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流れ魔弾と救国の英雄  作者: 天木蘭
3章:最後の裁判

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研究初心者

「早速ですが、何か聞きたい事はありますか?」


フギルノの申し出にナウアは思案する。


裁判中の助力は願えないという条件で協力を取り付けたからには、今のうちに聞けることは聞いておくべきだ。


そう考えたナウアが思いついたのは、今回の事件に関わりある者達だった。


「燕の鳥人、鶴の鳥人、そしてもう一人が種の分からない鳥人なのですが、この三名に種独自の特徴はありますか?」

「ふむ。分からない鳥人はどういった容姿でしたかな」


ナウアはクロウの容姿を説明する。全体的に黒っぽい灰色、体型はチュユン捜査士官とそう変わらない。体型はあまり参考にならないが念の為だった。


「私の知る限り思い当たる鳥はいくつかいますが、黒い鳩も鴨も鷺も、なんなら白鳥にもいますから、なんとも言えませんな」

「やっぱり、特定は難しそうですね」

「鴉でないのは珍しいですがね。本人に直接聞いてしまった方が早いでしょう」

「そうしてみます。臆病な方の様で、誰かの背中に逃げられてしまいそうですが」

「ホホーウ」


フギルノが興味深そうに鳴いて、指を一本立てた。


「もしかすると、クロジかもしれませんな」

「クロジですか?」

「ええ。アビトは交わった種の特徴だけでなく、習性にも引きずられる事があります。毛繕い、冬眠、求愛行動など、必須ではない行動の事です」


ナウアにも思い当たるところはあった。そして、ドリトザから聞いた繁殖期の話も、そういった部分の一つなのかもしれないと思い至る。


「中でもクロジは、暗い森を好みます。もしかすると、その習性を他者の陰に入る事で満たしているのかもしれませんな」

「なるほど。可能性はありそうです」


習性が先だったのか、性格からそうした行動に出ているのか、もしかしたら本人にもわかっていないんじゃないだろうか。


そう考えると、人類の起源というのは、ヒト族が先に生まれ、その後に一部のヒト族がアビト族になったのだと、ナウアはそのような気がしてきた。


「クロジという種に、他の特徴はありますか?」

「さて、私は深く知りませんな。私の様な梟の鳥人よりも色は識別できるでしょうが、それは多くの鳥人で違いはありませんし」

「そうですか。では、燕と鶴はどうでしょうか」


ナウアは後回しにしていた回答を求める。あまり特徴のないクロジの鳥人と比較すると、容姿からして異なる二種だ。


「燕は動体視力が良いと聞きます。恐らく、鳥人であっても変わらないでしょう。鶴については、細長い首や嘴が特徴でしょう。それと、繁殖期の求愛行動が、まるで舞や踊りの様に見えるとか」

「動体視力はスワローテさんも自慢していましたね。マイズさんは首は長くないものの……踊りについては習性として引き継いでいるのかも」


ナウアはスワローテの語り口と、口数の少ないマイズの発言を思い出していた。


そうなると、マイズさんは常に求愛行動を取っていることになるけど、相手はスワローテさん?


口で言うのが恥ずかしいのだろうか。だからと言って、踊りに託すのはあまりにも遠回り過ぎて、伝わるのはいつになるのやら。思いや意志というのは、わかる形で伝えなければ意味なんてないのに。


今のナウアにはそう思えたが、他人の恋路なんて気にする程の事じゃないと投げ捨てた。


「参考として覚えておきます。ここへ来た本題なのですが、水人形を開発した方にお会いしたいんです」

「水人形とは、どういう代物なのですか?」

「魔力を込めた水が人形になるんです。妖魔に囮として有効な可能性が見込めるという話でした」

「とすると、この部屋にはいませんな。二階へ行きましょう」


ナウアとすれ違ってフギルノが先を行く。ナウアはその後をついて行きつつ訊ねる。


「どこにいるかわかるのですか?」

「直接的な妖魔対策は二階の部屋です。魔道銃を作る工房があるのも二階ですね」

「あっ。じゃあ、その魔道銃が盗まれたのでしょうか」


ナウアが言ったのはイパレアが持っていた魔道銃の事だ。所持者不明のあの銃は、一体どこから出てきたものなのか。


「あるのは可能性だけです」


フギルノはそう言って、否定も肯定もしなかった。ナウアも究謀門の区画で話題にするものではないだろうと弁える事にした。


それから二人は、一階よりも人が多い区画に入った。場所自体は大広間といった様相だ。しかし、その場にいる人々は外部の研究者が主な様で、ところどころに一人を取り囲んだ大きな輪が出来ている。


