鉱人の友人
「くっ、駄目か……」
凄まじい荒さの毛繕いを始めたドリトザの姿を見て、ガトレの口から声が漏れる。
ドリトザが本当に犯人でないのなら、普通に考えれば罪を背負う必要はないのだ。だというのに、ドリトザは強い抵抗を見せている。
ドリトザは自身が犯人だと信じているのか?
ガトレは道が閉ざされてしまったと肩を落とす。その肩に、ナウアの手が添えられた。
「ナウア……」
「ガトレ様。私には、ドリトザさんは揺らいでいる様に見えます」
「揺らいで?」
「はい。猫人や虎人は心労が強まると毛繕いも激しくなるんです。蜥蜴人の尻尾切りと同じです。きっと、ガトレ様の言葉で揺らいだ心が、負担になっているのではないでしょうか」
「……そうか」
心が揺らいでいる。ドリトザは迷っている。だとすれば、その迷いを解消してやれば良い。
ガトレは机についた拳に力を入れて、自身の身体をグググと持ち上げた。
迷いの元はなんだ。何を秤に掛けている。
俺の言葉が届いたのなら、片方はアラクモの信用。だとしたら、もう一つは?
いや、そうか。深く考えるまでもない。ドリトザの人間性を考えれば、難しくはなかった。
何故なら俺は初め、ドリトザの犯行動機がそれだと考えていたからだ。
「代弁士よ。シズマ小隊長の話は尤もである。ここまでの話は全て推論である事。それを否定しうる根拠が無ければ成立せぬ。何か手を打つ事」
アミヤが催促する。予定外に法廷が長引いている事で、無駄な議論はさせたくないのだろう。
ガトレは既に、諦める事を諦めていた。次の手は見つかったのだ。
「コゲツ戦闘門頭!」
「ぐゎっ!? ……俺か? なんだ?」
不意に傍聴席へ飛んだ流れ弾。コゲツは備えていなかった様で、ポリポリと頬を掻いた。
「代弁士側は、今回の事件における犯行動機は、鉱人に対する差別意識によるものと考えます。近頃、戦闘門では鉱人の差別を助長する噂が吹聴されておりました。故に、鉱人に汚名を被せ除隊させる。それが、動機だったと思われます」
「そうか。……だが、何故それを俺に言う?」
「それは、噂の内容が『コゲツ戦闘門頭は、戦闘門から鉱人を追い出そうとしている』というものだからです!」
「なにぃ!?」
ナウアが第八小隊に聞き込みをした結果、戦闘門に流れる噂と、シズマは鉱人を排斥する事に肯定的であるという証言を得た。
であれば、上官の指示や思想には従うべきだという態度のドリトザもまた、その思想に影響されているに違いない。遡れば戦闘門頭の思想なのだから。
故にガトレは、ドリトザにはアラクモに罪を被せるだけの動機があると考えた。
しかし、アラクモはドリトザが犯人であるというのを否定した。ドリトザはそんな事をしない。ドリトザは優しいと。
ガトレはアラクモのその言葉を信じる事にした。揺らいでいるというナウアの言葉を信じる事にした。そこで、再びナウアが聞き込みした内容を思い出したのだった。
部隊員からの話によれば、ドリトザのアラクモに対する態度は何とも言えないという煮え切らないもの。
ドリトザの思想がシズマに影響されていれば、ドリトザの態度は露骨に変わるはず。そうなれば、アラクモが優しいと言うはずはないし、部隊員からの印象も断定的になるはずだ。
だが、現実にそうはならなかった。食堂でアラクモを俺の側に行かせた時も、仲間外れにした様に見せて、本当はアラクモに気を遣ったからかもしれない。
ということは、その葛藤こそが、ドリトザの心に揺らぎを生んでいる原因なのではないか。
その一点を突破する。ガトレはそう決断して、コゲツと向かい合う。
「ここで白黒を付けましょう! コゲツ戦闘門頭が、戦闘門から鉱人を排斥しようとしているという噂。これは事実なのですか!?」
「断じてその様な事実はない! 誰だ!? そんな噂を流した者は!!」
コゲツの声は明らかな怒声であった。取り繕った叫声ではなく、本気の怒りを滲ませた声。逆らおうという意志を奪う強烈な声である。
