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流れ魔弾と救国の英雄  作者: 天木蘭
2章:医圏管師は希う

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強力な動機

「それでは証人よ。既に法務官より述べられたが、まずは身分を明かす事」

「はい。私はストウ=ザナトリクス四等医圏管師です」

「よろしい。では、被告人が抱える動機について、証言する事」

「はい」


証言台に立ったストウは落ち着き払っており、ガトレから見ても職務に忠実な真人間だった。実際その通りでもあるのだが、ガトレの見方が穿っているのは、ナウアとの関係性によるものだ。


「被告人の動機は、私を貶めす事が目的でしょう。門頭の皆様は覚えておいででしょうが、以前にもナウアを被告人とした裁判があり、その際に私も証言台に立ちました。ナウアはその過去を消す為、私に罪をなすりつけるつもりで、今回の犯行を行ったのです」

「……は?」


ストウの証言に対し、間の抜けた声を漏らしたのはガトレだけだった。そして、それが当然だという事も、すぐには気づかなかった。


「法務官より補足しますと、分類が終人010となっている、二月ほど前の裁判ですな。被告人のナウア氏が衛生兵として出た戦場にて、上官であるストウ氏の指示を無視した結果、負傷者が死亡した事故についてです」

「異議あり! 本法廷の議題はイパレア氏を殺害した容疑についてです。ここで過去の事件を取り上げる事は、被告人の印象を悪化させる目的としか考えられません」

「異議あり。ストウ氏は被告人の動機を証言する過程で、関連する事件を取り上げたまで。妥当でしょう」


ミルモウの異議に対する反論が浮かばず、ガトレはアミヤを見上げた。しかし、アミヤの言葉がガトレに寄り添う事はなかった。


「代弁士の異議を却下する。異議を認めて欲しくば、代弁士は証人の証言を否定する事」

「くっ……」


それでも、アミヤはガトレに導を残した。ガトレが理解していたはずの、この法廷での戦い方を。


「是。承知致しました」


このまま終わったはずの事件を掘り起こされれば、ナウアの心証が悪くなってしまう可能性がある。過去の裁判が本件とは無関係だと示すには、ナウアがストウに罪を被せようとしたという証言を否定すれば良い。


「まず、証人は被告人が罪をなすり付けようとしたと証言していますが、その確たる証拠はありません。証人の妄想として取り扱うべきでは無いでしょうか」

「ふん。ナウアには私に罪を被せる動機があった。その上で、私がいる隣の部屋で事件を起こしたのだから、根拠としては十分だ」


ストウの反論は、現時点では強力なものであった。


ガトレはそもそもナウアが犯人だとは思っていないが、実際、ナウアがイパレアを殺害する動機も存在しないのだ。


つまり、ナウアがイパレアを殺害したのはストウに罪を被せる為だった、という説自体は通ってしまう。


ガトレは通り抜けられる穴を探しながら突き進む事にした。


「しかし、ナウアは現場となった部屋の中に倒れていました。罪を被せるつもりなら、部屋の中に残る必要はありません」

「失敗したんだろう。部屋の床にあった冷却魔術陣を発動させ、何らかの方法で部屋の外に出るつもりが、魔術陣の発動時に魔力欠乏を引き起こして気絶したのだ」

「何らかの方法とは?」

「私ではなく犯人に訊けばいい」

「くっ……」


今のガトレは守備側にいる。ナウアが犯人であるという状況を覆さない限り、証明や説明が求められるのはガトレの方だ。


何か証拠となるものはないか。ナウアが犯人では無いという事を示せる、決定的なものが。


ガトレは記憶を呼び起こし、一つ思い浮かぶものがあった。


「ミルモウ法務官。捜査の過程で魔力紋採取機を使ったはずです。魔術陣からナウアの魔力は採取できましたか?」


ガトレの言葉を受けて、ミルモウの目が細められた。そして、感情のない声で返す。


「どうモー、不具合の様ですな。適切な結果が得られなかった様です」

「そんな! まさか、結果を隠蔽しているのですか!?」

「いいえ。適切な結果が得られなかったと申しましたよ」


ガトレが詰めるが、ミルモウの返答は変わらない。


まさか、ミルモウが証拠を不正に隠蔽するとは思えないが、一体どういう事なんだ?


不具合という言葉を信じられないガトレは、何とか聞き出す方法がないかと考えるが、開発者のピューアリアもいない今、詳細な結果を聞く方法が思いつかなかった。


「ガトレくん。私は全くの素人ですが、ここは別の攻め方をした方が良いと思うのですよ。心象が良かろうと悪かろうと、それは罪の重さと風評にしか響かないのでは?」

「……わかりました。そうですね。一旦、引きます」


動機があるだけでは犯人にはならない。犯人となり得る状況なのがナウアのみだからこそ、ナウアは被告人となっているのだ。


つまり、他に犯行が可能な人物を示す事で、ナウアの疑いを退ける。アラクモの時と同じだ。


「代弁士よ。もう良いのか? それは即ち、証人の証言を受け入れるという事」


アミヤの問い掛けに、ガトレは素直に頷いた。


「是。今は証言を否定できる程の証拠がありません」

「ふむ。では、被告人が犯人である事を認めるというのか?」


しかしその問い掛けには、断固として首を振る。


「否。被告人が犯人と疑われているのは、他に犯行が可能な人物がいない為です。そこで、代弁士側は、他に犯行が可能であった人物を指名します」


その人物が本当に犯人であるのか、まだガトレには判別がついていなかった。


しかし、疑わしい反応を見せていた事と、その人物がいた場所から、犯行は可能ではないかと考えていた。


「ふむ。では、その人物の名を挙げる事」

「是。その人物はロローラ=アムアム」


ガトレは名前を挙げた後、アミヤから傍聴席へ視線をずらした。


「被害者と交際関係にあった者です」


身体を縮こませて座る白い山羊人が震える。怒りにではなく、怯える様にして。


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