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流れ魔弾と救国の英雄  作者: 天木蘭
3章:最後の裁判

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終焉の様な暗闇

「証人よ。貴公は被害者を殺害していないと言うが、それを証明する事」

「証明するまでもありません。俺が到着した時、既にイパレアは死んでいました。何なら、看守に確認してみてください。俺が中に入ってからイパレアを殺す程の時間はあったのかとね」

「その時間はなかったというのが法務官側の見解です」


これまで成り行きを見守ってきたデリラがレシルを援護する。


「レシル氏は中に入って、本当にすぐ戻ってきたそうです。食事も牢の前において、走って戻ったと思われたと聞いていますよ」

「あまり時間を掛けると疑われると思ったんで、死体を見て即座に戻る判断をしましたから。本当に予想外だったんですよ」


態とらしく首を振るレシルの姿は、ナウアからは白々しくも見えたが、日頃の間諜としての活動が、素の感情表現をわからなくさせているのかもしれないと考えた。


恐らく、演技であればもっと自然に見えたのではないだろうか。演技だとすればあまりにも下手なレシルの反応を、ナウアはそう分析する。


同時に、レシルが犯人ではないという前提の下、導き出した別の結論を検討する。その時間稼ぎとしても、現状の話題は都合が良かった。


「ちょっと待ってもらいたい!」


そこへ、声が挟まる。ナウアにとって幸か不幸か、その声の持ち主がもたらすものは、まだ判断がつかない。


「証人。ストウ=ザナトリクスよ。如何した」

「第一発見者が犯人であるというのは、絶対に認められません。何故なら、第一発見者が来る前に、イパレアは襲われたと考えられるからです!」

「何を根拠にしているのか示す事」

「私は、事件が起きた瞬間の音を聞いています」


一瞬、場が白けた。そもそも、ストウは先の証言から証人として期待もされていない中、肝心な根拠が否定されたものであったからだ。


「貴公が証言した事件の瞬間というのは、既に代弁士によって虚構であったと証明されている。再度の証言は不要」

「違います! 私は、本当の事を証言します!」

「本当の事? それはつまり、法廷で故意に虚言を吐いたと認める事」

「申し訳ございません。私は被告人への復讐心から、殺害方法を予想して証言を行いました。ですが……」


そこで言葉を切り、一度ナウアの方を見てから、ストウは続ける。


「被害者が家族の為に脱走を企てたというのなら、それは私が守りたかったハロルと同じ志だ。ここでその意思を挫いた者を見捨てては、ハロルに合わせる顔がない」


ストウは目が覚めたかの様な事を言う。ナウアはその様子に懐疑的であった。


「ニハハハ!」


一方で、場にそぐわない笑い声をあげたのは、法務官を務めるピューアリアだ。


「ピューアリア! 何がおかしいのだふ!」


嗜めたのは交報門の門頭であるエインダッハ。法廷の長であるアミヤは、もう諦めているのかもしれない。


「気にしないで欲しいのニー。ちょっと尻尾がこしょばかしかっただけだニー」


明らかにそういった系統の笑いではなく、愚かしさを笑う様な声だったけど、とナウアは思うが、法廷には関係ないので閉口する。


「アミヤよ。俺は証人の心意気に感心したぞ。証言を認めるべきではないか」


期せずしてピューアリアによって調和が乱されたからか、コゲツがアミヤに提案する。ナウアは、本気で言っているのなら少しだけ軽蔑してしまいそうだというのを心の底にしまい込む。


「仕方あるまい。証人よ。証言台に立つが良い」

「ありがたく。しかし、その前に一つ尋ねたいのです。レシル=ピントナよ。イパレアが家族を人質に取られていたというのは、事実なのか?」


それは未だナウアの推論でしかないが、半ば真実として進んでいた話であった。それがストウが動く同期になるのだから、確かめたくもなるだろう。


「否定しない。けど、確証もない。イパレアの思い込みかもしれないからな」

「どういう事だ?」

「俺は渡されたものをイパレアに渡して、人質を取っていると伝えただけ。そこから監視役にもなったが、肝心の人質については知らないな」

「何かを渡されたのなら、その者は誰か」

「渡されたと言っても、部屋に帰ったら指示書とモノがあっただけで、誰からかは分かりませんよ。どうせ見張りが付くでしょうし、見つけられるなら見つけてみてください」


仲間の存在を隠し通そうとしているのか、開き直ったが故の開けっぴろげな態度であるのか、ナウアにはやはり解読しきれない。


「ただ、これは偶然かもしれませんけど、ここ数日は、俺の元に何の指示も来てないんですよ。もしかしたら、連絡が出来ない状況になったのかもしれません。例えば、死んでしまった、ですとか」