「俺は各人が持つ能力を発揮すればそれを評価する! それが例え鉱人であってもだ! ただし、信用を損ない命を預ける事が出来ぬ様な、軍人に相応しくない者であれば評価しない! それが例え同族の虎人であってもだ!」
コゲツの言葉は真に迫っていた。傍聴席に座る第八小隊の隊員は背筋を伸ばし、賓客の何名かは小さく拍手する。
コゲツは純粋に戦闘力だけで門頭になったのではない。人徳がある。求心力があるから門頭になれたのだと、ガトレは改めて理解した。
だとしたら、戦闘門に流れた噂の出所はどこなのか。それも気になる点ではあるが、今はそれよりもドリトザだ。
「ゴボボボゴホォウ!」
溺れた様な声と咳き込みが、ドリトザから発される。
ドリトザは右腕を口の中に詰めていた。毛繕いと呼んで良いのかすらわからない域にまで到達していた彼は、涙目になりながら涎でベタついた右手を勢い良く胸に叩きつけた。
「最上官の思想に沿わなかった私は軍人失格! ならば私人として友だけは守る所存! 私は証言致します! せめて偉大なる虎人の部下として正直な証言を!」
どうやら、ドリトザの迷いは振り切れたらしい。
狙った方向とは、少しズレた振り切れ方だった為、ガトレは苦笑を浮かべた。
「よろしい。ならば、シズマ氏に代わりドリトザ氏は証言台に立つ事」
アミヤの指示を受け、シズマは証言台から去り、ドリトザが証言台へ向かう。すれ違い様、ガトレにはシズマがドリトザを睨んだ様に見えたが、ドリトザはそれを無視した。
コンコン! ドリトザが証言台に立った瞬間、木槌が叩かれる。
「それでは証人よ。この度の犯行計画、その全貌を証言する事」
「ゴホッ。是!」
ドリトザはバンっと力強く胸を叩き、その勢いで咳き込んだ。ガトレはドリトザが咳き込む度に、何か悪いものが吐き出されているように感じられた。
「今回の計画は、ノトスの体調不良が発端です。射撃訓練は的に近づきながら射撃を繰り返し、的に近づいた後は退きながら射撃を繰り返すというものでした。途中、岩壁に魔弾が当たる音が聞こえたので、ノトスにしては珍しいと思ったのを覚えています。思えば、体調が悪く射撃の腕前が落ちていたのかもしれません。そして私が的の近くまで来たところ、右側に倒れているノトスを見つけたのです」
戦闘中、必ずしも相手と一定の距離にいるとは限らない。その為、如何なる時も正確な射撃が行える様に、的に向かいながらの射撃と引き撃ちの往復は基礎訓練となっている。
ドリトザがノトスの死体を見つけられたのは、的の近くだけは岩壁が無かったからだろう。確か、リザルドが提出した上面図ではそうなっていた。
的の付近だけ岩壁が無いのは、訓練中に仲間の記録が見える様にして、隊員間の競争心を煽る目的からだとガトレは聞いた事がある。
それに的の手前であれば、流れ弾の心配もない。
「私はノトスを背負い、即座にシズマ小隊長の元へ運びました。しかし、運んでいる最中にノトスの身体は軽くなっていきました。恐らく、体内の魔力が失われていたのです。そして、シズマ小隊長と共に、ノトスの死を確認しました」
ノトスは事件の前から死んでいた。ガトレは自身の推理が正しかった事を理解する。
「私はノトスを衛生門へ運ぼうとしました。しかし、シズマ小隊長がそれを止めたのです。『訓練中に死傷者を出せば私の監督責任になる。それよりも、もっと良い手がある』と。『コゲツ門頭の意志に沿い、鉱人を追い出す良い機会だ』と」
ガトレはシズマの表情を伺う。シズマの顔は皺が寄り、かなり険しい表情をしている。今にも襲いかかって来るのではないかという、身体が恐怖を訴える顔つきだ。
「具体的な計画は、ほぼ代弁士が語った通りです。私はノトスを部屋に運んだ後、死体と向き合いながらどうするべきかを考えました。……そして、軍人である事を選びました。どうやら、噂は噂の様でしたが」
ドリトザは目を細めながら傍聴席のコゲツの方を見る。コゲツは何も言わず頷くのみであった。
