第4話 昇華
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第4話 昇華
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俺の名前は葛城照。パラレルニッポンに飛ばされて三年、絶賛混乱中だ。
目の前には赤黒い蟻の大群が蠢いている。だが、蟻たちは俺に攻撃してこない。
「これは逃げるチャンスか」
ここは大きな空間で、その壁にはいくつもの穴があいている。蟻たちはその穴からワラワラと出てきて探索者たちを襲った。
そこで俺は先ほど脳内に流れたアナウンスを思い出した。
【職能・吸収が発動しました】
【群体蟻1127の力を取り込みます】
【職能・群体を覚えました】
【能力がわずかに上昇しました】
もしかしたら『群体蟻1127』という個体の力を取り込んだことで、俺は蟻たちに仲間だと思われているのではないだろうか?
もしそうなら、試してみるべきだ。
近くにいた蟻に手を伸ばしてみる。蟻が振り向いた。ピタリと手が止まる。怖い。だが、襲われる気配はない。そいつの目を見つめながら手を伸ばす。ヒンヤリとした硬質な甲殻には、細かい毛が生えていた。
「触っても怒らない……」
俺は大きく息を吐いた。
「よしっ!」
気合いを入れて剣を構える。狙うは頭と胸の間。振り下ろすのではなく、渾身の突きを放つ。
ズシャッ。剣は蟻の関節に刺さったが、浅い。
「キシャーッ」
蟻が暴れる。その瞬間、周囲の蟻たちがこちらに注目する。だが、蟻たちは俺を襲うことはない。
両手に力を入れて暴れる蟻に剣をさらに刺し込む。
「キ……シャ……」
蟻の動きが止まり、その場に横たわる。
「ふー……」
この蟻を食べることで、吸収は発動する。
だが、この紫色の血を流す蟻を食べるのは勇気がいいる。
そもそもモンスターの体液には猛毒があって、誰も食べないのが常識だ。過去に毒耐性を持った人がモンスターを食べたが、のたうち回ってあの世に逝った動画を見た。衝撃的な動画だったが、消去されることなく残っていた。モンスターを食べるとこうなるのだという警告なのかもしれない。
俺は意を決して傷口に手を突っ込み、何かを引っ張り出した。まったく食欲をそそらない紫色の何か……。
「これを食うのか……」
何度も口の前までそれを持ってくるが、なかなか口に入れることができない。
「えーい、ママよ!」
口に放り込んで、咀嚼することなく飲み込む。
あれ……? 不味くない? むしろ美味しいと感じる。まるでフルーツのような甘味と程よい酸味だ。
思わずもう一回食べてしまった。グロテスクで色も悪いが、美味しい。食わず嫌いがいけないと感じてしまった。
「いやいやいや、モンスターは猛毒だから!」
ノリツッコみをしてしまったが、俺くらいしか食べることができないものだからな。
【職能・吸収が発動しました】
【群体蟻1935の力を取り込みます】
【能力がわずかに上昇しました】
今回は職能・群体を覚えたというアナウンスが流れなかった。どうやら同じ職能は複数覚えられないようだ。
だが、能力は上がっている。わずかがどれほどか分からないが、上昇したと言うのだから上がったのだろう。
しかも、蟻を殺しても他の蟻は一切動かない。俺を敵と認識していない。共食いをする個体くらいの認識なのかもしれないな。
「気持ち、疲労が抜けている気がする。もっとこいつらを食えば、絶好調になるのだろうか?」
そして、この死体を仮に全て食べたらもっと能力が上がるのだろうか?
試しにもう一度食べてみる……。アナウンスはない。もう一口……どうやら同じ個体から吸収できるのは、一回だけのようだ。
「よし、殺るか」
わずかでも口にすれば能力が上がるのだから、多くを殺して少しずつ食べてやる。
俺は蟻を殺しては食べ、食べては殺した。その都度アナウンスがあり、能力が少しずつ上がっていった。
だが、問題がある。
「うっぷ……もう食べられない」
いくら少しずつとはいえ、数十体も食べるとお腹がいっぱいになる。
ここで帰るか、それとも蟻どもを喰らい尽くすまでここに留まるか、思案のしどころだ。
「せっかく能力が上がるんだ、こいつら全てを食べ尽くして能力を上げまくろう!」
休憩しては殺して食べ、食べては休憩した。もう何体食らったか分からない。それでも蟻はまだたくさんいる。
そして何度目かの休憩を終えた俺は再び蟻を殺して食らった。
再会して数体目、そのアナウンスが脳内に流れた。
【職能・吸収が発動しました】
【群体蟻2074の力を取り込みます】
【能力がわずかに上昇しました】
【職能・群体が職能・群体司令官に昇華しました】
「なんだと?」
職能が昇華? そんなことがあるのか? いや、あるから昇華したとアナウンスがあったんだ。
「おいおい、マジかよ……」
俺は能力を上げようとして蟻を食らっていたんだが、思わぬ副産物があったものだ。
多分だが、群体司令官はこの蟻の大群に命令できるものだと思われる。
「おい、お前。面が高い、ひれ伏せ」
「ギギ」
俺の命令を受けた蟻が地面に伏した。
「ハハハ……蟻が俺の命令でひれ伏したぞ!」
次はこの蟻で他の蟻を殺し、能力を上昇させられるかを確認だ。
蟻Aが蟻Bを攻撃、俺は蟻Bに抵抗するなと命令した。蟻Bは殺された。その蟻Bの肉を口にした。
【職能・吸収が発動しました】
【群体蟻396の力を取り込みます】
【能力がわずかに上昇しました】
俺が直接手を下さなくても、能力は上昇した。俺の職能・吸収は、戦闘や倒すとい事実の有無に関係なく、その個体の能力を一回だけ吸収するようだ。
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