気づけば無意味な遊びの中
アオがブランチを用意してくれることになり、私たちはティールームで待った。
昨日は光に満ちた空間だったが、今日は外が曇っているため雰囲気が違った。とても落ち着いた感じでこれはこれで悪くないなと、のんきに考えていたら、圭が重々しく言った。
「用心しよう」
「何をですか?」
遊理が聞く。私も何の話だろうと考えていると、
「車の件はキオの仕業かもしれない」
「え、まさか」
「わからないが、俺たちはここに泊まるしかない。もしキオの仕業だとしたら狙いは三鬼だ。三鬼の部屋のドアロックを物理キーじゃなくて電子キーモードにしてくれ」
「わかりました。けど考えすぎじゃないですか?キオくんは、別にぼくたちに恨みがあるわけじゃないですし。むしろ危ないのはアオくんでは?」
「アオは一か月以上前から気配を感じていたのに無事だ。もしキオが本当にアオに危害を加えるにしても、俺たちみたいな邪魔ものがいるタイミングではやらないだろう。だが、三鬼に対しては部屋の扉をたたく直接的行動にでている。同じアビリティ保有者に興味を持っているのかもしれない」
「でも、結局、三鬼さんとは接触していませんよね。鍵だけあけてどっか行っちゃったんですから。三鬼さんが美人だから、ちょっかいだしてみたくなったとかじゃないですか?」
笑いながら軽口をたたいた遊理は、案の定、圭に鬼のような形相でにらまれた。
「すみません、わかりました、気を付けます。はい」と言った後で「キオくんより不破さんの方が恐ろしいですよ」と懲りずにつぶやいて、さらににらまれた。
「大したものはないけど」
それから程なくして、アオが家事ドローンと一緒に、料理をのせたワゴンを運んできた。
スープにサラダ、トマトソースのかかった魚にライ麦パン。どれも美味しそうだった。
「こんなに短い時間でどうやって用意したの?」
不思議に思いたずねる。
「全部、保存食や冷凍食品だよ」
「例のセレブ御用達とかいうのですか?」遊理が聞いた。
「さぁ、それは知らないけど、カロリー計算も栄養バランスも配慮されているみたいだし、有機野菜を使ってて味も悪くないと思うよ」
野菜は十分新鮮で、パンは香ばしかった。トマトソースの味付けも上品だった。さっきの圭の話が少し気になりつつも、私は食事を楽しんだ。
昨日はすぐに書斎に入ってしまい、リグルもでてこなかったから一人で食事をしたけれど、やっぱりこうして誰かと食べるのはいいものだ。ほっとするし和やかな気持ちになる。相変わらずの仏頂面だけど、圭がいることも嬉しい。
パンを頬張りほのかな幸せに浸っていたが、圭は仕事があると言って食事もそこそこに出ていってしまった。
「キオは食事をどうしているのかしら」
食後のコーヒーを飲みながら、ふと気になった。
「地下に食糧庫があるから食べ物には困らないよ」
「これ?」
「そう。普段のぼくの食事だから、定期的に補充しているし半年くらいは困らない位の量がある」
「シェルターみたいですね」遊理が言った。
「というよりは、父さんの習慣を受け継いだ感じかな。父さんは自分や家族が本当に必要な時以外、山からおりるのを無駄だと思ったんだ。一番困るのは食料問題だから合理的に解決したんだろうね。で、同じようにぼくもここに閉じこもっている」
何でもないことのようにアオは言ったが、お父さんとアオの“習慣”には大きな違いがある。お父さんには家族がいたけどアオは一人ぼっちだ。誰もいない部屋、人とのつながりのない日々。この広い屋敷で昼も夜も一人でいることを想像したら、寂しいというよりは、心細くてたまらない気持ちになった。私にはとても耐えられそうにない。
「でも、ここに一人で暮らすのって大変じゃないですか?」
同じことを感じたのか遊理が尋ねる。だがアオは質問の意味がわからないようだった。
「必要なものはそろってるし特に困らないよ」
食事を終えると、私は自分の部屋に戻らなければならなくなった。遊理は圭と一緒に仕事をするので私に付き添うことができないと申し訳なさそうに言った。
私は研究室の外で、一人で自由に歩き回ることは許されていない。あの美しい庭をゆっくり散歩したかったので残念だったが仕方ない。もう1日研究室に戻るのが延びただけでも贅沢な幸運なのだから。
でも部屋に一人でいるのは退屈だ。書斎の本を借りられないかと頼むと「いっそ書斎にいれば?」とアオが言ってくれたので、そうすることにした。
「じゃぁ、次はお茶の時間にあえるのかな」
