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流れ魔弾と救国の英雄  作者: 天木蘭
序章:英雄被弾
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英雄被弾における第一仮説

「英雄を殺したのは、衛生門に所属する者だと考えられます!」

「何を馬鹿な! おい、サジ老もなんとか言え!」

「なんと言うかは、最後まで聞いた上での判断で構わないじゃろう」


この仮説は、ガトレにとって大きな危険を含んでいる。その危険とは、味方になれば心強い、衛生門門頭のサジと対立せねばならない点であった。


「自分の魔弾は、確かに英雄を撃ちました。撃ち抜いている様にさえ見えました。しかしながら、英雄を殺せる様な威力はなかったはずです!」


それは、ここまでの流れを汲んで出来上がった唯一の否定材料であった。


「であれば、自分が英雄を撃ち抜いた時点では、英雄は死んでいなかったと考えられます。また、自分は拘束され、その後を見ておりませんが、負傷者は衛生門が診察する事でしょう」


大抵のヒト族は、衛生門の治療魔術で回復が可能だ。ヒト族の体は7割が魔力である為、魔力で復元できる部位であれば、魔力の補給だけで自然治癒する。


全ての種族に共通して、左胸に存在する魔力循環器という内臓が負傷していない限りは、だが。


「つまり、英雄ソーラ=ケメロニカ殿は、自分の魔弾に撃たれたのではなく、衛生門へ運ばれた後、英雄すらも殺害できる何らかの方法で殺害された。これが自分の仮説であります」


自分は英雄を殺していない。

ガトレは殺意がなかったからこそ、本当に英雄が死んだのであれば、死因は別に存在するとの仮説を立てた。


「さて、サジ卿。被告人はこう言っているが、何かあれば言うべき事」

「言いたい事があるのはワシじゃなく、お主じゃろうて」


ガトレは敬礼を崩さず、心の内で首を傾げる。

衛生門に問題があったとの仮説が立てられた以上、反論するのはサジ衛生門頭だと思うが、成り行きが妙だ。


「では、私から語る事。実は被告人が英雄を撃ち抜いた瞬間を目撃した者が三名いた事」

「聞いてないですの。だったら被告人の言葉が真実かどうかもすぐにわかりましたの」

「被告人が目撃者不在を良い事に、嘘を吐くのではないかと考え、我々への忠誠心と信用に足る者かを確かめたまでの事」


目撃者……。

ガトレはここまでの議論から、目撃者の存在について考慮していなかった。

いるのであれば、コクコ会計門頭が言う様に、自身の発言が真実だと言う事を示してくれる味方だろう。安直にそう考えた。


「ぐゎらば! 性格の悪さは随一だな、アミヤ卿」

「目撃者の言によれば、英雄は『やめろ!!』と発言し、妖魔のいる方面に突撃。そこに被告人の魔弾が着弾したとの事」

「では、被告人が言った通りですの。魔弾の射線上に、英雄が飛び込んできた、おかしな話ですの」


アミヤから語られた目撃者の話により、法廷が俄かにざわめく。

英雄の動きに異常があった。被告人は真実を話している。それだけで、ガトレを疑う要素は薄れていく。

しかし、全てが上手くいくはずもなかった。


「そして、被告人の魔弾が着弾した後、英雄が起き上がる事はなかったとの事」

「あー、なるほどニー」


目を閉じて話を聞いているのか聞いていないのかもわからなかったピューアリアが、口だけを開く。


「着弾後に英雄が起き上がらなかったなら、魔弾には最低でも英雄の意識を奪うだけの威力があった。つまり、被告人が話した、自身の魔弾では英雄を殺せない、というのは通らなくなるニー」

「そんな馬鹿な!」


ガトレは自制できずに叫び声を上げたが、非礼に気づくと、すぐに佇まいを正し敬礼する。


「許可なき発言を致しました! 申し訳ありません!」

「迅速な詫びに免じる。その後、目撃者である三名の小隊兵は、被告人の拘束と小隊長への報告を行った」


ガトレも事件があった日の事を思い返す。

見覚えがない、恐らく別小隊の者に軍式拘束術式で腕を拘束され、小隊長指示の元、空圏管所属の兵により本部へ連れて行かれたのだ。


アミヤの話におかしな点はない。


「その後、作戦に参加していた全小隊が撤退。衛生兵が英雄の胸に傷がある事と魔力損失を確認。医圏管師により治療を試みるも既に回復は不可能な状態であった。これはその場にいた兵達が確認している事」


ざわめいた法廷は既に落ち着きを取り戻し、ピューアリアを除く全ての視線がアミヤに注がれていた。


「被告人の魔弾は、英雄にとって致命の一撃であった。これは揺るぎない事。故に、被告人の仮説は棄却する」


ガトレは固く結ばれた唇の裏で、万物を噛み砕かんとするかのように、歯を強く噛み合わせた。

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