その一人に向けて取り囲んだ研究者と思われる人々が質問を重ね、中心の一人が返答を返す。そんな光景が広がっていた。


そして、ナウアにとっては意外にも、デリラの姿は見当たらない。


「盛況ですな」

「負担も相応に見えます」


輪の中心にいる軍属の研究者達は、誰もが質問に即答できている訳ではない。時折、足元から紙の束を拾っては忙しなく捲り、それから回答をする事もある。


息を吐く間もない問答は、いつ終わりを与えられるのだろうか。半ば呆気に取られていたナウアも、見ているだけで同情心が湧いてきた。


しかし、フギルノにとっては然程の光景ではないのか、壁際に背中をもたれかけている軍属の関係者に声を掛けている。


ナウアがそちらを見ると、壁の近くで休んでいる様子の研究者も多くいるのに気づいた。ナウアは小走りでフギルノの元に近寄る。


「すみませんが、水人形とやらを開発した方はいますか?」

「水人形。……ジュナフだな」


フギルノが声を掛けた研究者は、辺りを見渡した後、一方を指差す。そこには明るい白毛と茶色い斑紋に覆われた身体をしているアビト族がいた。


背が高く抜きん出た頭でわかりやすい。壁の近くに直立して目を瞑っていた。眠っている風にも見える。いや、本当に眠っているのかもしれない。


「彼は、麒麟(きりん)のアビトですね」


ナウアが知る野生の麒麟と違って、麒麟人の首は長くなかった。鶴の鳥人も細長い首をしていなかったから、首の太さまではアビト族の体型に引き継がれないようだ。


「ありゃ多分、寝てるな。起こせば話せるだろうよ」

「ありがとうございます。では、そうします」


礼を言ってフギルノがジュナフの元へ向かう。慌てて後を追うナウアは、背後から恨みがましい視線を向けられているのが気になった。


しかし、ナウアはストウの件があって過敏になっているのかもしれないと振り切り、フギルノと並んでジュナフと呼ばれた麒麟人の前に立つ。


そこで聞こえてきた寝息をもって、ナウアはジュナフが本当に立ったまま寝ているのだと認識した。


「さて」


そんな軽い調子で一息ついてから、続いたのはどうするかという疑問ではなく、両翼の羽ばたきであった。


フギルノの翼が右と左からジュナフの頬を挟み込む。手で挟み込むのとどちらが痛いかナウアは気になったが、翼の可動域から頬を潰す程にはならないだろう。不快かどうかは羽毛の質感次第だが。


「うぇ」


ジュナフが目を覚ます。気持ち良い寝覚めではなかった様だ。


「おはようございます。初めまして、ジュナフさん。私はフギルノと申します」

「あー、どーも。ジュナフ技師ですけど、どういう状況?」

「こちらの医圏管師が水人形について知りたいそうですよ」


翼を畳んだフギルノに背中を軽く押され、ナウアは小さく首を曲げた。すると、眠たげなジュナフの目が輝く。


「ほんとー。それならそーと早く言わんと。かんげーしますよ。さーこっから離れましょー」

「え? あ、はい」


ジュナフはナウアの両肩を掴むと出口に向けて方向転換させ、そのまま前に押し出していく。その変わりように追いつかないまま、ナウアは部屋を押し出されて行き、フギルノはその後に続いた。


廊下に出てもナウアの肩は手放されず、左隣の部屋へと連れ込まれた。無数の山が崩れたのかと見紛う程に資料が雑然と散らばる室内は、は何人かの軍属研究者がいるだけで、先程までと比べると空気だけは静かな部屋であった。


「いやー、助かったなー。まさか僕のけんきゅーにきょーみを持ってる人が身近にいたなんてなー」


周りに聞かせているように思われる声量を部屋に響かせると、ジュナフはようやくナウアの肩から手を離し、手近にあった背もたれ付きの木椅子に座った。


「あの、どういう事ですか?」


未だここまでのジュナフの行動が飲み込めていないナウアは率直に訊ねる。


「さっきの部屋さー、手隙のけんきゅー者がかいとーしてんだよ。いつもはピューアリア様がやんのに、今回はよーじがあるって任せきり。なーんか、デリラ様も不在だし。だから助かったよー。分野外の質問なんて無理無理。回答集はよーいしたって言ってもさー。ねー?」

「それは災難でしたね。まあ、気紛れな方ではいらっしゃいますが」


ナウアにもピューアリアの興味がどこへ向くかなど想像が付かない。今はただ、衛生門の門頭がサジで良かったと思うばかりである。


「そーそー。いつもの事と言えばいつもの事だよ。とーいうわけで、水人形について何が知りたい?」


ジュナフは両手の指の腹を突き合わせて、口元に三角形を浮かべながら首を傾げる。ピューアリアの興味は分からなくとも、目前の人物の興味はナウアにも瞭然だった。


「いくつかありますが、一番は水人形を飲んだらどうなるのかです。治療魔術では他者に自然魔力を補給します。もしも他者の魔力を含んだ水を飲んだら、どんな影響が出るのか、実験もしたのではないですか?」

「へー。それはよそーがいの質問だ」


ジュナフは面白がる様な反応を見せた。そして、その答えはナウアにとって、予想外とは言えない程度の答えであった。


「もちろん、試したよ。そこから導き出された事実と、そーてーされる結論を話そー。接種りょー次第とはなるけど、最悪の場合は魔力欠ぼーを引き起こす事になるよ」


つまり、故意に他者を魔力が使えない状況に追い込む手段は存在すると、ジュナフはそう言っているのだ。


安心はしない。ただ、一つ先に進めた様な感覚がナウアにはあった。

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