終幕を演ずるは
証言台に三人の証人が並ぶ。左から黒灰の羽毛に覆われた小柄な男の鳥人と、概ね紺に近い黒い羽毛に覆われた同じくらいの大きさの女の鳥人。最後に右側に二人より背が高く白い羽毛に覆われた男の鳥人。
二人並ぶデリラとピューアリアは凸凹だが、三人並ぶと段差を思わせる。翼はぶつからない様に折り畳まれていた。
「証人らは身分を示す事」
同じ鳥人であるからか、何がとはわからないが、ナウアはいつもとアミヤの声の調子が違う様な気がした。
「〜〜〜〜」
新たな証人に進展の期待が掛けられる中、アミヤの促しに応えて発された黒い鳥人の声は、か細く聞き取れるものではなかった。
「ワタシが代わりに話しますわ!」
見かねたというのでもなく、燕の鳥人が一歩前に出る。いや、前に出た様に錯覚して見えただけで、実際にはその場で仰々しく動いたに過ぎない。
彼女は右手を横に伸ばし、肘を曲げて胸元に手を当てる。演説でもする気だろうかとナウアは思った。
「彼の名前はクロウ=ジルコ! 最近ワタシのいる空圏管の三番隊所属となった新兵ですわ!」
陸圏管は第○小隊という呼称だが、空圏管は○番隊という呼び方で使い分けているのをナウアは初めて知った。
「彼は恥ずかしがり屋で喋るのが苦手みたいですから、代わりにワタシが話しますわ! よろしいでしょう?」
「……仕方あるまい。許可する」
アミヤの中でどの様な思考が行われたのかわからないが、アミヤは目を閉じたままスワローテの要望を承認した。
「ありがたいですわ! そして、ワタシはスワローテ=イルミア! 見ての通りの虜人です! よろしくお願いしますわ!」
恐らくこの場でトリビトを虜人と訳せたのは自分と、発言者の隣にいる二人くらいだろうとナウアは半ば呆れながら思った。
「よろしい。では、最後の証人よ。身分を示す事」
アミヤもこれまでに出会った事がない型の相手だったのか、ナウアからは少したじろいで見えたが、進行は恙無く行われる。
しかし、三人目の証人は口を開く代わりに脚を開いた。右腕を天に伸ばし、体を捻り、脚を何度か組み替えて翼を広げる。それから、閉じた脚を軸にその場で一回転して見せた。
「……証人? 今のは一体?」
「ワタシが代わりに話しますわ!」
困惑に包まれた法廷に、先程聞いたような台詞が響く。
「彼はマイズ=ノレハ! ワタシと同じ三番隊の隊員ですわ! 彼は自分の意志を踊りで示す事に拘りを持っていますから、ワタシが代わりに通訳しますわ!」
「拘りと言ったが、話す事が出来ない訳ではないのだな」
「その通りですわ! ですけどワタシが彼の舞を見て通訳出来るのですから、言葉は不要ですわ!」
「……許可する」
眉間を抑えながら答えるアミヤにナウアは同情した。証人として扱いにくいというデリラの言葉が偽りでない事も理解できただろうとも思う。
しかし、真実の為には彼女らを呼び出す必要があった。
「さて、ここまでの裁判を傍聴していたら理解していようが、貴公らは代弁士から被害者を殺害した容疑を向けられている」
「存じていますわ! ですが、ワタシ達は休憩していただけですもの! 捜査士官に話した通りですわ!」
「では、デリラ卿よ。聴取内容を報告する事」
デリラが鷹揚に頷く。隣のピューアリアは、とうとうその場に座り込んでしまったらしく、ナウアから見えなくなってしまっていた。
事前にガトレと話した際には油断ならない相手と認識を合わせたが、蓋を開けてみれば敵となるのはデリラであった。ナウアの警戒度も既に移り変わっている。
「じゃあ、俺から報告しますよ。報告によれば、休憩に入った時間は三名とも変わらず。隊の休憩時間としてなので当然ですね。三名とも徒歩ではなく、飛行で留置所付近に到着。順番はスワローテ、マイズ、クロウとの事」
「間違いありませんわ!」
スワローテの差し込みにデリラは苦笑しながら会釈し、話を続ける。
「スワローテが到着した時点で、被告人は留置所から立ち去る前後と見られてます。その後の三名の行動は、スワローテとクロウは樹上で会話を、マイズは踊っていたらしいですね」
「その通りですわ!」
「上面図も出して説明しましょうか」
デリラが机に触れて操作を行う。法廷の中央に光学的な出力が行われ、上面図が表示される。
映像と呼ばれ、見えるのに触れる事が出来ないそれは、見えないのに触れる魔力とは反対の存在。いずれ、魔力ですらも可視化出来るようになるのだろうかと、ナウアは夢を見る。
「留置所の付近は、万が一脱走が発生しても見晴らしが良いように、一本の大木を除いて伐採済みです。スワローテとクロウはその木の低い枝に座っていたという話です。俺が二人から三人分くらいの高さですね」