書斎の前までついてきたアオが遊理と私を交互に見ながら言った。
遊理は少し迷ったあと、そうしましょう、と同意した。
時計を見ると12時少し前だった。
「お茶は何時?」
「2時半。ケーキとフルーツを用意するから」
昨日食べた苺の甘さを思い出し、思わず顔がほころぶ。
「嬉しそうだね」
食べ物で機嫌がよくなるなんて、子供みたいで少し恥ずかしくなる。
遊理はデジタルブックとドアロックを何度も確認していた。
ドアロックは短く平べったい帯で両端に四角いブロックがついている。ブロック部分をドアやドアレバー、壁に貼り付けるだけで、ドアを固定して開かなくすることができる。
ロックには2パターンあって、ブロック部分に物理的な鍵を差し込むか、汎用セキュリティアプリを利用した電子キーモードがある。物理キーの方が手軽だが、セキュリティレベルは電子キーのほうが高いらしい。
遊理は圭に言われた通り、今度はブロックを物理キーではなく、電子キーモードに設定しているようだった。
「やっぱり鍵をかけるんだ」
アオの言葉に遊理はうなずく。
「規則なので」
「今度は電子タイプでセキュリティアップ?」
「キオくんのことがありましたからね。不破さんがぴりぴりしてるんですよ」
「ふぅん」
「アオくんはどう思います?何でキオくんは、三鬼さんの部屋のドアをわざわざ開けて逃げるなんてことしたんでしょう?女性に対してシャイなんですかね?」
「シャイ?なにそれ?面白いこと言うね」
アオが笑った。
「シャイかどうかはわからないけど、ドアを開けた理由は多分わかるよ」
「え、なんでです?」
「簡単ことだよ。閉じ込められている三鬼さんをかわいそうに思ったんだよ」
あ、と、遊理が息をのんだ。私もなるほどと思った。
だからドアをたたいた。私がドアが開いていることに気付くように。
「え、でも、そうするとまた、ドアを開けようとやって来るんじゃないですか?」
遊理がうろたえる。
「電子タイプはさすがに開けられないだろうからあきらめるんじゃじゃない?デジタルブックを盗んだとしても、遊理本人じゃなきゃデジタルブック自体がロック解除できないでしょ?」
「生体認証式ですからね」
遊理はデジタルブックを誇らしげに掲げた後、深いため息をついた。
「正直キオくんより、不破さんが脅威ですよ。今度、鍵を破られたらどうなることやら。上司じゃないし、年次も研究員等級も一緒なのに、なぜかすごい威張ってるんですよ。不破さんの相棒、半年以内にみんな嫌がってコンビ解消しちゃうって聞いてたんですけど、なるほどって感じです」
「でも遊理、不破さんのこと結構好きでしょ?さりげなくフォローしてるし、怒られるのも楽しんでるように見えるよ。遊理って、Mだったんだね」
「全然違いますよ!」
どっちが“全然違う”のだろう。
きっと後者だろう、と私は考える。だって私の目にも遊理と圭は結構いいコンビに見えた。
書斎に入ると、また後で、とアオが軽く手をふり微笑んだ。一瞬、その笑顔が子供のころの写真の笑顔に重なった。あどけない優しい笑みだった。
ドアがしまりドアロックが取り付けられる音がした。
急にしんとして、世界から切り離されたような気がする。
リグルもいない。
「リグル」
呼んでも出てこない。気まぐれなリグルは時々、私を一人にする。
『ぼくがいなくなっても平気?』
なぜリグルはあんなことを言ったのだろう。私たちはこれまでずっと一緒で、これからもずっと一緒のはずなのに。
部屋の静けさに息苦しくなる。
急に全てがどうでもよく、つまらなくなってベッドに横になる。本を読みたい気持ちはどこかにいってしまった。
うとうとして、ふと物音に目を開ける。リグルが本棚を縦に横に軽やかに飛び回っていた。目的があるようなないような、不思議な動きだった。遊んでいるのだろうかと思いながら再び眠りに落ちた。
コツコツと玉子の殻を割るような優しい音がした。生まれたてのひよこみたいに、まどろみながら目を開く。
薄暗いオレンジがベッドを照らしていた。時計を見ると6時17分だった。
お茶の時間を大幅に過ぎてしまっていた。寝過ごしたようだ。
寝起きのぼんやりした頭は無意識にリグルを探す。やっぱりいない。ひっそりと静かな空間で、しばらくそのままじっとしている。何も変わらない。目の前の景色も、窓の外も。風もない。時が止まったような気がした。
でも、静かな世界を打ち破る音がした。
コツコツ……
ドアがノックされた。夢じゃなかった。
圭?遊理?アオ、それとも……
キオ?
