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流れ魔弾と救国の英雄  作者: 天木蘭
2章:医圏管師は希う

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英雄殺しと患者殺し

「何やら楽しそうに話をしているね」


聞き覚えのない声にガトレが顔を上げる。気づかない間に、白衣を着たヒト族が側に立っていた。


「ストウ四等医圏管師……」


どうやらナウアの顔見知りらしい。ストウは青い短髪で、ガトレには、どこか人を小馬鹿にした様な顔をしている様に見えた。


「英雄殺しに患者殺し。お似合いの二人じゃないか?」

「患者殺し?」


バンッ!


机が強く叩かれる。ナウアの右手によって。

恐る恐るガトレはナウアを見る。そこには、ストウへの敵意を露わにした鬼気迫る表情があった。


次にガトレの目は机に向かった。

手に魔力が込められていたのだろう、机の叩かれた箇所は割れて凹んでいる。


「私はっ……!」


ナウアが両手をついて勢いよく立ち上がる。

ストウを睨みつけたまま言葉を吐き出しかけるが、手元に視線を落とした後、口を閉じた。


ストウは動じた様子もなく、憐れむ様な目をナウアに向けている。


「事実だし、君はもう医圏管師として使い物にはならない。みっともなく医圏管師の立場に縋り付いていないで、別の道を探す事だね」


その様な憎まれ口を叩いて、ストウは颯爽と食堂の外へと去っていった。


「ナウア、その……」


ガトレには聞きたい事がいくつかあったが、それを抑えて掛けるべき言葉を模索する。


気にするな、ではない。それでは、さっきまでのやり取りを見ないフリしたのと変わらない。頑張ろう、というのも、何を頑張るのかがわからない状況で掛けるには不適切ではないだろうか。


そうして何度か逡巡したガトレは、やっと言葉を見つけ、身体を僅かに前へ乗り出す。


「見返してやろう」


それが、ガトレの導いた答えだった。

軍人として、貶められたのなら向上心を持つべきだ。そして何より、ガトレはストウが気に入らなかった。


「……そう、ですね」


ナウアが椅子に座る。机の上に広げられた両手が握り締められ、微かに震え始めた。


「そうです。見返せば良いんです。……でも、私にはそれをする資格すらないんですよ」

「上官には逆らえないからか? それなら、役職を高める事で、見返す事ができるさ」

「いえ、違います。……私は、既に逆らってしまったんです。そして、資格を失いました」


ナウアは握り締めた手を開き、両腕で自身の身体に包み込んだ。顔は青褪め、視線は何もない床に向けられている。


心配したガトレが声を掛ける前に、震える唇が言葉を紡いだ。


「実は私、治療魔術を使えないんです」


それは紛れもなく、医圏管師としての資格が喪失された事を意味するものであった。


「どういう事だ? 確か、英雄殺しの方法を話し合っていた時に、医圏管師には素質が必要だと言っていたじゃないか。素質がなければ、そもそも医圏管師にはなれないんじゃないのか?」

「ええ、その通りです。……最初からではなかったんです。ただ、ある事件を境に……。隠していて、すみませんでした。謝罪します」


ナウアが目を閉じる。ガトレには、謝意を示す為ではなく、目を背ける為の行為に見えた。


「いや、謝る必要はない。実は、ナウアと出会う前に、サジ卿はナウアの事を問題児と言っていたんだ。どこが問題なのか今までわからなかったが、きっと、その事なんだろうな」