それから、ドリトザは細めたままの目に、笑みを浮かべてアラクモの方を向く。
「アラクモ、すまなかった。俺はお前に罪を押し付けようとした。庇ってくれた時は驚いたよ。まさか、仲の良いガトレから庇うなんてな。……お前のそういうところを、俺は尊敬している」
ドリトザは笑いながらも、悔しげにその笑みを歪めた。ドリトザの上官絶対の規律に基づいた姿勢は、きっとアラクモとは相入れない部分もあっただろう。
だが、それでも今、こうしてアラクモを認めているというのは、俺の知らない過去があるのだろうな。
ガトレはそれが嬉しくもあり、寂しくもあった。
「アミヤ様! 私はノトスを殺してはおりません! しかし、アラクモに罪を被せようとした罪人であると認めます。アラクモは誓って無実であると、ここに証言致します!」
法廷は着地点を変えないまま、二度目の着地を迎えようとしていた。被告人は無実。罪人はドリトザ。
事件はより詳細になった。しかし、結果は何も変わってはいない。鉱人と代弁士が引き伸ばした状況から、何も。
「異議あり」
その声に対する反応は二極化していた。
一方に興味、もう一方に呆れ。またか、と誰かの呟く様な声さえ感じさせる雰囲気が流れていた。
声の主であるガトレは、そんな空気を振り切り、声を上げる。
「ドリトザ氏は被告人と同様に、利用されたに過ぎません! 代弁士側は改めて主張致します。犯行を計画し実行させた、この事件の主犯はシズマ氏であると!」
「だから何も証拠はないと言っている! 何度も言わせるな!!」
ガトレの主張に応戦したのはシズマだ。法務官の近くで待機していたシズマは、そのままノシノシとリザルド法務官に近寄っていく。
「邪魔だ! どけ!」
「ギュエッ!」
シズマにリザルドが突き飛ばされる。リザルドはチロチロと舌を出しながら、背中を床に打ちつけた。
「法務官では頼りにならん! ドリトザはああ言ってるが、全て口だけだ! 私が計画を指示したという証拠でもあるのか? そもそも、訓練の時にノトスは生きていた! 部屋へ運んだ後でドリトザが殺したのだろう!」
やはり、証拠が必要だ。シズマがこの事件に関わっていたという証拠が。何かないか。
シズマが関わったと思われるものは、置き灯籠の破壊。魔術陣の用意。ノトスの運搬。この中に当てはまるものは……そうだ!
「今からでもよろしければ、証拠を見つけられる可能性があります! 灯籠には石が刺さっており、これが破壊の原因となっていました。この石から魔力を抽出しシズマ氏の魔力が検出されれば、シズマ氏が事件に関わっていた事は証明されます! ですね? チュユン捜査士官!」
「チュユユッ? ぼっ、私でありますか!?」
「魔力を抽出して魔力紋を再現できる道具を捜査に使用していたはずです。それを使って頂きたい!」
「あっ、魔力紋採取機の事ですね。わかりまチた! 行って参ります!」
これ程、裁判中に法廷と外を行き来する者はいないだろうと思いつつ、飛び去っていったチュユンをガトレは見送った。
「あー、アリアが作ったやつだニー。正式名称はトレアリアだニー」
「コンココン。そういえば、それなりに予算を出した覚えがありますわ。完成していたんですの。ちゃんと機能しますの?」
「魔弾で殺したなら特定できるくらいの能力はあるニー。今回は燃えてるから無理だけどニー」
ピューアリアとコクコの会話を大人しく聞いていたシズマは、ここで急に我が意を得たりといった勝ち誇った表情をした。
「代弁士の言は押し付けが過ぎるな! 私は火柱が発生した現場で水降魔術を発動した。であれば、灯籠に刺さった石もその水を浴びている事だろう! 私の魔力が見つかっても何もおかしくはない!」
「まあ、そうだろうニー」
「ぐっ!」
シズマの反論に、魔道具を開発したピューアリアまで同調してしまった。これでは、仮にシズマの魔力が検出されても、事件との関連性は証明できない!
