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流れ魔弾と救国の英雄  作者: 天木蘭
3章:最後の裁判

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論争の仲介

イパレアの遺書を求めてナウアは人圏管の受付を訪れた。人の流れが絶えないのは衛生門と変わりないが、むしろ先ほどまでいた留置所こそが異常なのだと思い直す。


「だぁから、早く新兵を手配してくれって言ってんだよぉう!」


ナウアがここへ来てから初めて、人を脅かす意図を持った声を聞いた。自然と吸い込まれた視線の先には馬人がおり、いつもの兎人が受付越しに対峙していた。


「進めております。貴官の小隊長から聞いていらっしゃらないのですか?」

「聞いてっから来たんだろうよぉ。人事が無能だから手配が遅れてるんだろぉ?」


なんという理不尽な意見だろうか。ナウアはそう思ったが、馬人が本心から言っているのか、わかっていて口にしているのかはわからない。


「私共に不手際はございません。新兵の育成担当に冬眠者が出た為、講座の抜けが発生している事が原因です。遅れを取り戻せる様に調整は依頼しておりますが、管轄は戦闘門となっております。進捗をお聞きになりたいのであれば、小隊長から許可を得て依人086の開示請求をお願いいたします」

「そういう事じゃないんだよぉう。じゃあ管轄は戦闘門だから知らねえってか? 投げっぱなしで何も知りませんって事かよぉ」

「何も知らないとは申しておりません。依人086の開示請求を頂ければ進捗の開示は可能です」

「それだって小隊長から許可を得てって話だろ。忙しい小隊長から許可を得ろって言うのかよぉ」

「そう申し上げております」


ナウアはここまで聞いて、これは恐らく文句を言いたいだけだなと判断した。そんなくだらない事で兎人の時間を使われる事に苛立ちすら覚える。


「ちょっと良いですか」


早足で口論の渦中に歩み寄ると、ナウアは馬人の肩に手を乗せる。虎人並みに背が高いので、少し爪先立ちになった。


「ん? なんだってよぉう」

「先に私の用件を済まさせて頂いてもよろしいでしょうか」

「おいおい。本気かよぉう。横入りなんて常識が欠けてんじゃないかよぉ」

「こちらの話は人命が関わっている緊急の内容なのですが、それでもですか?」


ナウアは医圏管師として常に羽織り続けている白衣の下襟を両手で掴み軽くはだけさせた。


「それなら、わざわざここの受付に来なかったって、他に空いてる受付はあるだろうがよぉ」

「彼女の方が円滑に話を進められるんです。あなたの話の方こそ、彼女でないといけない理由があるのですか?」

「いや、そういうわけでもないけどよぉ」

「なんなら、陸圏管に知り合いの小隊長がいますので、お呼び出ししましょうか」

「い、要らねえよぉ! 余計なお世話だぜ! まったくよぉ!」


馬人はナウアの手を払って、肩を怒らせながら床を踏み締めて去って行った。


「お疲れ様です。助かりました。ありがとうございます」

「お礼を言われるほどの事ではありません。私も私の都合があったので、一つ嘘を吐きましたし」


小隊長の知り合いなんていない。正確には、小隊長候補の虎人なら知り合いにいる。


「上手くかわせば良いのにとは思いましたが。周りの手助けはないのですね」

「私は周りに好まれてはいませんから。愛想がないそうで」


兎人は見下す様な目をして鼻で笑う。しかし、その表情は一瞬で消え、真面目な表情に戻る。


「それに、一度折れては要求が嵩を増していくだけです。規律を覆すにはそれ相応の理由が必要ですから」


イパレアの遺書を手に入れたかったナウアは予防線を引かれた様に思われたが、回りくどい交渉を避けて単刀直入に切り出す事にした。


「その規律を覆してもらう必要があるかもしれません。スソノ=イパレアという小隊長の遺書が欲しいのです」

「残念ながらお渡しできません」


兎人は即答だった。


「そこをなんとかできませんか?」

「遺書の開示には条件が必要です。本人から遺書の公開を許可されている者、または上の立場にいる者、それから昨日、事件の捜査に必要な場合は捜査士官へ提出するという特例が追加されました」

「昨日? という事は、まさか」

「その通りです。スソノ=イパレアの遺書は既に人圏管で保管しておりません。昨日、捜査士官に要求されて提出済みですから」


先に動かれていた。いや、考えれば辿り着く事はできたはずだ。情報を外に持ち出すにはどうすれば良いのか。方法の一つして遺書はあり得る。


ただ、自分がそれに辿り着けなかっただけ。ガトレ様に言われるまでに、先に検討しておくべきだったのだ。既に相手の手中にあるのなら、如何様にも不利な使い方が出来てしまう。


ナウアはひどく後悔し、頭すら抱えてしまう。


事件を解く鍵となる可能性があった証拠品。法廷で扱えば強力な武器にもなるそれは、既に失われていたのだった。

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