私は慌ててドアに近づき、「だれ?」と声をかける。でも、もうノックはされず静まりかえる。ドアレバーに触れると抵抗なく動いた。
ドアが開いた。
またドアロックが廊下にほうり出されていた。
私は廊下に出る。よく見るとドアロックと一緒に何かが落ちている。デジタルブックだ。白のカバーに見覚えがあった。遊理のものだ。
デジタルブックを拾う。何故こんなところに落ちているのだろう。
キオの仕業だろうか。
遊理からデジタルブックを奪ったのかもしれない。でも、遊理本人でなければ、デジタルブックはあかない。
だとすると?
混乱しながら廊下を進む。
階段の前まで来て下を見下ろす。夕方で採光が乏しくなり、一階は海底のような暗い青さを広げていた。
海底に、何かが……誰かが……いた。
アオ?
違う、アオじゃない、アオより髪が短くて背が高い。誰かを背負っている。意識がないのかぐったりとしている。
息をのむ。
遊理だ。
うつぶせで顔が見えなかったが服装や体格から間違いない。背の高い遊理はおぶられながら、ずるずると足をひきずられていた。でもバランスがおかしかった。右足が長くて左足だけ短い。違う、遊理の左足のジーンズから足がでていないのだ。遠目では、ジーンズの中身がどこまであるかはわからなかった。でも、とにかく遊理の左足はなかった。
よく見れば遊理の体は透明な膜に包まれている。
遊理を背負うアオにそっくりな男。
キオだ。
彼は階段の上で呆然と立ちつくす私に気づいた。
目が合った。
何もない顔だった。感情や心がすべてが抜け落ちた平坦な表情が私を見上げていた。
目がそらせなかった。本来ならそこにあるべき何かがない顔。それが、どこかにあるはずだと、確かめずにはいられない顔。そして見つからず不安になり、また探して、ないことを知って不安になる……そんな無限の不毛さをかきたてる顔だった。
キオは先に私から目をそらし、顔をさらに上に向けた。
じっとそのままの姿勢で動かない。
私もつられて視線を向ける。
吹き抜けの広々とした天井と天窓。そこには、昼間にはなかったものがあった。
天窓の一つからロープが吊り下げられ、ぶらさがっている。
まさか。
嘘だ。
眩暈を覚える。
ぶらさがっているのは……アオだった。
透明な膜に包まれ、うっすらと目を開け、優しい顔をしている。
優しい顔。
あるのはそれだけだった。
首から下がない。
頭部、しかない。
気づくと私は叫んでいた。
キオは、遊理をおぶっていた手を無造作に離した。人形みたいに遊理が床に落ちた。
ゆうり
声がかすれた。生きているのか死んでいるのかわからない。とにかく助けなけきゃ、行かなきゃ。だめだ、足が動かない。
キオが階段に向かって歩いてくる。二階にのぼって来るつもりだ。何を考えているのかわからない平坦な顔が近づいてくる。
頭の中が真っ白になる。
その時、髪を強くひっぱられた。『圭の部屋へ!』という声に意識が少しだけ正常に戻る。リグルだ。私は考える間もなく走りだし、圭の部屋のドアを叩いた。
「圭、圭!」
反応がない。階段に足音が響きだす。
「お願い、開けて!」
足音が近づいてくる。
「助けて、圭!」
泣きじゃくりながらドアを叩く。
足音がどんどん近づいてくる。もうすぐ階段を昇り終わる。
ドアは開かなかった。だが、
「おい」廊下の奥から声がした。
「何をしている?」
顔をしかめた圭が薄暗い廊下に立っていた。
足音が去っていく。代わりに圭が私に近づいてくる。安堵に全身の力が抜けて私は座り込む。
「なぜ、それをお前が持ってる?」
圭は遊理のデジタルブックを私から取り上げた。どこから話せばいいのかわからない。
「階段の下にキオがいて」混乱して言葉がうまくでてこない。「アオが……」言いかけて詰まる。喉が干上がったようになる。
「立て」と圭が私の腕をつかんだ。こんな時なのに圭に触れられたことに私は喜びを覚えてしまった。支えられて立ち上がると、圭は部屋のドアを開けて中へ入れてくれた。
