Episode.65
俺は盲射で応戦した。
すぐにこちらに着弾が集中する。
どうやらあさっての方向に撃っていたようだ。しかし、今の銃弾で相手の位置が割り出せた。
武術の達人や熟練の軍人レベルで気配が読めるわけではないが、この距離なら能力を露呈させずに念聴も使える。
念聴とは、聴覚ではなく感覚で音を聴くことだ。相手の息づかいや囁きなど、通常では聞こえないものも捉えることができる。ただし、能力を隠蔽するためには、センサーが感知する下限数値より下になるよう調整しなければならない。
もっと遠距離や壁越しに小さな音を捉えようとすると露見する。また、同じ能力者が近くにいれば隠すことは難しい。
こういったところに能力の発動には煩わしさがあるのだ。理想をいえば、能力なしでも気配を感じとることができれば問題は生じないのである。
FN Five-seveNの引き金を絞った。
今度は連射せずに単発で撃つ。
銃口を飛び出た弾丸に指向性をもたせた。
簡単にいえば、弾丸を念動力で操作するのだ。
制止している物体を動かすのとは異なり、音速で動く弾丸に方向性を持たせるのにはコツがいる。念動力と合わせて他の能力を重ねがけする場合は、さらに特殊な作用を必要とした。
弾丸の射線を凝視する。
ここでも予知視を使い、弾丸へ軌道修正をかけていく。
使用する念動力は極わずかなものだ。弾丸の後端に少し力をかければいい。
わずかとはいってもそのコントロールが難しいのだが、数をこなすことで様々な弾丸をコントロールできるようになった。一言に弾丸といっても、口径や質量も様々なため、個々に力加減が異なるのである。まあ、それだけ荒事に駆り出されているということなのだが。
標的までに障害物があれば、それを回避させるための軌道修正を繰り返す。
二度ほど鋭角に弾道を変えた弾丸は標的に命中した。
着弾のタイミングでくぐもった呻き声が聞こえたので、ほぼ間違いないだろう。
念のためにもう一度同じ軌道で単射する。
今度は着弾音だけ聞こえた。
肉にくいこみ貫通する擦過音。そのすぐ後に液体が床に落ち、重量物が倒れる音まではっきりと知覚できたのだ。
能力を検知されることを考えなければ、鋭角ではなく弧を描くように弾道を変えることも可能だろう。
そうなれば、死角に潜んでいる標的を追尾することもできる。
しかし、今はまだそれを試す時ではない。こちらの能力がバレてもかまわないタイミングまでは隠蔽しておきたかった。




