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流れ魔弾と救国の英雄  作者: 天木蘭
3章:最後の裁判

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夢の途中

「英傑たる存在を僕は見た。が、文字だけでそれが伝わるだろうか。けど、一つ言えるのは安心して欲しいという事。くれぐれも僕の命が潰えた事を嘆かないで欲しい。留守は皆に託したのだから」


ナウアが読み上げたそこまでは、一文毎に一行内に収まっていた。その後に続くのは、家族に向けた言葉だろうか。行内に収める事に拘らず、連続した文章になっていた。


「雄雄しき父。助力を惜しまない母。手料理の得意な兄。礼を尽くして止まない妹。君達の幸せをただ願う」


最後まで読んだ上でナウアは再び文章を黙読してみたが、何も読み取れる事はなかった。何か不自然さを感じてはいたが、答えにはならなかった。


「以上です」


空白を埋める様に時間を空けてそう言ったナウアは、ロローラとサラエの様子を伺った。


「家族に向けた、ただの遺書。やっぱり、私の事は書かれていなかったのね」

「新しい遺書には書かれているかも」


分かっていた事を示されて一笑に付した様なロローラと、どことなく深刻にも思えるサラエの様子は対照的に見えたが、それは心構えの違いによるものだろうとナウアは判断する。


「お二人はこの遺書についてどう思いますか?」

「何も」

「どう思うって言われてもただの遺書」


ナウアは二人の返答に頷き返す。ガトレからはイパレアの遺書が重要だと言われていた。しかし、この遺書から読み取れるものはない。


やはり、最新の遺書を手に入れなければ何の意味もないのだろうか。


例えば、この遺書に間諜仲間の存在を仄めかす内容が記載されていれば、その者を容疑者として突き付ける事ができた。この遺書にそんな内容の記載はなく、それどころか、イパレアが間諜であると示す証拠にすらならないのではないか。


ナウアの胸にそんな思いが去来する。


と、そこでナウアの中で、ある気づきと疑問が繋がった。


「どうしてイパレアは足を失ったんだろう」


その質問にはロローラが答える。


「昨日の裁判で答えは出たわ。脱走する為だったでしょう?」

「そうです。ただ、その為に入院を余儀なくされて、行動の自由も奪われています。遺書すらも自分で差し替える事ができない。もしも間諜だったなら、そんな不便な状況に身を落とす事は不自然です」


既に検討された内容ではあった。しかし、異なる見方で検討することもできるのではないか。


「それでもその状況になった理由として考えられる一つ目は、既に必要な情報を集め終わったから。ですが、情報というのは基本的に新しいものがすぐに伝わってこそ価値があります」


ナウアは商会に身を置いていた立場として、情報の価値を知っている。情報が価値をもつ状況もだ。


だからこそ、脱走までに時間の掛かる手段を選んだイパレアは不自然に思えた。脱走を成功させたハロルという前例も知っていたというのに。もちろん、ハロルには死を偽装する優位点があったわけだが。


であれば、もう一つの可能性だ。


「そこで、私がより納得できるもう一つの理由は、療養棟にいても情報の入手が出来るからというものです」


入院していても尚、イパレアが情報を集める事が出来るのであれば、不自由な身であっても問題はない。


「サラエ。イパレアのところへよく見舞いに来る人や、何か届くものはなかった?」

「……何か届いた事はなかった。あればアタシが受け取ってる。何度も来たのは、ロローラさんだけ。ロローラさんが来る時は席を外していたけど、それ以外では頼まれてない。嘘じゃない」


ナウアの空気感に気圧されたのか、サラエは真面目に回答する。ただ、内容はナウアの期待したものではなかった。


「私も普段から浮気を疑う様な性格じゃないけど、彼は足を失う前から何度も会っているような人はいないはずよ。もちろん、いつでも一緒に居たわけじゃないし、目に届く範囲での話だけど」


恋をすると人は、気づけば相手の事を目で追ってしまうらしい。というのは、ナウアがサラエから聞いた話だ。ナウアはロローラの発言を信用できる様な気がした。


「普段から警戒はしていたでしょうけど、それなら手紙か何かでやり取りをしていたのでしょうか。デュアリアでは履歴が残りますし」


アラクモの裁判ではデュアリアに届いた文書が証拠品にもなった。疑われればやり取りを確認されてしまう事はイパレアも承知していたはずだ。


「いや、ここで考えていても仕方のない事ですね」


答えはいずれ出さなければならないのかもしれない。しかし、今は考えるよりも動く事を優先しなければならない。


「サラエ。この遺書は借りても良い? 必要なら後で返すから」

「持っていきなよ。開けたらもう、価値はないから」


元気を失い別人の様な語り口のサラエに、ナウアは言葉が口を突いて出てきそうになったが、それを飲み込んだ。


「ありがとう。全部終わったら、また話しに来るから」


自分に役割はないかもしれない。それでも、サラエをこのままにはしておけない。サラエの頭がそう叫んでいた。


「頑張って」


言葉少なな声援。しかし、確かに糧とはなった。


ナウアは頷き、ロローラに礼をする。蝋燭の火が穏やかに揺れた。


最後に、食堂へ向かわないと。


ガトレが臨む最後の裁判が近づいている事をその身に感じながら、ナウアの足取りは振り絞る様に速度を増していく。



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