「お願い、鍵をかけて」
ドアはオートロックだがアナログなU字ロックもついていた。圭は煩わしそうな顔をしたがU字ロックをかけてくれた。
ソファに座って向かい合う。
「順番に起きたことを話せ。支離滅裂になるから勝手にはしょるな」
ほっとして思わず少しだけ笑ってしまう。
「なにがおかしい?」
圭はムッとした。
「昔も、似たようなことを言われたなって」
その時は、からかうような口調で今みたいな冷たさはなかったけれど。
圭がそばにいることに、私を理解してくれていることに心が落ち着いていく。
私は話しはじめる。
部屋を誰かがノックしたことから、キオが階段を上ってきたことまで、記憶の限り細かく圭に伝えた 。
聞き終えると圭は部屋を出ていこうとした。
「待って!だめ!」
「確認しに行く」
「キオがやったんだと思う。危険だから外にでないで」
「だったらここにいたって危険だ」
「でも、とにかく待って」
思わず圭のシャツの裾をつかむ。圭の手が私を払いのける。
「触るな!」
「さっきは助け起こしてくれたのに」
ついそう言うと圭は顔をしかめて私から目をそらした。
「一緒に来るか、待ってるか選べ」
廊下はますます暗くなっていた。
昨日は電気がついていたのに、今日はすべて消えている。これもキオのせいだろうか。
圭は冷静だった。警戒する様子もなく廊下を歩き、階段の前で立ち止まる。すでに一階にはキオも遊理もいなかった。
私たちは天井を見上げる。
暗くて視界が悪いが、丸いものがぶら下がっていることは分かる。胸が痛む。かわいそうなアオ。大好きだったお兄さんに殺されるなんて。
圭はデジタルブックを取り出し、カメラのズーム機能を使って、アオの頭部を撮影した。
しばらく画像データを確認した後、歩きだす。
「どこに行くの?」
「遊理を探す」
「どうやって?」
「屋敷内の部屋を見てまわる。まずは書斎だ」
圭は廊下を進む。その後ろを歩いていたら、不意に耳に声がよみがえった。
“カイナは関係ない!”
3年半前、私をかばうようにして圭は前に立ってくれた。真実を知る瞬間まで何度も何度も。守ろうとしてくれたのに裏切ってしまった背中に懐かしさと罪悪感がこみ上げた。
書斎の前につき、圭はドアロックを拾って確かめる。
首の後ろのリグルが『ぼくも見たい。もうちょっと近づいて』と言うので、私は歩み寄り顔を近づける。だが圭は素早く体の向きを変えてしまった。
『見えないよ』とリグルが文句を言う。私は深呼吸をして「圭」と背中に声をかける。
「私、遊理を助けたい。お願い、協力させて」
ゆっくりと圭が振り返る。いつもの不機嫌な顔で私を見据える。
でもそこに拒絶の気配はなかった。私はそばに行き圭の手にあるロックをのぞきこむ。
今度は圭は避けなかった。
それどころか「何か気づいたか?」と聞かれた。
リグルがささやく。
『壊れてないって言って』
「壊れてないみたい」
「その通りだ。無理やり破壊されて開けられたわけじゃない。遊理のデジタルブックはどこで拾った?」
「一緒に落ちてたけど」
「遊理を拉致して無理やり生体情報を使い、ロック解除して鍵を開けたんだろう」
圭がデジタルブックの画面を私に見せる。ロック画面ではなく、トップ画面が開いていた。
「しかも認証なしで入れるようにしている」
『おかしいね』リグルがささやく。『なんでわざわざそんなことしたんだろ。遊理がいれば別に必要ないのに。しかも肝心のデジタルブックを置いていったら意味がない』
私はリグルの疑問を圭に伝える。
「何か理由があるんだろう」と圭はうなずき、
「ほかに気付いたことはあるか?」
と、もう一度、聞かれた。
リグルが『他には特にないよ』とささやいた。
私は圭に首を振ってみせる。
リグルは私よりずっと鋭くて頭がいい。