「それは、直近の死者に貴公へ指示を出した者がいたという事か?」

「ご自由に考えてください。俺は何も知らないんですから」


魔道銃の導入後、戦死者は格段に減った。それを盤石にしたのが英雄という存在であったが、英雄が亡くなっても慎重に戦闘を行えば死者は出ない。


医圏管師の経験からそこまでは考えられるが、直近では従来の職務から外れた行動を取っていた為、ナウアの中で特定には至らない。


「各門頭よ。死傷者を把握しているか」

「戦闘門では直近の作戦において戦死者は出ておらん。裁判で知っておろうが、戦闘門の死者はロロアル=ノトスとスソノ=イパレアの二名のみ」

「たはは……。ピューアリア様に代わって回答します。究謀門からは実験事故による傷病者はおりますが、いずれも復帰済み。死傷者はいません」

「コンココン。会計門ら死傷者、傷病者ともにおりませんの。忙殺されている人員はいるでしょうけど。後程報告致しますわ」

「交報門も同様だふ。外交活動の為に長期不在としている者を確認し報告するだふ」

「最後に衛生門の儂から、各門頭の死傷病者報告は正しいものだと保証しよう。療養中の患者もなかろうて。職務に復帰できていないものはおらん」


門頭達の報告から、明らかになっている行動不能な人物は二名のみ。そして、その内の一名が死者となったのは昨日の事。そこから考えられる一つの結論は。


「ロロアル=ノトスが内通者であったか」


ナウアの至ったのと同じ結論をアミヤが口にする。


「それは早とちりじゃろう」

「おう。俺もそう思うぞ」


しかし、それをサジとコゲツが否定する。


「貴公らの異議を聞こう」


アミヤは少し不愉快そうにしながらも淡々と尋ねる。


「先の報告の通り、まだ内通者が死傷病者と決まった訳じゃなかろうて。それに、正透門の状況も聞きたいところじゃが」

「失礼した。正透門も死傷病者はなし。業務は公正公平、故に忙殺されている者もなかろう」

「そりゃまったく、大したもんじゃのう」


驚嘆と捉えて良いはずなのに、感情の読めないサジにナウアは不気味さを覚えた。


「一旦、この話は門頭で預かる。内通者の調査とイパレアの家族への保護も検討しておく。これで証言の条件は整ったと考える事」

「……わかりました。おい。証言台から退いてもらおうか」

「やれやれ。若いな」


証言台から離れ行くレシルに、やはり年を重ねているのだとナウアは得心し、油断ならない目線を送る。


「ナウア」

「はい」


そこへ、背後から信頼している声が届く。


「ここでのストウの証言が、真相に近づく為の鍵になるのは間違いない。道は見えているか?」

「はい。証言の内容にもよりますが、進む先は決まっています。ガトレ様もそうですよね?」


ナウアが編み出した新たな道は、ガトレにも共有済みの情報によって作り出されている。ならば、ガトレも辿り着いているはずだ。


「……いや、悪いが、俺には何も見えていない」

「ガトレ様……?」


ガトレは今までナウアに見せてきた、全てを見通す様な理知的な表情を一気に失くして、頼りない表情を浮かべていた。


「正直、何も思いつかないんだ。今回の事件について身が入らない。集中が出来ない、というのが正確なところだ」

「そんな、どうしてですか? この裁判だって、負けたら終わりなんですよ!?」

「わかってる。しかし、この裁判を乗り越えても、そのまま英雄殺しの裁判に突入する。本当に、必要な情報は全て集まっているのだろうかと、不安になるんだ」


ナウアにも、ガトレの心情は理解できた。心の底では同じ事を考えていたからだ。


裁判にはいつも、答えが見つからないまま挑んできた。万事、何事も、上手くいく。それは、自身に言い聞かせる為の言葉だったのかもしれない。今になって、ナウアは振り返る。


不安になって、励ましてもらった。だけど、違う。被告人の立場に置かれ、最終日に捜査の機会すら剥奪されたガトレ様の方が、不安に思っていて当然だ。


目の前の問題を片付けて、次の問題へ挑む。その単純な事が、命が掛かっているというだけで、どれ程の負担となっている事か。


「全て、理解しました」


自分の事だけ考えるのは辞めよう。私がガトレ様に支えられるのではなく、支え合わないといけないんだ。親同士が手を取り合って子供を育む様に、協力し合わなければならないのだ。


どうして、約束が果たされてからでないと、それが出来ないと思い込んでいたのか。それが出来てこそ、約束は果たされるのではないだろうか。


「ガトレ様、分担しましょう」

「分担だと?」

「はい。ガトレ様は考えたい事を好きに考えてください。きっと、英雄殺しの事になるでしょう? 私は、この事件を全力で解決します」


それが、助手として、今の私がやらなければならない事だ。そう、ナウアは決心した。


「あなたの助手にお任せください。この事件の解決は治療魔術よりも容易く出来ますよ」

「……任せた」


色々と思うところはあったのだろうが、ガトレはそれらを噛み殺してナウアに全てを託した様だった。そして、深呼吸をしてから目を閉じた。どんな声も光景も届かない深いところは潜り込む様に。


ナウアはガトレの様子に安心して前に向き直る。


この事件を解決する事に対して、今のナウアには自信があった。何故なら、託されたのだ。最も信頼している人間に。自ら請け負ってまで。


今は英雄殺しの事を忘れる。そっちはガトレ様が解いてくれるはずだから。


ナウアもガトレに託した。目の前を閉ざしたガトレの代わりに、目の前だけを見れば良い。


「証人よ。貴公は特別に再び証言台に立つ事を許された。事件の瞬間について真実を証言する事」

「はっ。必ずや真実を語ると誓います」


ストウの二度目の証言が始まる。


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