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流れ魔弾と救国の英雄  作者: 天木蘭
2章:医圏管師は希う

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医圏管師は請い願う

「どうモー、法務官のミルモウ=クルモアとモーします」

「捜査士官のカグヤギ=チュユンであります!」


療養室の前で待つ事、およそ十分。現れたのは、既知の鳥人と初見の牛人であった。


「それではあ、調査は捜査士官に任せて、先に聴取と行きましょうかあ」


ミルモウは緩慢な動作で手帳を取り出す。その余裕ある所作は、不安を抱えた者に安心感を与えるだろうと感じたが、ガトレには合わなかった。


「あの、調査の際、被害者の腹部に刺さった杖と、発動している魔術陣から、魔力の採取をお願いします。その後は部屋を暖めても良いと思うので」

「モー? 魔力の採取う?」

「チュユ! やっておきまチュ!」


ミルモウは疑問符を浮かべたが、チュユンは上官でもないガトレの依頼を律儀に賜った。


「モー、素人が茶々を入れるのは辞めてください。私は茶より乳の方が好みですが。モーホッホ」


ミルモウの笑い声はイヤらしさの感じる様なものではなく、冗句を言った時と似た感覚のものであったが、そもそもガトレには意味が伝わらなかった。


「モーとっと。話が逸れてしまうところでした。残念ながら、妻の乳は私だけのものです。一度飲めば病み付きになりますよ。モー、本当に残念です」


アビト族の生態に理解が深くないガトレには、やはり理解できないままであったが、他の誰かが反応する事もなく、ミルモウは自ら軌道修正した。


「さてと、それではあ、被害者を発見する前後の事をお話して頂けますかあ?」

「では、まず私から」


療養室の異変に気づいた最初の人間として、ガトレは療養室に来た事、その後に安置室へ向かった事、それからいつの間にかナウアが療養室に向かっていた事、そして死体発見までの経緯を話した。


「ふむう、なるほどお。モー、十分ですよ。ではあ、ナウアさん。貴方が部屋の中で倒れていた理由をお話しください」


ナウアの体調はある程度まで回復したらしく、既にガトレの支えは不要となっていた。

代わりに、表情は青ざめて見えるが、身体に寒さが残っているからなのか、それ以外の理由なのかは、ナウア以外にはわからない。


「……はい。私が安置室で受付を済ませたところで、デュアリアにサラエから文書が来たんです。イパレアさんが、私と二人で話したがっていると。そこで、私は療養室に戻りました」

「文書を送ったのは本当でっす。……ガトレさんが信頼できる人かどうか、話を聞いてみたいって」


ナウアの話にサラエが補足を入れる。どうやら、英雄殺しとして疑われている俺の為に、ナウアはイパレアの元へ向かったらしい。


「ガトレ。信頼できるかどうか。……なるほどお。思い出した、英雄殺し」


どうやら、ミルモウも俺の素性に気付いた様だ。


しかし、俺が信頼できる人物かどうかを確かめたいという事は、何か話すのを迷っている事があったという事だろうか。


それも今となっては、聞くこともできないが。と、ガトレが考えている間に、ナウアは話を続ける。


「療養室でイパレアさんと会って、少し雑談をしてました。そうしたら、イパレアさんが急に『危ない!』と言って、魔道銃を私の方に撃ってきたんです。私は頭に魔弾を受けてから、気を失っていました」

