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流れ魔弾と救国の英雄  作者: 天木蘭
3章:最後の裁判

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イパレアの遺言

「さて、証明されたのは証人の発言には信憑性がない事。証人は一度、証言台から離れる事。進行はデリラ卿に返そう」


まだ何か言いたそうだったが、ストウは抵抗せずにチュユンに連れられて証言台から離れた。


「じゃあ次はアリアの番かニー」


対して、ピューアリアは懐に手を差入れると、封筒を摘んだ左手を眼前に出して、封筒を左右に揺らし見せびらかす。


「ピューアリア。それはなんだ」

「被害者の遺書ってやつだニー」


イパレアの遺書だ。ナウアは自ら入手できなかった証拠品を睨みつける。


「遺書とは、死が訪れる前に認めるもの。それが証拠品として機能するというのか?」

「見てもらえればわかるニー」


ピューアリアは前を向いたまま、左腕をデリラの方に伸ばした。肩を竦めて封筒を受け取ったデリラは、封筒から帯状の紙を取り出す。


「では、僭越ながら俺が、ここに書かれている事を読み上げますよ」


ナウアは既に違和感を抱いていたが、まずは内容を待つ事にした。


「シマバキ=ガトレに殺された」


デリラはそう述べて、一呼吸置いてから続ける。


「遺書の中身は以上です」

「それでは、被害者は被告人に殺される未来を予知したとでも言うつもりか?」

「被害者は間諜の疑いを掛けられていました。それが事実だった場合、もし自分を殺すのであれば、仲間かもしれない。そう考えて、告発の為にこの遺書を残したのでしょう」


尤もらしい持論を述べるデリラに、アミヤも神妙に頷く。


「なるほど。間諜としての職務に忠実ではなく、個人の恨みを優先させたのであれば不自然ではない事。代弁士よ。反論はあるか?」

「もちろん、異議はあります」


ナウアは自分の手番が来るのが待ち遠しかったほどだ。ナウアもまた、懐から封筒を取り出し、その中に入っていた便箋を表に向ける。


「ここにも、被害者の遺書があります。しかしこれは、四日ほど前に差し替えられたものです。内容も読み上げましょうか」


"

英傑たる存在を僕は見た。

が、文字だけでそれが伝わるだろうか。

けど、一つ言えるのは安心して欲しいという事。

くれぐれも僕の命が潰えた事を嘆かないで欲しい。留守は皆に託したのだから。


雄雄しき父。助力を惜しまない母。手料理の得意な兄。礼を尽くして止まない妹。君達の幸せをただ願う

"


ナウアは文面を読み上げた上で、デリラの提示した遺書の否定を始める。


「差し替え前の遺書では被告人を告発する文章はありませんでした。また、たったの一文ではなく、これだけの文章を記載しています。差し替え後の遺書に、差し替え前の遺書の内容が一切反映されないなんて事はおかしいです!」


話題が手紙の内容である以上、否定材料も行動原理を元にした不安定なものだ。それでも、ナウアの意見はデリラが持ち出した遺書が不自然であると思われるものではあった。


「では、代弁士は法務官側の提出した遺書が偽物だと言うのか」

「いえ、恐らく本物でしょう。人圏管で確認が出来ています。同様に、私が提出した遺書も本物です。二つの遺書がある以上、筆跡を示し合わせる事だって可能です」


遺書が偽物だというのは罠だろうとナウアは判断した。被害者からの告発は脅威的で否定したくもなるが、ここまでに確認した事を思い返せば、逆に利用ができる。


「その言い分だと、被害者が被告人に殺されたのだと書き残した事も事実となるが?」

「あり得る話です。私が提出した遺書の内容は英雄に関するもの。であれば、その話題と関連して、被害者がシマバキ=ガトレに殺されたと記載しても不自然ではない状況があります」

「なるほど。そういう事か」


アミヤもナウアの言に納得がいったようだ。ナウアには、アミヤが他の者でもわかる様になるまで易しくしてくれた様にも感じた。


「お考えの通りです。差し替え前の遺書は英雄の事。であれば、差し替え後もまた英雄の事を書くのが自然です。つまり、英雄殺しが起こった為に、被告人は遺書を差し替えたのです!」


