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流れ魔弾と救国の英雄  作者: 天木蘭
2章:医圏管師は希う

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英雄被弾における第三仮説

「では、ナウア。早速、らしい指令を出すが、食堂に行って魔力を補給してくるんだ。治療魔術で魔力を消費しているだろう?」

「ありがたいですが、ガトレ様はどうするのです?」

「俺はイパレアにもう一度、話を聞いてみることにする。間諜だというのなら、英雄殺しに関わっていた可能性だってある。まあ、素直に話してくれるはずないが」


法廷では、イパレアが集めた情報については明らかにされていない。未だ目的は不明であり、取り調べが行われている頃だろう。そこに混ざることが出来れば、丁度良いとガトレは考えた。幸いなことに、権限も上がっている。


「わかりました。ですが、ガトレ様は撃たれたばかりなのです。警戒してくださいね」

「牢の中なら、大したことはできないだろう。それに、怪我をしてもナウアが治療してくれるだろう?」

「冗談ですよね?」

「……ああ、冗談だ」


ナウアの冗談を許さない口調に対し、ガトレは冗談と同じ比重を占めていたもう半分を無かったことにした。失われた本気と呼ばれる何かは、別の機会で活きるだろうと考えて。


未だ怪しむように気づかわし気な視線を向けてくるナウアから、ガトレが視線を逸らしたところで、法廷の扉が開かれた。


「お、もう調子は良いのかね」


入ってくるなり役職に見合わぬ気軽な声を掛けてきたのは、年老いたヒト族でありながら衛生門の門頭を務めるサジ=レイカンであった。そして、その隣には、厳格さに翼が生えたような鳥人であり正透門頭でもあるアミヤ=パルトを連れだっている。


「是。ナウアのお陰で、完全に回復致しました」

「法廷で代弁士が撃たれるなど、本来あってはならぬ事。死体ゆえに検査を怠った捜査士官の油断である。処分と再発の防止は任せておく事」

「結果的に私は生きていますし、先に言わなかった私にも責任の一端があります。処分は程々にして頂けますと、私の心も軽くなります」

「善処しよう」


善処という辺り、処分を完全に免れる事はないのだろうと察し、ガトレは名も知らぬ捜査士官に同情した。そこで以前も、裁判中に駆り出された捜査士官に同情したことを思い出したガトレは、せめて二者が同じ捜査士官ではないことを願った。


「ところで、法廷に戻られたのは、何かあったのですか?」

「なに、二人ともお前さんに用事があったのよ。ついさっき、門頭の間で会議が終わっての、そこでの話し合いの結果なんじゃが……」

「サジ老が、衛生門に新しくシンリョウ管なるものを立ち上げようというのだ」

「シンリョウ管ですか?」


ガトレの頭に思い浮かんだのは診療であったが、その意味を冠するのであれば新設する必要性は感じない。一体どのような部署なのかと疑問を浮かべるガトレに、サジはニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「心を治療すると書いて心療じゃよ。衛生というのなら、身体だけじゃなく心も癒さなければならんじゃろうて」

「なるほど。精神的苦痛は治療魔術でも癒せませんからね。むしろ、今まで無かった事が不思議なほどです」

「今まで必要性を感じるほどではなかったんじゃよ。戦えなくなった者は休ませることしかできん。しかし、心を酷く傷つけた後に休むのではなく、心が傷つく前に止められるなら、と、ワシは光明を見出したんじゃよ」


サジは皴の刻まれた顔に目だけを若々しく輝かせて、ガトレの肩に手を乗せる。


「ガトレくん。ワシは君に、心療管所属の代弁士になってほしいんじゃ」

「代弁士、ですか?」

「そうじゃ。疑問に思うのも無理はなかろう。じゃが、冤罪は人の心を傷付ける最たるものじゃろうて。ならば、傷を未然に防ぐその行為は、心療と言っても良かろう?」

「詭弁だがな」


アミヤは腕を組んで、高らかに笑うサジを見下ろす。そして、組んだ腕を解くと、右手を顎に添えた。


「しかし、鉱人の事件と此度の事件により、軍内で代弁士を用意する必要性は感じた。そして、代弁士に必要な視点は捜査士官とは異なる。ならば、別の門に置くべき事」

「でしたら、交報門でも良かったのでは? 私の裁判の時は、交報門を通したはずですが」

「だが、貴公が被告人となった事件において、賄賂が起こった。つまりは、外部との交わりを断たねば、司法の独立は満たされぬ事」

「その点において、中立な部門でなければいけない衛生門は丁度良いというわけですか」

「相違ない。問題があるとすれば一つ」


アミヤは思案気な姿勢を変えずに、目だけでガトレに訴える。ガトレにもアミヤの言わんとしている事は理解できた。


「英雄を殺した者が新設された部署に配属される点ですね」

「実力は認める。だが、容疑は未だ晴れぬ。雨天を好んで飛ぶ鳥はおらぬ」

「承知しております。明日の裁判にご期待ください」

「そうさせてもらおう。ところで、貴公はまだ、羽根を持っているか?」


アミヤに問われ、ガトレは少しの間、自身の記憶を探った。やがて、そう時間も掛からずに、初めての裁判を終えた後、アミヤから譲り受けた羽根の事を思い出す。


「是。いつも持ち歩いております」


そのまま羽根を取り出そうと左胸の辺りに手を伸ばしたガトレだったが、指先に触れたのは自らの皮膚だった。羽根を仕舞い込んでいた懐は、イパレアの魔弾によって失われてしまったのだ。