「周囲を建物に囲まれているから、地上だと風通しが悪いのです! だから木の上で休んでいたのですわ!」
やたらと声を張っているが、そういう喋り方というだけで、文句がある訳ではないのだろうとナウアは感じた。不満ではあるのだろうけど。
「マイズは縦横無尽に踊ってたらしいです。踊っているマイズは食事を届ける最中に、レシルも見たとの報告を受けています。この三人の聴取が行われたのも、その背景からです」
こんな所で目撃をされるはずもないのに、どうやって証人を見つけたのかというナウアの疑問は氷解する。
それから生じた新たな疑問は、その目撃情報がレシルから出た事だった。ナウアの予想では、レシルは自身で口封じを行ったのではなく、誰かに口封じをさせたというものだった。
それなら、本人に動機がなくても事件は成立する。口封じをさせる為の情報は、間諜なら一つや二つ持っていてもおかしくない。だが、犯人が捕まれば自分の事も言われる可能性がある。なら、犯人に繋がりかねない情報は取り除くべきだ。
もしかして、犯人はこの三人の中にはいないのでは。そんな不安が、ナウアの中で鎌首をもたげる。
「三名の証人は被告人が留置所を去った後から、第一発見者が被害者の元へ訪れるまで留置所の外にいました。法務官として申し上げますと、外からの犯行は不可能であった。つまり、留置所の内部から、被告人が何らかの仕掛けを用いて事件を起こしたというのが結論です」
「ふむ。信憑性は低いものの、ストウ氏は被告人が去った後に事件が起きたと証言し、第一発見者が来るまでの出入りはない。そして、外には三人の人間が常にいた。デリラ卿に理があると見えるが、代弁士よ、如何か」
ナウアも同じ思いだった。
普通に考えれば、そう考える方が自然で、どうやって被告人が殺人を実行したのか、仕掛けについて考えるのが生産的だと思う。
でも、今回の被告人はガトレ様だ。だからこそ、存在すらも見えていない他の可能性を信じられる。
「確かに、法務官の言う通りです。もしも、三名の証人の隙を掻い潜る事が一切出来ない状況であったのなら、ですが」
嫌らしい戦い方をしなければならない。三人に結束させてしまえば、揺さぶる事が出来なくなってしまう。
「まさか、三人が共犯という事はないでしょう。陸圏管だった被害者と、空圏管の三名では接点もなかったはずですから。しかし、誰か一人が他二人の目を掻い潜る事なら出来るかもしれません」
幸いにも、この三人は長年の仲間という訳ではない。少なくとも一人は、隊に加入して日が浅い。
「証人らに証言を求めます。内容は、休憩時間の行動について。本当に、外からは何も出来なかったのかを検証させてください!」
中から犯行が実行出来なかったのなら、残るは外からしかない。そもそも、留置所は四方が感応術式で守られており、魔術で害を与えるなら上か下からしかないのだ。
デリラさんの魔術陣を否定した以上は、上からの魔術で犯行が可能であったと証明するしかない。
「そろそろ無駄な足掻きだってわかって欲しいのニー」
姿の見えない声がナウアに届く。ナウアは虚勢を張って返す。
「研究というのは、足掻きに足掻いて研鑽を積んだ結果、究明の光が見えるものではないのですか? それなら、無駄な足掻きというのは、一つだって存在しません」
「……面白い事を言うニー」
立ち上がったピューアリアとナウアの目線がぶつかる。ピューアリアから気怠げな様子は消えていた。
「先が見えない物に足掻く価値はあっても、先が見えた物に足掻くのは無駄だニー。さっさと切り捨てて新しいものに目を移した方が良いのニー」
ナウアは気まぐれと言われるピューアリアの真理を見た気がした。
ピューアリアはただの気紛れではなく、能力があるからこそ興味を持ったものを見極めて次の研究へと移る事が出来る。移り気は必ずしも飽き性によるものではないのだろう。
それを理解した上で、ナウアはピューアリアを煽る事にした。
「それなら、この足掻きが無駄ではないと証明してみせます。今は私が足掻いていても、少ししたらピューアリア様が足掻く番ですよ」
私とガトレ様に興味を持たせる。それに成功すれば、ピューアリア様が英雄殺しを解決してしまうかもしれない。
愚かさを笑わせない為の戦いを始めよう。
「さあ、証言を始めてください!」
黄色く輝く猫人の目を、決して私から逸させない。
前回の更新が丁度本作の連載一年目くらいだったようです。一年で完結させるつもりが長引いてしまったものです。
キリ良く前回更新でリアクション合計が100になったのが個人的に嬉しいポイントでした。いつもありがとうございます。
少しずつ頼もしくなってきた気がするナウアと共に、終幕までお付き合い頂けますと幸いです。




