中途な感傷
看守室は留置所よりも広い。その理由こそナウアは知らないが、それだけ広くても横切るには緊張感がある。
看守達から見られる、というよりは監視されている様に思われる熱視線は、身を焦がすほどではないがナウアに冷や汗を掻かせた。
何も悪い事はしていないのに慣れない空間。その出口に差し掛かったところで、ナウアの肩に手が乗せられる。
「ちょっと待った」
「……なんですか?」
恐る恐る振り返ったナウアは、ヒト族の看守と向き合う。留置所へ続く階段の前にいた二人の内の一人だ。
何も怪しい事はしていないし、やましい事もない。それでいながら、ナウアは肩に乗った手から重圧を感じた。
「その、だな」
「急いでいるので、手短にお願いします」
「そ、そうだな。実はだな、その……英雄殺し殿は、今回の事件の犯人なのだろうか、とだな」
「もしかして、ガトレ様は無実だとお考えなのですか?」
「確信はないが、まあ、そうだな」
ナウアはヒト族の看守の考えを聞いて、その背後を覗き見る。他の看守もナウアの方を見ていたが、咎める事はなく、興味を抱いている様に思われた。
「何度もここへ来る者は珍しい。罪人としても、面会の為だとしてもだな。だが、どうもあのヒト族は犯人とは思えないのだ」
ナウアは意外に思った。この場にいる人物が、そうした意見や考えを持っているという事実に対して。
「何か根拠がおありですか?」
「根拠という程ではない。故に確信がないと言ったのだ。だが、もしも誰かを害したならば、我らを気にせず通過するのは不可能だろう」
「何もしていない私ですら気を張りますからね。ガトレ様は違ったのですか?」
「何か考え込んでいる様子だった。我らの事は視界に入ってすらいない様に感じた」
考え込んでいたのは、遺書の事だろうか。ガトレから齎された情報と比較してナウアが思い当たるのはそれくらいのものだった。
「正直に言うと、俺は英雄殺しが犯人じゃない方が面白いと思うぜ」
別の看守が職務中に相応しくない下品な笑みを浮かべる。
「こんな所にいると退屈だからな。事件でも起きなきゃ外の情報もほとんど入らねえ。最近は英雄殺しのお陰で忙しないが、暇もないから気分が良い」
およそ看守とは思えない発言をした看守に、ナウアは冷めた視線を投げかける。看守は真正面から受け止めて、むしろ開き直った様子に見えた。
「娯楽なんだよ。英雄殺しは俺らにとっての。だから応援してるぜ。もっと俺たちを楽しませてくれってな」
「そこまで思ってるのはお前だけだ。上官に聞かれたら明日はないぞ」
更に他の看守が嗜めるも、不躾な看守の笑みは消えなかった。嗜めた側も、度合いを否定しただけで感情は否定していないからだろう。
ナウアは看守らの発言に何らかの気掛かりを感じたが、その正体までは辿り付かなかった。何かが気になった。その感覚だけは覚えておく。
「罪のない死者や被害者が出ています。その事実は忘れないでください」
そして、それだけをナウアは告げた。
直近の一連の事件を娯楽と捉えるのは構わない。不謹慎だが思想として否定するつもりはなかった。
しかし、痛みを負った者は確実にいて、彼ら彼女らは皆傷ついている。ナウアの思い浮かべた者達は、一様に悲しい顔をしていた。
「ガトレ様の味方でいてくれる事には感謝します」
誰に対してでもなく、その場に置き残すかの様に言葉を付け加えると、ナウアは振り返る事なく前へ進んだ。
また更新が一ヶ月以上空いてしまい申し訳ないです。文章量減らし(場合により別作品含む)更新頻度を上げて更新癖を付ける作戦を展開するかもしれません。
恐れ入りますが期待しないでお待ちください。(更新が継続するという結果が出て初めてご期待ください)