しかし、とガトレの中に一つ疑問が湧いた。
どうしてシズマはさっき、勝ち誇った表情をしたんだ? シズマの反論はピューアリアとコクコの会話とは関係がなかった。一体、どの部分に反応した?
「代弁士よ。他にシズマ氏を犯人とする根拠はあるか? 法務官を突き飛ばした行為は咎める必要があるが、このままではドリトザ氏の証言が事実だと考えるのは難しき事」
「お待ちください。なんとか見つけ出します」
ガトレは思考に耽る。既にほとんどの手札は切ってしまった。あとはもう、シズマの隙を突くしかないのだ。
焦れば焦る程、見失ってしまう様な気がした。早く答えを出さなければ、裁判の判決が決まってしまう。
しかし、ガトレの焦りよりも飽きっぽい、気紛れ屋な猫人がここにはいた。
「ところで被害者のグロリアリアはあったのかニー」
「グロリアリア、魔道銃がどうかしましたか?」
何かキッカケを掴めるだろうかと、気紛れ屋の声にガトレもまた気紛れに応答する。
「被害者の焼け跡にはデュアリアがあったから身元がわかったって言ってたニー。だったら材質的に、グロリアリアも残るはずだニー。デュアリアもグロリアリアも、主な材質は銀晶石が使われているニー」
「銀晶石とは一体、どういう石なのですか?」
「魔力を蓄えて硬度が上がる性質があるから、魔道具の装甲に向いてるニー。で、グロリアリアは無かったのかニー」
アリアの質問に答えられる者は、と、ガトレ達の視線は法務官席から追い出されたリザルドに集められる。
未だ舌をチロチロと出し入れしていたリザルドは、シズマに起こされキョトンとした顔で隣に並ぶ。
何かに気を取られている様子だったが、現状は理解している様だ。石片の魔力を抽出しに行ったチュユンに代わり、リザルドはスラスラと語り始めた。
「えっと、捜査士官の調査によれば、グロリアリアが見つかった記録はありません」
被害者のグロリアリアがない。これは重要な事なのだろうか。まだわからないが、あるはずのものがないという不自然さは、鍵になりうるかもしれない。
ガトレは早速、ドリトザに尋問を行う。
「ドリトザ氏は被害者の魔道銃について、何か知りませんか?」
「否。射撃訓練の際に使っていたはずだが、俺は見ていない。訓練場に落ちているかもしれないが」
訓練場に落ちているかもしれない。であれば、誰かが拾っているだろうな。
……しかし、本当にそうなのだろうか。
ガトレは何かを見落としている様な気がした。
「証人。もう一度、ノトス氏を発見する前の事を証言してくれませんか? 違和感なども含めて」
「大した事はないはずだぞ。訓練中、岩壁に魔弾が当たる様な音がしたから、調子が悪いのかと思ったくらいで。その後に倒れているノトスを見つけたから、やっぱりと思ったが」
「ちなみに昨夜、第八小隊は宿舎へ戻る前に衛生門で検査を受ける様に指示済みだ。結果は良好との事だった」
ああ、道理で食堂に戻ってきたアラクモとドリトザが、第八小隊と遭遇しなかったわけだ。
やはり、行動は計画通りに動く様に操作されていたわけだ。
しかし、ノトスが検査を受けられなかった以上、病であったかの特定はできない。死因は不明か。……いや、待てよ。そうか、死因か!
