Episode.66
最近の映画では、ガンフーと呼ばれる格闘技が流行っている。
アクション映画に興味がなければ、「なんだそれ?」と思う人も多いだろう。
ガンフーとは、銃とカンフーを合わせた造語でガン・カタとも呼ばれている。その名の通り格闘技に銃撃を組みあわせた超近接格闘技で打撃や投げ技、締めなどが基本となり、そこに銃による殴打や防御技が加わるのだ。
当然のごとくトドメは銃で撃ち殺すのだが、それは映画での見せ場づくりのためで「実戦的ではないのでは?」と思う者も多いかもしれない。しかし、狭い通路や室内での銃撃戦というものは、慣れている者同士では意外と決着がつきにくいのである。
死角から狙い撃つならともかく、目の前の相手に照準を合わせて引き金を絞るというのは素人相手にしか通じない。技量にもよるが、単発撃ちの拳銃は反動が強く、しっかりと両手でホールドしておかなければ数メートル離れると外しやすいのだ。
5メートルの距離で急所を撃ち抜けるか否かが、プロとアマチュアの境目ともいわれている。それは銃自体の重量や反動による影響、そして射手の精神的な余裕の有無にも左右されるからである。
そもそも、慣れていない者が人に向けて銃を撃つ時に感じるのは、「相手を殺してしまうのではないか?」という自分の行いに対する不安と恐怖なのだ。さらに、その感情は「怪我をさせてしまう」ということに関しても同じことがいえる。
わずかな躊躇いというものが決定的な隙となり、そこに銃撃から格闘戦へと発展する余地があった。また、日常的に殺人に関わるプロ同士の場合、銃撃では勝敗が決まらずに同様のケースに陥ることも多々あるといえよう。
今の俺は正にそういった状況にいる。
警備室を制圧して中のPCデータを物色しようとすると、背後から物音が聞こえた。
念聴で備えていた俺は咄嗟に床へとダイブする。新たな敵の銃撃を避けることはできたのだが、さすがに反撃するには至らない。
相手は死角に身を隠しながら素早く接近し、再び銃弾を浴びせようとしてきたのだ。
こちらも応射するが、動く標的にはなかなか当たらない。
3メートルくらいの距離へと近づかれた時に、デスクトップパソコンのキーボードを投げつけた。
それに反応して動いた相手の腕を蹴りあげ、持っていた拳銃を後方へと飛ばす。
しかし、すぐに反撃された俺は、裏拳を頬に叩きつけられて壁際まで後退した。