「危ない? 何が危なかったんです?」

「わかりません。幕が開いていたので、入口の方を見て何かに気づいたのだと思いますが、それが何だったのかまでは」


ナウアが気絶していた理由は、イパレアが放った流れ弾によるものだったらしい。急いで撃ったという事なら、狙いが逸れるのも致し方なしか。


だが、ナウアの意識があれば、何があったのかは全てわかったはずだ。ナウアが生きているという事は、犯人の狙いはナウアではなかったのだから。


ガトレはそう考えたが、法務官の考え方は違った様だ。


「なるほど。モー、とりあえず、被疑者として捕縛しますよ」


ミルモウはこれまでの緩さが嘘かの様に、術式を描画し、軍式拘束魔術を発動する。


「なっ、えっ!?」

「発言の根拠は乏しく、部屋の中は扉モー窓モー鍵が掛かっていたという事です。モーっとも疑わしいんですよお」

「……わかりました。受け入れます」


拘束された瞬間こそ動揺した様子だったが、説明を受けてナウアは大人しく項垂れた。


受け入れなかったのはむしろ、ガトレの方だ。


「異議があります。ナウアが犯人のはずありません。きっと犯人は、何らかの方法で部屋を脱出したのです!」

「で? その方法とは?」

「それは……わかりませんが」

「モー、二度目ですよ。素人が出しゃ張るのはやめてくださいね」


考えなしに擁護してしまった事をガトレは反省する。だが、同時に矛先も尖り続けた。


ナウアが犯人のはずはない。俺はナウアの事を知っている。こんな事をする奴じゃない。もしも、ナウアが被告人になると言うなら俺は!


「あの、ガトレ様……」


そんなガトレの内心を知ってか知らずか、ナウアはガトレに声を掛けた。項垂れた顔から、横目だけをガトレに向けて。


「もしも私が被告人になったとしても、代弁士になる必要はありません」


そして、ガトレの熱された矛に、冷や水を掛ける。


「ガトレ様の時間は限られています。もしかしたら、この事件すら、ガトレ様の時間を奪う為に、誰かが計画した事なのかもしれません」


まさか、そんなはずはない。偶然だ。

ガトレはナウアもそれを理解した上で、そう言っているのだと考えた。伝えたいのはあくまでも、ガトレに残された時間は少ないということだ。


「だから、ガトレ様。この事件には、これ以上関わらないでください。私が何とかしますから」


俯いた暗い表情に、引き攣った笑みを浮かべて、ナウアはガトレに請い願う。


そうだ。ナウアはそういう奴だ。患者殺しの件も、知れば俺が探ろうとするからと話さなかった。


ナウアは常に、助手だった。とても、有能な。こんな時でも、変わらずに。


「ああ。わかったよ。ナウア」

「ガトレ様……」


ナウアの引き攣った笑みが、少し弛んだ。わかってくれたと、そう喜んでいた。


「お前が絶対に犯人じゃないって事がな」


そして、続いたガトレの言葉に、固まる。


「だから、決めたぞ。この事件は、俺が絶対に解決してみせる。明日中には確実にな。それなら、まだ時間は残る。そうだな、ナウア?」

「違います! 私は、そんな、そんな事をさせる為に言ったわけじゃ!」


取り乱すナウアの両肩に手を置いて、ガトレはミルモウを睨み付ける。


「だから、お願いします。この事件の裁判を、明日までに起こしてください。ナウアの無実を、私が証明します」


ミルモウは、呆れた表情を浮かべていた。


「モー、困りますなあ。私がここで頷いてモー、門頭の皆さんが納得するかあ……」

「なら、俺から口添えしておきますよ」


渋るミルモウだったが、デリラが援護する。それから、デリラはガトレに微笑み返した。


「これでも、副門頭なんですよね、俺」

「モー……。仕方ないですねえ」


ミルモウはガックリと肩を落としてから、両腕を組んで顔を上げた。


「確約はできません。が、明日中に裁判が行える様に、法務官側で準備します」

「ありがとうございます!」


苦笑いを浮かべたミルモウにガトレは感謝を述べてから、デリラにも一礼する。


それから、ミルモウは値踏みする様な視線をガトレに向けた。


「英雄殺しの流れ弾。リザルドが苦戦させられたその手腕には興味がありますし……何より、熱い想いは嫌いじゃない」


ニヤリと笑うミルモウに、ガトレも口角を上げて、挑戦的で不敵な表情を返した。

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