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流れ魔弾と救国の英雄  作者: 天木蘭
3章:最後の裁判

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最終手段

「代弁士の推測は確かに筋道立ったものである。しかし、半ば確定であったイパレアの間諜という容疑が確定した事。これで何が変わるというのか」

「動機を示す事ができます」


現状、ガトレに容疑が掛けられている要因は、イパレアの殺害が可能であったという状況と、先の裁判で被害者と敵対関係であったという動機の存在だ。


そこに、別の犯人像を仕立て上げる。これでようやく、ナウアは戦える舞台に上がったと言える。


「イパレアは間諜であった。そして、家族を人質に取られていた。また、脱走の為に死を偽装する手段を選んだ。これらの事実は、軍の中にイパレアと通じる間諜がいたという事を示しています」


イパレアが間諜であると誰も知らないのであれば、イパレアが家族を救う為に脱走したとしても、その情報の価値はわからない。それなら、イパレアは自由に行動できた。


イパレアが間諜である。そして、家族を人質に取られている。この二つの情報があってようやく、イパレアの行動に制限を掛けることができるのだ。


「つまり、被害者が殺害された理由は、他の間諜による口封じの為と考える事も出来るのです」


イパレアを人質で制御していたのであれば、間諜の疑いを持って捕えられた以上、自分の事を暴露されるかもしれない。そう考えるのが自然だ。


何故なら、脱走を図った時点で、既に現状へ抗っているのだ。抵抗の意思が漏れてしまった。


だからこそ、イパレアは遺書の公開を求めた。家族を守れる可能性を少しでも上げる為に。仲間の情報を話さなかったのは、万が一に備えたのだろう。


ナウアはそこまで考えて、きっと、この推論をナウア自身で導く事が、ガトレにとって一つの賭けだったのだろうと思った。


被告人が何を証言したところで、そこに疑いの目が掛かってしまう。だからこそ、結論を自ら語らず、自然に導き出された様に見せる。その為にナウアを利用した。


私はガトレ様の期待に応えられただろうか。仮に利用されたとしても、私は一向に構わないけれど。


その答えは、裁判が終わった後に聞いてみようとナウアは思った。


「異議あり」


突然、ナウアの反対側から手が上がる。その持ち主はデリラであった。


「代弁士がこれまで語った事は全て憶測であり、被害者殺害の動機を持つ者がいたというのも証明され切ってはいません。それとも、間諜が他にいた事の証明が可能なんですか?」


挑む様な口調と態度のデリラに、ナウアは言葉が詰まる。


デリラの指摘の通り、全ては机上の空論だ。遺書などいくつか物的な証拠があっても、そこから都合の良い推論を導いたと言われればそこまでだ。


となれば、デリラの言う様に、イパレアと通じていた間諜の正体でも明かさない限りは説得力が劣る。


そんな事が出来るはずがない。しかし、やらなければいけない。


いつだって、ガトレ様といる時はこんな状況な気がする。


日々を懐かしむ余裕を持っている自分自身に、ナウアは驚く。しかし、その余裕がどこから齎されているのかというのは、考えるまでもなかった。


時間稼ぎだろうとしても、確信を持っていないとしても、この場で挙げられる答えは一つしかないのだから。


「わかりました。被害者と通じていたと思われる間諜を指摘しましょう」

「代弁士よ、本当に出来るのか?」


アミヤが疑念を隠さずに曝け出す。ナウアだって、自分の事を疑っている。ただし、それを包み隠さなければならない。


「出来ます。私の推論が正しければ、被害者と通じた間諜は、一刻も早く被害者を亡き者にしようと考えたはずです。つまり、その人物は被害者を殺害する為に、被害者との接触を図ったはずです」


そして、実際にイパレアは殺された。ならば、状況が疑うべき一人の人間を示している。


「私は、第一発見者となったレシル=ピントナ氏を、間諜の疑いで告発します!」


ガトレ以外に被害者と接触できた唯一の人物。

ナウアにはもう、その人物を告発するしか手は残されていなかった。


ナウアは伺う様に法務官の反応を確かめる。

ピューアリアは、目を閉じたまま楽しそうに笑っていた。

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