Episode.37
業務上、オンラインのIQテストを受検することは必須だった。
大学を卒業して外資系企業に就職した俺は、日本国内での業績を認められて米国にある本社へと栄転したのである。
そこで個人の能力値を測るためのテストを受けさせられた。
IQのみならず、身体能力や論理的思考力の測定、さらにストレス耐性や適性検査のようなものまで受けさせられた俺は、不信感から自らの能力を隠蔽することにしたのだ。
この点について、俺は学生時代より様々な文献に触れ、ひとつの処世術を身につけている。
俺の能力は先天的なものではないと思っていた。
才能が開花したのは中学生の時で、直前に交通事故による脳手術を受けている。
信号無視で突っ込んできたトラックに、横断歩道上ではねられたことによる脳挫傷が原因だ。その時、流行りのラノベのように異世界にでも転生していたら人生は変わっていたのかも知れないが、そうは問屋がおろさなかった。
脳挫傷の死亡率は40%と高く、健常での社会復帰は31%と低い数値を表している。
後に当時の心境を両親が語ったことがあったが、「あの時はたまたま脳外科の世界的権威である月影先生が、搬送先の病院を訪れていたからおまえは助かったのだ。九死に一生とはこのことだな。」とのことだった。
親父は「幸運だったな」などと言っていたが、この施設に収容されることになった俺は、やはりあの事故が俺の人生を急展開させたのだと悟っている。
世界的権威か。
ただのイカれ野郎じゃねぇか。
この施設の運営管理者と思しきひとりに、日本人がいた。
それが脳外科医の月影英二郎だったのだ。
奴いわく、ここはかつての米国陸軍が超極秘計画として進めていたスターゲイト・プロジェクトの再来なのだそうで、多額の公的資金が投入されているとのこと。
スターゲイト・プロジェクトとは1970代~1994年頃まで実際に行われた計画で、遠隔透視能力を研究して軍事作戦に利用しようとするものだ。
その計画は幕引きされたと何かの文献で読んだことがあったのだが、現在では米国陸軍の心理作戦司令部が引き継いでいるという見解もあった。
そう考えると、この施設はそれの外部機関なのかもしれない。
月影英二郎はこの施設にはふたつの区分があり、自分はムーンシャドウチームを管理していると言っていた。
月影をそのまま英訳した安易なネーミングだと思っていたが、そのチームの役割を聞いて何となく適切なものだと納得してしまう。
超能力は大きく分けてふたつに分類された。
超感覚的知覚のESPと念動力のPKである。