これまでもアビリティを使って結果がでた後、リグルが気づいたことを私が気づいたこととして圭に伝えてきた。圭とリグルの気づいたことを重ね合わせることで、写真やキャンバスに隠されていた意味が浮き彫りにされることが何度もあった。
その信頼のおかげで、今、圭は私の協力を受け入れてくれた。
心の中でリグルに感謝する。
圭が書斎のドアを開けた。
真っ白に戻ったキャンバス、アームチェア、テーブル、簡易ベッド。
同じように見えるが出ていった時と何かが違う。違和感の正体は、キャンバスの横の写真たてが空になっていることだった。
キオとヨリがうつった写真は、テーブルの上に移動していた。写真と一枚の紙が並べて置かれていた。
圭が紙を手に取り、私ものぞきこむ。
最近では見ることの少ない手書きの文字が書かれていた。
“多分、きみたちはぼくを探すつもりだろう。
でもきみたちには見つけられない。
遊理は安全な場所に隠したし、この屋敷にも山にもぼくはくわしい。
きみたちを避けながら屋敷内を移動して逃げることは簡単だし、山にはいくつか小屋もある。
きみたち二人で探すのは不可能だ。
ぼくは<アオ>を通してきみたちを見ていた。
きみたちがとても気に入った。
あの棚にきみたちを並べたいくらいだ。
だから、ゲームをしよう。
きみたちは、ぼくを探すのではなくゲームに参加する。
ゲームに勝てば遊理を救うことができて、明日には皆で山をおりることができる。
ルールもゴールも簡単だ。
ゴールは二つの真実を導き出すこと。
一つは、長い間隠されてきた、ぼくについての秘密だ。
この秘密が明かされるかどうかについて、最初は半信半疑だった。
でも確かに秘密は日の光にさらされた。悲しいほど明らかに。
三鬼さんのアビリティは本当に素晴らしい。
もう一つは、その三鬼さんのアビリティについて。
多くのアビリティ保有者の中で、今回、三鬼さんが選ばれたことには理由がある。
その理由を考えてほしい。
行方不明の家族の生死を知るだけなら、ほかの誰かでもよかったはずだ。
でも、三鬼さんのアビリティでなければならなかった理由がある。
ヒントをあげよう。
まずは、写真と三鬼さんのアビリティで描いたキャンバスを見比べるといい。
次に、これまでのアオとの会話を思い出してほしい。
最後に屋敷内の簡単な捜索をすることで正しい答えにたどり着けるだろう。
答えがでたら遊理のデジタルブックのトップ画面にインストールしておいたメッセージアプリから送信をしてほしい。
答えが合っていたら、きみたちの勝ちだ。
間違っていたり、答えが出せない場合はきみたちの負けだ。
その場合はペナルティをもらう。
ペナルティは遊理と君たちだ。
きみたちが負けたら、ぼくは、きみたちをこの屋敷からださないし遊理も返さない。
それから、もう一つ。
ペナルティというよりは、ぼくへのプライズについて。
ぼくが遊理の左足をもらったのは、逃がさないためもあるけど、個人的な嗜好の問題も大きい。
ぼくは切り取られた一部に強くひかれる。
完成しないもの、続きを想像させるものはとても魅力的だ。
だから、ぼくは、遊理の体の一部を、少しずつもらっていくことにする。
最初のタイムリミットは8時で、あとは1時間ごと1つ。
たとえば、手足の指。でも気が向けば、掌、あるいは、もう片方の足をもらうかもしれない。
ぼくのアビリティでプロテクトするから出血はおさえられる。
でもきみたちもよく知る通り、アビリティは絶対じゃないから保証はできない。
おかしなゲームだよね。
自分でもそう思うけど、やらずにはいられない。
きみたちも理解はできなくても不思議には思わないよね。
なぜ?としつこく聞いたりもしないだろう。
だってきみたちは、アビリティ保有者のことをとてもよく知っているのだから。
タイムリミットは、明日の午前9時。車の修理業者が来るまで。
では、楽しい夜を過ごそう”