Episode.55
「警備室に行ってくる。」
『危険だと思うけれど。』
警備室でもすぐに異変に気づくだろう。
奪った警備服のポケットには小型の送受信機があった。
ヘルメットにインカムが搭載されているにも関わらず、別で送受信機を所持している理由は明確だ。
非常時、もしくはインカムの有効範囲を外れた場合の緊急連絡用である。
ここの警備員が装備しているインカムはBluetooth仕様や無線などの汎用品ではなく、絶縁体を通過する特殊なものだと聞いている。
強力な通信を可能とする分、有効範囲が狭くバッテリーの消耗が著しい。中継ポイントなどによる通信範囲の拡大も、特性として難しいのだろうと推測できる。
だからこそ、施設内であっても別の送受信機が必需品となるのだが、この送受信にはGPS発信機も仕込まれていた。
要するに、連絡が取れなくなった警備員の居場所を瞬時に特定することが可能なのである。
発信機の裏表を確認するが、バッテリーを取り外せるような部分はなかった。取り外せるタイプなら電源からの供給を断つことができ、GPSの電波を止めることができたのだが、残念ながらそう簡単な仕様ではない。当然のことだが、任意でオンオフを切り替えるタイプでもなかった。
「悪いけど、ちょっと細工するから静かにしていてもらえるか?」
『わかったわ。』
ファーストにも今から何をするかわかったようだ。
彼女も俺と同じで、チャンスがあれば知識を蓄えて活用するタイプなのだと勝手にイメージした。
ふと、それならばこの機会に、俺と同じく逃走を企てているのではないかという考えがよぎる。ならば声をかけてみるべきか⋯いや、自らの逃走のために利用される可能性がないともいえない。
利己的な考えだが、そういった狡猾さがなければ能力を隠し通すことなど不可能だ。
もし違うなら、自分は身勝手で最低な奴かもしれない。しかし、このチャンスを無下にはしたくないという気持ちが強いのである。
ファーストからの申し出がない限り、彼女の目的を詮索するのはしないことにした。他人を思いやる前に、自分が自由を取り戻せなければ意味がない。




