Episode.70
「おや、目覚めたようだね。」
何かを操作するような音が聞こえてくる。
「ぐっ!?」
体に電流を流された。
死ぬようなレベルではないが、眼球の奥が痛くなるような不快感が走る。
「聞かせてもらおうか。え~と、君は確か8号だったかな。」
こいつらは被検体を名前ではなく番号で呼ぶ。
人ではなく、ただの実験材料としてしか見ていないのだ。
「月影⋯寿命をまっとうできると思うなよ。」
「それは私のことではなく、君のことだろう。」
「おまえを道連れにしてや···」
最後まで言わせてもらえなかった。
電流が再び俺の体を駆け巡る。
「従順に任務をこなす犬かと思っていたら、演技だったとはね。随分と舐めた真似をしてくれたものだ。」
「⋯⋯⋯⋯。」
視界を遮られているが、月影の様子は手に取るようにわかった。
念視というものは、使い慣れていれば大した力を用いなくとも発動できる。
様子をうかがい、チャンスを逃さなければ良いだけだ。そう安易に考えていた。
「ああ、そうだった。反撃しようなどと愚かな考えはしないことだ。君につながれている装置は、能力の行使を感知するとリミッターが即解除される。より強い電流が放たれて、死んだ方がマシだと思える体験をするだろう。」
「ハッタリだ。そんなことをすれば脳神経が損傷する。おまえが関心を寄せる能力まで消失するはずだ。」
超能力というのは複雑なロジックで形成された事象である。繊細な脳組織にダメージを負うと、そうなる可能性は十分にあった。
だが、俺のそんな思考を嘲笑うかのように月影は声を発する。
「ほう、脳科学の権威である私に対してそういった発言をするかね。もちろん、そんなことは理解しているつもりだから、レベルは加減している。まあ、視神経繊維は焼け切れるだろうがね。」
言われて何となく理解した。
視界を遮るアイマスクの様なものが電極になっているのかもしれない。
「⋯⋯⋯⋯。」
「君は自分が大事な実験体だと高を括っているのだろう?確かにその通りだ。しかし、必ずしも健常者でいる必要はないのだよ。むしろ反抗しないように、脳だけで生きてくれた方が都合がいい。」
「⋯今、何と言った?」
噂では聞いている。
聞いていたが、空想が噂になった程度に感じていた。
だが、今の月影の言葉は、既に事例があることを意味していないだろうか。
そんな非人道的なことを、こいつらは平気な顔で行っているのか。
いや、そもそも人を人として見ていないのは前からわかっていた。




