Episode.69
「はは、痛みでまともに狙いもつけられないか?それとも、そう思わせて油断を誘うつもりか?」
せせら笑う相手に無言で引き金を絞った。
狙いは先ほどと同じ壁の一点である。
「なっ!?」
二発目の弾丸は、壁を貫いて通路の向こう側にいた奴に着弾する。
同じ能力で戦った場合、本家である奴の方に分があった。
だからこそ初撃で勘違いさせ、二発目には別の能力をのせることにしたのだ。
ドサッという音が鳴り、おそらく胸部にダメージを負った奴が倒れ込む。
しはらくして、衣擦れのような物音がして、ドアノブがガチャガチャと鳴り出す。
壁越しで奴のダメージが致命傷かどうかはわからなかった。しかしそんなことはどうでもいい。
俺はもう一度同じ能力をのせて引き金をしぼった。ドアノブの下方に拳大の穴が開き、その向こうで血飛沫と白い何かが舞い上がるのが見える。
俺が使った能力は弾丸の回転力を倍加させ、一時的に強度も跳ね上げるものだ。
これも別の者が得意としていた能力である。
壁自体はコンクリートではなく石膏ボードや合板による内壁だったため、過剰な威力となったようだ。
安堵のため息を吐き、重い瞼を閉じた。
何も考えられず、俺の意識はそのまま暗転する。
「興味深い···」
脳裏に焼きついた声を聞いた気がした。
俺が最も忌み嫌う男の声だ。
「人工的な施術で覚醒させたこの被検体に、なぜあのようなユニークネスが扱えるのか···」
ユニークネス──超能力と呼ばれるものの中でも、レアな能力をそういう。
メジャーなものは能力者の世界ではオーソドックスなものとなり、ある程度の力を有している者ならば使える汎用性の高い能力だといえた。
それに対してユニークネスは、二つとない激レアなものだ。その希少性は能力者の中でも0.01%に満たない保有率といわれている。
しかも、ユニークネスは先天性のものばかりで、後発的には身につけることができないというのが定例だった。
薄らと目を開けてみると、視界は白い膜のようなもので遮られている。
腕と足に枷をつけられているのも知覚できた。
どうやら気を失っている間に囚われたようだ。最悪の展開だった。