「申し訳ありません。イパレアに撃たれた際、軍服と共に消失してしまったようです」


魔弾は魔力による攻撃である。魔力を帯びた物体が受ければ、魔弾以上の魔力を有していない限りは、魔力をかき消されて崩壊するのみだ。


「仕方あるまい。どちらにせよ、貴公には不要なものであろう」


アミヤは言い切ると踵を返す。


「明日の法廷で待っている。誰もが認める真実を用意できなければ、貴公に先はないだろう。努々、忘れ無き事」


翼を大きくはためかせた後、一枚の羽根もその場に残すことなく、アミヤは歩いて法廷を後にした。


「まあ、アミヤの言った通りじゃな。コゲツも了承の上、戦闘門から異動する準備は出来ておる。陸圏管で言えば、最低でも小隊長以上の役になるはずじゃろうて」

「ありがとうございます。明日の裁判を勝ち残らなければならない理由が、また一つ増えました」


ガトレとナウアの視線が交差する。何かを感じ取ったらしいサジは、ニヤついた笑みを浮かべた。


「若いというのは良いのう」

「……なんですか?」

「なあに、ただの老人の嫉妬じゃよ。そろそろ、ワシもお暇するとしようかのう」

「あ、お待ちください」


反対側を向いたサジを、ガトレが呼び止める。


「なんじゃ?」

「魔力を持たない道具と、イパレアが最後に撃った魔道銃について、話の進展はありましたか?」

「ああ、そのことか。デリラが開発に使った技術については、軍の中では一旦凍結となったよ。場合によっては、魔弾以上に危険じゃからな。今後は、方針が変わらん限りは、開発されることはないじゃろう」

「魔力保有量の少ない私が英雄を害したと思われている現状からも、そうなる気はしていました」


仮に、今回の法廷でも英雄殺しについての考えを問われていたなら、英雄殺しの第三仮説として提出していただろう。ガトレのその考えを読み取った訳ではないだろうが、サジが付け加える。


「実際、英雄殺しもこの方法なら可能ではないかという話し合いもあったんじゃが、肝心の凶器が見つかっておらんからな。作戦の終了後、捜査士官によって現場検証が行われていたようじゃが……おお、そうじゃ」

「どうかしましたか?」

「コゲツから伝言を頼まれておったんじゃよ。英雄殺しが起きた時の資料を人圏管に収めたとな」

「そうでしたか。これで、あの日の動きがわかります。英雄を狙える存在がいたのかも」


二発目の魔弾がいつ撃たれたのか。それを考えるためにも、作戦の概要が必要だとガトレは考えていた。


「僥倖じゃな。転じて、イパレアの魔道銃について、出処はわかっておらん。ピューアリアの調べでは、持ち主が登録されていない、つまりは誰でも使用可能な本来存在するはずのない魔道銃だという話じゃ」

「本来存在するはずのない魔道銃を、どうしてイパレアが持っているのでしょう」

「考えられるのは、究謀門に所属する者からの横流しか、イパレアが隙を見て盗難したか。じゃが、究謀門では魔道銃の紛失は無かったという。であれば、密造と考えるのが自然ではあるがのう」


密造とは言っても、魔道銃を作るのに必要な情報、そして材料が揃わなければ外部で作ることはできない。しかし、脱走に成功した可能性がある人物は、さっき俺が示したばかりのハロルのみだ。


密造されるとすれば、軍内部で起こったと考えるしかない。ならば、究謀門に協力者がいた可能性のほうが高いだろう。


「まあ、それも含めてこれから捜査士官が問い質す頃じゃろう。……衛生門の出番が来ないと良いんじゃが」


深刻な表情を浮かべるサジだったが、ガトレはその理由に心当たりがあった。何故なら、ガトレもまた、サジが思い浮かべている懸念の対象になるところだったからだ。


「間諜であるのが事実だと証明されれば、拷問は十分にあり得ますね」


責め苦を与え、治療魔術で回復させる。

元々、ヒト族には存在しない文化であった。しかし、他種族が交わったこと、そして妖魔という仇敵が産み落とした過剰な敵対心の捌け口として、軍の中では間諜に対する拷問が許容されている。まごうことなき負の側面であった。


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