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流れ魔弾と救国の英雄  作者: 天木蘭
3章:最後の裁判

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開廷:最後の裁判

「それではこれより、ヒト族シマバキ=ガトレを被告人とした裁判を開始する」


この場を牛耳る鳥人、正透門の長たるアミヤ=パルトの朗々たる声が法廷に響く。


役職の呼称は無かった。既に喪失が確定していたはずの命であるが故の沙汰を、ナウアは歯噛みして聞き流す。


「また、此度の裁判は特例として、法務官の位置をピューアリア究謀門頭が務める。最終的な判決に門頭の承認を得なければならぬ事を踏まえて資格、能力においても異論を挟む余地はなき事」


裁判の判決はアミヤによって下されるが、その処分の内容に不服を示す事が出来るのは、権力を持った者か門頭ぐらいしかいない。


納得を他者でなく自身の能力に委ねるという点で、運用上の問題は無いということにしたいのだろう。


ただ、規則を権力で捻じ曲げるというのは、アミヤが嫌いそうだとナウアは思った。しかし、そもそも権力差があるというのは、規則に基づいたものでもあるから、そうでもないのかもしれないとも考える。


「では、初めに事件の概要を説明してもらおう。ピューアリアよ。当然、準備は万端である事」


アミヤが法務官席を向くのに釣られて、大勢の視線が法務官席を向く。そこには二人の人間がいる。焦げ付いてしまいそうな視線の数に、ピューアリアは溜息を返した。


「デリラに任せるニー」


そう言ってピューアリアは上半身を机に投げ出した。ナウアが恐る恐るアミヤの方を見ると、アミヤは翼を震わせひどく顔を顰めている。しかし、ピューアリアは意に介した様子がない。


「たはは……。任されてしまったので、代理で説明しますね。ご存知ない方もいるかもしれませんから、どうも、俺はデリラ=ノザ。究謀門の副門頭です」


ピューアリアの代わりに注目を得たデリラが、頭の後ろに右手をやりながら笑う。気まぐれな長に並び立つ事を許された奇特な存在だが、就いている役職が能力を示している。


身体を投げ出して縮んだピューアリアと、直立しているデリラは丁度凹凸に並んでおり、余計に存在感を増していた。


「まず、ここにいる大勢が周知の事実として、昨日もこの法廷で裁判がありました。今回の被害者はその裁判で脱走の疑いを指摘された者です」


デリラは手元に紙の一枚すら用意せず、顔を上げて周りを見渡しながら語った。


「判決後、被害者は留置所の中で左胸の魔力循環器を何かに貫通されて死亡したと見られています。そして、最初に死体を見つけた者が現れるまでに被害者と面会したのは、被告人のシマバキ=ガトレただ一人。故に、被告人をイパレア殺害の容疑者として起訴する次第です」


流れる様に説明をこなしたデリラに、アミヤは満足そうに頷いている。ピューアリアへの怒りは収まったらしい。


「良き説明、誠に素晴らしき事」

「お褒めに預かり光栄です。ピューアリア様の指導の賜物、とは言いませんけど」

「アリアは関係ないからニー」


たはは……と笑うデリラに、目を閉じたままのピューアリアが払う様に手を振った。


「さて、被害者は罪の確定を待つ身とはいえ、未だその身は白黒のはっきりとしない存在であった」

「見た目からして白黒はっきりしてないからニー」


白黒の縞模様の毛並みを指して言ったのであろうピューアリアに、アミヤは木槌を打ち鳴らして応えた。


「故に殺害は罪である。此度の裁判はその前提で進行する事」

「では、法務官側からよろしいでしょうか」


アミヤの提示した条件の下、初めに挙手したのはデリラだった。


「許可する。進行を一度委ねよう」

「有難く頂戴します。まずは証人をお呼びします。この事件で唯一の目撃者です」

「許可する。証人は証言台に立つ事」


アミヤの命令に従い動き出す者はいなかったが、代わりに法廷の扉が開いた。そして、チュユン捜査士官に一人のヒト族が連れて来られる。


そのヒト族は両手を軍式拘束魔術で縛られており、明らかに罪人の様相である。しかし、その状況に身をやつしてまだ一日しか経っていない事をナウアは知っていた。


「証人は身分を明かす事」


チュユンを伴って証言台に立った証人に、アミヤは促した。


「ストウ=ザナトリクス。医圏管師です」


青い髪は短いながらも無造作に寝癖がついており、目はヒト族故に血走ってこそいないが澱んでいる。ナウアには顔も薄汚れて見えた。


「では、証言を認める」

「はっ。私は決定的な瞬間を目撃したのです!」


拘束された身でありながら開放感を得た気にでもなっているのか、ストウは生き生きと語り始める。


「私は犯した罪に向き合い、静かに瞑想しておりました。そこへ来訪者が現れました。間違いようもなく被告人です。それも一人でした。奴はイパレアの牢の前で何事かを話し出し、ひと段落すると水の魔術を使い始めたのです!」


