Episode.58
口径だけを見ると非力さを感じるかもしれない。
拳銃ではトカレフTT-33の7.62mmやベレッタPx4の9mmなど、貫通力やストッピングパワーに優れた口径のものを愛用する者が多い。
貫通力とは文字通り物を貫通させる力、ストッピングパワーとは銃弾を命中させた生物をどれだけ行動不能にできるかという意味である。
軍や銃の所持が合法的な国の警察などでは、そういった銃を使用しなければ相手を制圧できないことが理由だ。
それを前提とした場合、5.7mmというのは口径だけでいうと心許ない。しかし、FN Five-seveNの弾薬はライフル弾のようなボトルネック形状をしており、初速の速さでボディアーマーを穿つ貫通力を有している。
また、弾体が軽量なためストッピングパワーを不安視されていたが、ファブリック・ナショナル社は対象への着弾後にも波打つような挙動で傷口を広げる効果があると発表した。
Five-seveNは高い貫通力のため、オリジナルモデルの一般販売はされていない。ただ、弾頭にポリカーボネートを使用し、重量を増加させたスポーツ用の弾薬と一緒に民間向けモデルを発売している。
ああ、この説明を見て、俺をガンマニアと感じた奴も少なくはないだろう。
それは半分は正解である。
俺は幼少期よりハリウッドのアクション映画ファンであり、スクリーンで使用されている銃器を見て心を躍らせていた。
学生時代にはなけなしの金をはたき、グァムのシューティングレンジで実弾を撃ったこともある。
とは言っても、シューティングレンジで撃てるものは装薬─薬莢内の火薬量を極端に減らしたものでしかない。
この施設に収容されてから初めて銃を持たされた際、38口径のリボルバーの発射時の反動の大きさに驚いたものだ。規定量の火薬が入った弾薬とは、それだけの火力を発揮する。
実銃に馴染みのない日本人なら、皆が俺と同じような反応を示すのかもしれない。
所持品で体が重たくならないよう取捨選択を行い、早々に部屋を出た。
警備室までの通路には防犯カメラが設置されているが、警備服を着込んでヘルメットを被った俺の顔までは判別がつかないだろう。
しかし、ひとりで行動していることを訝しまれるかもしれない。
その不安はすぐにインカムからの声で的中することになる。
「こちらベース。状況を報告せよ。」