差し替え前の遺書と、差し替え後の一文。それを紐付ける存在は英雄だった。


「デリラ副門頭。貴方が手にしている帯状の遺書。それも元は便箋であったのではないですか?」

「何を根拠に仰るのです?」

「裁断魔術です。元は便箋だったものを、裁断魔術で読み上げた部分だけを切り取って見せたのでしょう。被害者が遺書に書いたのも正確には、英雄がシマバキ=ガトレに殺された、というものだと考えられます」


ナウアは余裕のある表情を浮かべながら、内心ではかなり安堵していた。


サラエから差し替え前の遺書を入手できていなければ、デリラの提示した遺書について反論はできなかった。


ガトレがこの展開を予想していたのかはわからないが、ナウアはイパレアの遺書が重要だというのは事実だと改めて理解する。


「まあ、良いでしょう。いずれにせよ、決定的なものではないですからね。法務官側は提示した遺書が全文ではなかった事を認めます」

「デリラ卿よ。貴公は証拠品を改竄したと?」

「俺は究謀門の副門頭として、門頭の主義に沿ったまでです。全ては被告人を追い詰める為。多少、都合の良い形で証拠品を利用した事は認めますが、真実を悪意を持っていた訳ではありません。故に、改竄というのは否定しますよ」


デリラは悪びれませずに言ってのける。ナウアはそれがデリラの助け舟だと捉えて挙手する。


「アミヤ門頭。この事実から、法務官側が提出する証拠は今後も適切ではない形の可能性があります。以降、疑いを持って接する事を要求致します」

「……ふむ。一考に値する事。法務官側は、証拠や証言に先入観を持たれても受け入れる事。また、遺書の正しい本文を提示する事」

「たはは……。まあ、仕方ないです。短期決着とはならなそうですね」


デリラの視線が初めてナウアと交わった。一瞬だけ苦笑して見えたが、ナウアは気のせいかとも思うくらいの僅かな間だった。


デリラが本気でガトレを犯人にしようとしているのか、ナウアにはまだ判断がついていない。


イパレアの事件では助けも得られたので、味方と思いたいというのは心情としてある。しかし、究謀門の副門頭という地位に就いてもいる。それは、個人の感情よりも優先されるべき動機であり、敵対せざるを得ない理由でもある筈だ。


事実だけを見れば、遺書の改竄を行っており、こちらにイパレアの遺書が無ければ、それだけで押し切る事だって出来た可能性もある。


少なくとも、味方ではない。最終的に、ナウアはデリラをそう断ずる事にした。


「どれだけ長引いたとしても、私は被告人を守り切ります。どうぞ、遺書の内容を示してください」

「覚悟は十分って感じですね。じゃあ、改めて遺書の内容を読み上げます」


イパレアは封筒の中から穴の空いた紙を取り出して、帯状の紙で穴を塞ぐ。それから読み始めた内容は、表になった遺書の半分からも読み取れた。


"

僕はまだ信じる事ができない。

助ける事は出来なかったのだろうか。

二度とこの様な事が許されてはいけない。

苦を抱え英雄はシマバキ=ガトレに殺されたのだ。


我慢強い父。気高き母。いつでも正しい兄。世を儚む妹。君達の幸せをただ願う。

"


「以上です。代弁士の言う通り、被告人に殺されたのは被害者ではなく英雄の話です」


ナウアが読んだ差し替え前と同じ様式だ。しかし、遺書の内容は理解できたが、その上でナウアの疑問は解消されない。


どうしてイパレアは、遺書で英雄の話題にしか触れなかったのだろうか。


「なるほど」


そこで、一人だけ納得した様な声を漏らす者がいた。


「アミヤ門頭。何かお気づきになられたのですか?」


達成感の一端すら見せていない声の主へ、ナウアは尋ねる。


「見比べて法則を理解した。その意図までは読み取れない部分もあるが」

「法則とは?」

「この遺書が簡単な暗号だという事。遺族に宛てたという意味では正しかろう」


恐らくは法廷でただ一人、アミヤだけが、イパレアの遺書に託された言葉を読み取った。ナウアはそれを理解する。


そして、その答えを求めた。


「アミヤ門頭。一体、イパレアは何を伝えたかったのか、教えて頂けますか?」




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