拘束された手を振り回し、ストウは縮こまった身体を大きく使う。


「それから、研ぎ澄まされた水の刃でイパレアの胸を貫き出口へと向かいました! 私の牢の前で浮かべた冷徹な笑みは今でも忘れられません!」


左胸に何かを突き立てる様な演技がかった動きを交えて熱弁するストウを、ナウアは冷めた目で見ていた。


ストウがガトレに恨みを抱いている事は知っている。つまり、これは嘘の証言でしかない。根拠を探すまでもなく、ナウアにとってはそうだった。


「医圏管師ではなく役者になればいいのに」

「全てが演技とは限らない」


独り言を呟いたナウアは、背後からの声に振り向く。被告人としてそこに立っていたガトレは、真剣な眼差しをしていた。


「それが本当に真実なのだと信じていれば、世界にとっての虚構も当人にとっての事実となる」

「傍迷惑な話ですね」

「打ち破る事は容易いさ。嘘は嘘であるが故に脆い」


ナウアは頷いて、証言台に向き直る。


嘘は脆い。何故なら、真実ではないからだ。

ありもしないものがあるのだと信じ込むのであれば、それが存在しようのないものであると叩き潰せば良い。


「異議あり!」


ナウアは横から、そして後ろから見てきた姿を真似て、勢いよく手を挙げた。アミヤに見下ろされるが、物怖じせずに見返す。


「尋問すら不要とは威勢の良き事。代弁士よ。どこに意を唱える」

「証人は嘘をついています。証言によれば、被告人は魔術で水の刃を作り出し、被害者の左胸を貫いたそうです。しかし、被告人と被害者の間には牢の柵があります」

「そんなの、柵の隙間をすり抜ければ通せるだろう!」


牢の中に囚われていた筈のストウから反論が上がる。なりふりを構わなくなったのか、ストウが見ている事実の為に記憶の改竄が行われているのか、いずれにせよ、ナウアはストウを哀れんだ。


「お忘れですか? 牢は四方を感応術式で覆われています。魔術の内容は触れた魔力を利用して電撃を流すというもの。仮に魔術で作られた水の刃が柵の間をすり抜けようとすれば、感応術式によって電撃に変換され、被害者を傷付けるには至りません」

「ぬぅぅぅ!」


ストウは悔しげに唸る。ナウアは、自身が過去にストウを恐れていた事が不思議に思えてきた。


「ピューアリア殿はどう思われるか」


あくまでも公平に、アミヤは知識人へと教えを乞う。


「ニー。責任者として答えると、残念ながら代弁士の言う通りだニー。四方からの魔力は完全に遮断されるニー」


ピューアリアは机にもたれ掛かったまま、片目を開けて答える。


「わかっていたのなら、何故この証人を呼んだのか」

「アリアは被告人を犯人にするのが法務官の役割だと思っているのニー。有効だったら無駄にはしないニー」

「……良かろう。求めるものは違えど、全力で意見を通わせた先に最良の答えが見つかるという考えには沿っている事」


アミヤは冷静に木槌を打ち鳴らし、ナウアの方を向く。


「代弁士よ。この裁判、貴公が追及を受け切れなくなった時点で負けるものと思う事。ひとまず、今回の異議は認めざるを得ない事」

「ありがとうございます」


アミヤとピューアリアの問答は法廷の認識に影響した。今回の裁判は、受け手と攻め手とが明確になったのだ。


その先にあるのが無惨に崩壊した罪人の姿なのか、それとも磨き上げられた真実となるのかは、まだ誰にもわかっていない。

半年も掛かってようやく開廷しました。色々と後から推敲したいですね。裁判の行く末をどうかお楽しみ頂ける様に頑張ります。


ここから雑談ですが、最近出た魔法少女ノ魔女裁判というゲームが面白かったです。魔法×ミステリ×裁判の要素はこの作品とも被るテーマなのもあり大変楽しませて頂きました。


この際タイトルを普通に出してしまいますが、着想があちらはダンガンロンパ、こちらは逆転裁判という感じです。(ダンガンロンパ自体が逆転裁判からの流れだったかとも思いますが)

私はどちらも好きですし、恐らく出ないだろう続編を待ち続けています。

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