がる能力は、俺の記憶にあるものではなくなっていたのだ。
最後のほうは、頭と胴体を鷲掴みし、引き千切っていいた。
「さすがにこれだけの蟻の素材は持って帰られないな」
目の前には大量の蟻の死骸が転がっている。これでも多くがダンジョンに吸収され、数百体分に減っているのだ。
ダンジョン内では、動かないものは一定時間を過ぎると吸収される。三千体の蟻の死骸も、多くはダンジョンに吸収されているのだ。
一体の死骸だけバックパックに入れてこの場を離れることにする。
「さて、どっちに向かえばいいのか?」
人間でも余裕で通れそうな穴が大量にある。
分からないものは仕方がない。適当に選んで進むか。
「………」
さきほどの広大な空間に戻ってきてしまった。どうやら、ループして繋がっているようだ。
こうなったら手あたり次第だ。
「………」
数十という穴に入っては広間に帰ってくる。体力は問題ないが、精神的に疲弊する。
必ずどこかに外へ通じる穴があるはず。そう信じて虱潰しにする。
「やった! 当たりだ!」
やっと広間とは違うエリアに出た。
そこには大量の卵と、群体蟻よりも大きな一・五メートル級の青灰色の蟻が百体くらい、そしてその奥にさらに五メートルくらいの青白い蟻が一体いた。
「女王蟻を守る兵隊蟻ってところか……」
兵隊蟻も女王蟻も、俺のことを気にする素振りを見せない。
まさかと思うが、俺を仲間だと思っているのか?
「……マジか」
蟻の中に入って触ってみても、攻撃してこないよ。
「ハハハ……もうなんでありだな」
もちろん、俺は蟻に攻撃を加える。
「硬っ!?」
青灰色の蟻は、めちゃくちゃ硬かった。
これは苦労しそうだ……。
こんなことなら、ダンジョンに吸収される前の探索者たちの武器を回収しておけばよかった。俺が蟻の吸収に集中している間に、消えていたんだよ。気づいた時には遅いってやつだな。
バックパックの中の蟻の死骸を取り出し、その前足を一本折ってもいだ。
俺はその足の鋭い部分を青灰色の蟻の関節部分に差し込んだ。
蟻は暴れる。すごい力で、振り払われそうになる。だが、ここで手を離すわけにはいかない。
俺は必死にしがみつき、足を差し込んだ。
「ギッ……」
ひと鳴きした蟻は動かなくなった。
振り回された俺は、数体の蟻に当たったおかげであっちこっち痛い。幸い骨は折れてないようだ。
さて、この蟻の味は……あ、こいつ美味い! 赤黒い蟻よりももっと甘味が強く濃厚だ。
【職能・吸収が発動しました】
【兵隊群体蟻61の力を取り込みます】
【能力がわずかに上昇しました】
む、職能は得られなかったか。ということは、こいつの職能は群体もしくは群体司令官だと思われる。
あと、この蟻は兵隊群体蟻という種族なんだな。やっぱりあの莫迦デカいヤツが女王蟻なんだろうか。
「さて、食らいますか」
抵抗はあるが、積極的に攻撃はされない。楽な仕事だ……。
「ボロボロなんですけど」
こいつら滅茶苦茶硬いし、パワーがすごい。俺は毎回振り回され、あっちこっちに痣ができている。最悪だ。
今さらだが、兵隊群体蟻同士で戦わせればよかったと後悔した。
「この状態では、あいつにはとても勝てそうにないな」
女王蟻は悠然と佇んでいる。まるで、遣れるものなら殺ってみろ、と言っているようだ。
多分、五体満足な状態でも勝てない。そんな気がする。
「命あっての物種か」
ちょっと前まで探索者を辞めようとしていた俺が、無理をする必要はない。
どれほど強くなったか分からないが、今の俺ならE級ダンジョンくらい問題なく踏破できるんじゃないか。なんかそんな気がするんだよな。
「よし、帰るぞ! またな、女王様」
俺が踵を返しその場を離れると、卵から蟻が這い出てきた。一体ではない、数えきれないほどの蟻が這い出てきて兵隊群体蟻の死骸を貪り食った。
俺はやっとダンジョンのゲートを探し当てた。どれだけ彷徨ったか分からない。早く帰ってベッドに潜り込みたい。
ダンジョンのゲートはどこも同じだ。直径十メートルの青白い渦がダンジョンとニッポンを隔てながらも繋いでいる。
俺は思うんだ。この青白い渦が俺たちを現実と幻の世界の境なんだと。
一歩また一歩、岩を踏み込み俺はゲートを出た。一瞬の浮遊感が俺を包み込む。
眩い光りが俺の瞳孔を刺激する。どうやら今は真昼間のようだ。
眩しさに目を細め、腕で影を作る。
「お、おい、あんた!」
「ん?」
いきなり声をかけられた俺は、五人のスーツマンに囲まれた。
「君、今ダンジョンから出てきたよね……?」
「え? はい、出ましたが?」
「ライセンスを見せてもらっていいですか!?」
食い気味のスーツマンにドン引きするが、俺はスマホの身分証を見せた。
タブレットから申請するだけで、探索者のライセンスは得られるのだから簡単なものだ。
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