シズマが勝ち誇った表情を浮かべた時、ピューアリアは魔弾で殺したなら特定はできると言っていた。しかし、死体が燃えているから無理だと。
もしかすると、ノトスの本当の死因は。
「アミヤ卿。代弁士側は、一つの仮説に思い至りました」
「ふむ。どの様な仮説か聞かせる事」
「是。代弁士側は、ノトス氏が訓練中、シズマ氏による魔道銃の射撃で殺害されたと主張します!」
「なんだと!?」
遺憾の意を示したのはシズマであり、アミヤは至って冷静に聞いていた。
「ふむ。代弁士の突拍子のない発言にも、そろそろ慣れてきた頃。話を続ける事」
ガトレには、全ての真実が見えている気がした。これが答えだ。だからこそ、シズマはこんな計画を立てざるを得なかった。その為に、周囲の状況を利用した。
「是。事件は射撃訓練中に起こりました。岩壁に阻まれ隊員同士は周りの様子がわからず、魔弾の銃声ばかりが辺りに響いていた事でしょう」
小さな音なら岩壁に阻まれ、大きな音も魔弾の発射音と的に直撃する音で消されてしまう。シズマはそこに殺意を紛れ込ませた。
「小隊長であるシズマ氏は、隊員を監視する様に右往左往しつつ、ノトス氏を撃つ機会を狙っていた。そして、訓練により魔力がある程度減った瞬間に、ノトス氏を魔弾で撃った。ノトス氏は魔力総量が高い為、至近距離で撃った可能性が高いですね。今回の訓練は的に向かいながら連射する訓練でしたから、数発程度の魔弾なら音が響いても違和感もないでしょう」
実際に何発の魔弾が撃たれたのかはわからない。ただ、ノトスの身体が悲惨な状態になっていれば、最初に発見したドリトザが気づくはずだ。恐らく、何らかの処理を行ったはず。
「しかし、魔弾で撃って軍服に穴が空いていれば、ドリトザ氏が違和感に気づかないはずはない。上着だけでも事前に用意していたかもしれません。そして、ノトス氏の殺害後に着替えさせて、傷がない様に見せた」
ヒト族の身体組成は魔力が七割。動物やアビト族と違って、血液が流れる事はない。代わりに魔力が漏れ出て行くが、魔力は目に見えない為、気づく事はできなかっただろう。
「死体の偽装と、死体を的の近くまで運んだ後は、隊員たちの背後に戻って見張りを再開。隊員は基本、的の方を向いているはずですから、シズマ氏がいない事にも気づかなかったでしょう。そこから先は、ドリトザ氏が証言した通りです」
ノトスの真の死因は魔弾による銃殺。体調不良という鎧で隠された真実は、計画的な殺人だった。
シズマはそれを隠す為に、ドリトザとアラクモの両者を利用した計画を立てたのだ。……許せない。
ガトレの怒りが膨れ上がる一方で、シズマには動じた気配が見られなかった。それどころかフンとガトレを鼻で笑う。
「代弁士の試験結果は鉱人以下なのだろうな。今回の仮説も証拠が一切ない推論に過ぎないぞ」
「証拠ならあるはずです。シズマ氏の魔道銃を出してください」
「魔道銃を? 何故だ」
ガトレには、ある可能性が見えていた。しかし、その理由は伏せておく。
「最近使用された痕跡がないかを確認したいからです。ああ、先にお聞きしておきましょうか。最近、魔道銃を使う機会はありましたか?」
「ふん。馬鹿らしい。射撃訓練の際に手本で撃ったな。出す必要もない」
「無駄というのなら見せてください。念の為ですから」
「シズマ氏よ。大人しく魔道銃を提出する事。でなければ、代弁士は納得しないだろう」
「……是」
シズマは尚も渋る様な態度を崩さなかったが、大人しく懐から魔道銃を取り出した。
「えっ?」
魔道銃は傷もなければ歪みもなく、汚れはあるものの違和感は何も無い。それは、ガトレの予想とは違っていた。
「ふんっ。満足したか?」
むしろガトレの表情を見て満足そうなのはシズマであったが、ガトレには指摘する余裕もない。
「どういう事だ?」
ガトレの予想通りであれば、シズマの魔道銃は破損しているはずであった。しかし、実際に出てきた魔道銃には、そんな痕跡がない。
「んん?」
ガトレとは趣の異なる疑問符を出したのはリザルドだった。先ほどから舌を何度も出し入れしているとはガトレも思っていたが、シズマが出した魔道銃に近付くと更に舌を出し入れする頻度が上がる。
「ゲヘゲヘ。……これ、シズマ氏の魔道銃ではないな」
そして、二股に分かれた舌を垂らしながら、リザルドはそう言い放った。




