Episode.49
この施設から無事に抜け出し、平穏な日々が送れるというならばNOAHの技術詳細は重要なことだろう。
VRMMOに触れなくとも、日々の技術革新で家電製品や街中に取り付けられたセキュリティシステムなどに、NOAHの技術が組み込まれる可能性がないとはいえない。
そんな状況になれば、日々の些細な油断で再び似たような環境に放り込まれてしまう可能性は低くくなかった。
しかし、今こうしている間も、把握しきれないカメラやセンサーで状況がモニタリングされている可能性があるのだ。
五体満足で逃亡したとして、次は追跡者に追われる。
追跡者とは、自分と同じ能力者だけに限らない。
街中や各商業施設などに設置されているあらゆるセキュリティシステム、警察を始めとする司法機関や民間の調査会社など、その界隈のあらゆる組織や仕組みから追われると考えるべきだった。
そこにNOAHのシステムが組み込まれるとさらに厄介なことになるのだが、そこは施設を脱出してから対策するしかない。
この施設のバックボーンは、日本の根幹に関連している。
そして、1995年に終結したはずのスターゲイトプロジェクトとの関係もゼロではなく、いまだに米国中央情報局が非公式の国外プロジェクトとして推し進めている可能性すら考えられるのであった。
「う···うう·······」
呻き声をあげた男の記憶を自らの脳に転写する。
これも俺が持つ能力のひとつではあるが、何のことはない。念視と念写の応用である。
他人の記憶を念視で読み取り、念写で記録するのだ。何だったら紙などの媒体に文字やイラストで残すこともできる。もちろん、新進気鋭の書家やイラストレータの作品をパクって売り出しても良いくらい精度も高い。まあ、間違いなく盗作と見なされるだろうが。
この施設に設置されているパソコンなどの機器類には、データ出力のための端子が用意されていなかった。職員によるデータ流出を防ぐためではあるが、実の所、俺には何の障害にもならない。
理由はこの能力である。使用者の記憶に直接アクセスすれば良いだけなのだから、これ以上簡単なことはない。そして、この能力で俺は諜報部門で重宝されているのである。
因みに、パソコンなどの記録を閲覧することに関しては二通りの方法がある。もちろん、正規にログインするわけではない。
ひとつは前述の使用者の記憶にアクセスする過去視で、比較的メジャーな能力だ。
もうひとつはあまりやりたくないが、ディスクなどの記録領域を念写で読み取ることである。
デジタルデータというものはすべて0と1の二種類で記されており、例えばアルファベットのAは01000001、Bは01000010というような8桁の組み合わせで256通りのデータを表しているのだ。
それを読み取り解析する。
膨大なデータになるほど緻密な作業となるため、余程のことがない限り行わない。頻繁にそんなことをすれば、俺の脳が焼きついて何らかの障害を起こすだろう。