「問題()ですか。ふっ。あの方からすれば、私はずっと幼子のままなのでしょうね」


鼻で笑うとナウアは席から立ち上がる。顔を下に向けたままで。垂れた前髪が目元を覆うが、ナウアは払おうともしなかった。


「すみません、ガトレ様。体調が優れないので、少し休みます。回復したら合流します」

「ああ、別に構わないが……もし良ければ、どんな事件があったのか教えて欲しい」

「教えられません。私も短い間でガトレ様がどんな人なのかはわかっていますから」


ナウアが顔を上げ、髪を払う。強張った表情を緩めるも、無理やり歪めた様な歪さが浮かんでいた。


「……きっと、知ったら探ろうとします。時間のないガトレ様に、そんな事はさせられません」


ガトレにはそれが、ナウアの本心の様に感じられた。いや、実際にそうなのだろう。


「わかった。それなら、これ以上は聞かない。無理せず休んでくれ」

「……ありがとうございます」

「おー、ナーアどこかに行くのかー?」


礼を返すナウアを引き止めるかの様に、アラクモとドリトザが戻ってきた。


「ええ、ちょっと用事が出来てしまいました。すみません」

「じゃーこれだけー」


アラクモはナウアに流体固形食が乗った皿を差し出す。ナウアは皿を受け取らずに、そのまま流体固形食を手掴みで口の中へ運び、飲み込んだ。


「ありがとうございます。えっと、お金を」

「急いでるでしょー? 今度でいーよー」

「では、また今度お支払いしますね。お先に失礼します」


ナウアはアラクモに礼を述べると、止める暇も与えずに離れていった。


「まあ、医圏管師なら忙しいだろうな。確か、今日は妖魔の進行を食い止める作戦が発動していたはずだ」

「そうだったのか。……すっかり、陸圏管としての行動から外れてしまったな」


英雄殺しの裁判後、ガトレは未だに自身の所属した小隊と顔を合わせていない。どんな顔を合わせるべきなのかも、まだわかっていなかったが。


「俺たちの部隊も、新しい小隊長が決まらないと動けない。幸い、仲間は俺の事を受け入れてくれてるよ。……表面上はな」

「ドートーは良ーやつだから!」

「俺はそう思ってなかったけど、ありがとな。正直、俺が部隊にいられるのは、ノトスとアラクモのお陰だと思ってる。感謝の言葉では足りないくらいだ」

「要らなー! アーも良ーやつだから!」

「二人とも良い関係を築けてるんだな」


ガトレには少し意外だった。アラクモとドリトザは同期だが、小隊として組まれてからの期間は、そこまで長くない。


ガトレの小隊は英雄殺しが起きた際の作戦が初の出撃であった。小隊としての訓練期間はあった為、一ヶ月は共に過ごしているだろうが。


「いや、最初は俺も、アラクモに不満があった。規律を守れず、指示も伝わらない時がある。シズマ小隊長と同じだったんだ」


ドリトザは両手を揉み合せて、はにかむ様な笑みを見せた。


「だが、アラクモはめげなかった。ノトスの介護もあったが、ついてこようとしてくれた。何より、明るかった。隊の雰囲気を良くしてくれてたんだ。それがアラクモの良さだと認めてからは、色々な事が気にならなくなった」


ドリトザの視線が紅猪を頬張るアラクモに向けられる。ドリトザも皿に乗せられた大きな肉に、豪快にかぶり付いた。


「そうか。アラクモが、ドリトザとノトスのいる隊に入って良かったよ」


ガトレは流体固形食を放る様にして口の中に入れた。相変わらずの苦味が襲いくるが、我慢して咀嚼し飲み込む。


「あまり話せず悪いが、俺も行かせてもらう」

「ああ、仕方ない。医圏管師よりも時間がないだろ。協力できる事があれば、俺も手伝う」

「アーもなー」

「助かる。その時はよろしくな」


ガトレは立ち上がり、ナウアの分の皿も持って返却に向かった。そのまま食堂の出口へ歩いて行く。


向かう先は人圏管だ。英雄の同期について情報を得る。それから、英雄に恨みを持った人間がいなかったかを訊ねよう。


目的を整理しながらも道中、ガトレは、アラクモの裁判に対するナウアの態度を思い出していた。


ナウアは牢で、アラクモに救われて欲しいと言った。そして、牢の中にいる者の心情を語っていた。


加えて、一度ドリトザが犯人になり掛け、アラクモの無罪が決まった時は私も救われたと。


だとしたら、ナウアもきっと、裁判の経験があったのだ。それも、被告人として。


ナウアは自ら語ろうとしなかった。俺に気を遣って。なら、俺が勝手に知る分には問題ない。きっと、法廷議事録が人圏管に保管されているはずだ。


深入りするつもりはない。ただ、助手が万全を尽くさない様では困る。部下の悩みに寄り添うのも、理想的な上官の在り方だろう。


そうして考える事に夢中になっていたせいか、ガトレは気づくと、人圏管の受付に辿り着いていた。

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