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流れ魔弾と救国の英雄  作者: 天木蘭
1章:渦中の鉱人

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流れ弾の行方

「……よかろう。私は優秀な者なら評価するが、愚者を評価する物差は持たぬ。故に、代弁士がここから真犯人を指摘できなければ、被告人は本事件の犯人として、貴公は英雄殺しとして即刻処刑を行うとする」

「アミヤ卿よ、それはちょっとばかし独断が過ぎるんじゃないかのう。そういった意思決定は門頭の間で統一してから発するべきじゃろう」


アミヤの物言いにサジが反論する。しかし、アミヤは断固として首を横に振る。


「先に虚言を仕掛けたのは被告人と英雄殺しだ。その責を負わせなければ、今後の法廷も荒れていきかねないとの判断だが、サジ老よ、私は誤っているだろうか?」

「……はあ、こりゃあワシには無理じゃな。わかった。ワシも受け入れよう。他の門頭にも異論はない様じゃしな」


コゲツは腕を組んで目を閉じ、コクコは会計業務でもしているのか手元の紙に視線を彷徨わせ、ピューアリアは伏せて眠っていた。


普段ならピューアリアを咎めそうなエインダッハも、今は身振り手振りを交えながら話し込んでいる様だった。その相手は昨日の閉廷後、ガトレに突っかかってきたネッセ王子だ。


一通り門頭達の姿を見渡したサジは、申し訳なさそうな表情を浮かべると、ガトレに軽く両手を上げて見せる。


ガトレはサジに目礼だけ返し、アミヤと向き合った。刺さる様な目つきに怖気付く事なく、ガトレは朗々と声を上げた。


「アミヤ卿、私は構いません。条件を受け入れます」

「ガトレ様、まだ遅くありません! 今からでも撤回を」

「ナウア、大丈夫だ。私とアラクモを信じてくれ」


ガトレはアラクモを信じ切ると判断してから考え続けた。この事件の異なる側面について。


自身の放った魔弾が英雄を撃ち抜き、流れ弾と見做す他なくなった。それと同様に、この事件にもまだ、見方を誤っている部分があるのではないか。そう信じて。


アラクモを救う、ドリトザが犯人だ。そうした先入観を排する事で、ここまでに得られた情報から、ガトレは改めて別の可能性を考えられた。


確たる根拠や証拠がある訳ではない。今はまだ。

しかし、それでも、突き進むしかなかった。


「あの、まだ続くんですか、これ? そろそろ仕事に戻りたいんですが」


証言台に立つ証人が不満を呈す。アミヤよりも早く、ガトレはそれに応えた。


「証人、申し訳ありませんが私から最後の質問です。この質問にお答え頂ければ、最早この法廷から退廷しても問題ありません。法務官とアミヤ卿に異論がなければ、ですが」

「法務官側に異論はない。もう検討の余地はない事件のはずだ」

「私から異論があるとすれば貴公の行動に対してだ」


リザルドはぐったりとしたまま、アミヤは厳しい表情を浮かべたまま、それぞれガトレに返答する。


「その点はお詫び致します。証人もよろしいですか?」

「まあ、最後なら。でも、本当に最後にしてくださいよ」

「もちろんです」


ガトレは力強く頷いた。横にいるナウアは不安そうな表情を浮かべる。ガトレは敢えて無視して、質問を続けた。


「では……お聞きしたいのはアラクモ、鉱人が食堂に入ってきた時の事です」

「入って来た時って、細かい事は覚えてませんが」

「安心してください。これは覚えているはずですから。……アラクモは何も食べず、連れは流体固形食を食べたそうですね。それで、体調が悪いのかと思ったと」

「ええ、まあ。いつもなら紅猪の肉とか、もっと魔力の豊富なものを食べますからね」


ガトレは今までになく緊張していた。その緊張を解したくて、丁寧に証言を振り返ったのに、まだ残っている。


だが、拳を握り、顔を上げ、声高らかに、投げ掛ける。


「私の質問は単純なものです。食堂に訪れたアラクモの連れは……()()()でしたか?」

「え?」


証人から困惑を含んだ声が漏れる。法廷の空気は当然だという様に静まり返っていた。何を当たり前なことを。被告人が共に行動していたのは、ヒト族であるロロアル=ノトスなのだから、聞くまでもないと。


しかし、証人の困惑が意味しているものは異なっていた。


「いえ、違いますけど……」

「なにっ!?」


法廷が話し声と驚愕の反応で埋め尽くされる。その中でも取り分け大きく聞こえたのは、木槌を大きく振り上げたものの下せないでいる、アミヤの声であった。


「証人よ! 本法廷では真実を語る事!」

「は、はい。ですから、真実ですけど」


法廷内の何処でも同様の反応が浮かんでいる中で、ただ一人ガトレだけが、安心した表情をしていた。コホンとわざとらしく咳き込んで、ガトレは続ける。


「証人。最後と言いましたが、あと一つだけ。その連れというのは、あそこにいる()()だったのでは?」

「え、ええ。そうです。何かおかしかったですか?」


ガトレが指を差し、証人が認めた人物。

十七時以降、アラクモと共に食堂へ訪れたその人物は、真犯人として名が上がった、ドリトザ=グレオムであった。


「な、どういう事だ! 代弁士よ! 何か分かっているのなら説明せよ!」

「是。しかしその前に、証人には退廷して頂きましょう。代わりに代弁士側は、新たにアラクモを証人として尋問を要求します」

「……くっ。不服ではあるが、致し方無しか」


コンッコンッ! いつもより力強く、悪く言えば雑に聞こえる木槌の音を立てて、アミヤが宣言する。


「証人は退廷し、職務に従事せよ! そして、被告人アラクモは証言台に立つ事!」

「さあ、アラクモ。証言台に立つんだ」

「わかーたー!」


ガトレは振り返ってアラクモを促す。

糧圏管の証人はチュユンの案内もなく、首を傾げながら退廷していった。


「では、アラクモに証言をさせてもよろしいでしょうか?」


アラクモが証言台に立つと、ガトレはアミヤに問う。進行はあくまでも裁判長であるアミヤが行わなければならない。


「ふむ。よろしい。だが、何を尋問するというのだ。なぜ食堂にドリトザと訪れたのかという点か?」

「否。これから必要とする証言は、アラクモとドリトザがノトスを迎えに行った時から、事件発生までの様子です」

「……よろしい。確かに、被告人の口から語られてはいなかったな。食堂に向かったというのも、代弁士の発言で発覚した事であった」


リザルド法務官が取るに足らない事だと判断しなければ、チュユン捜査士官から語られただろうに。


当のチュユン捜査士官は身体を震わせており、余裕のできたガトレはその様子に重ねて同情した。


「では、被告人アラクモよ。この際、身分の明示は良い。被害者との合流から、事件発生までの動きを証言する事」

「んー、わかーまーしたー」


アラクモは周囲の雰囲気が変わった事は理解しているのか、アミヤに呑気な声を返す。ガトレは、アミヤの眉がピクっと動いた気がした。


「まずー、アーとドートーは宿舎にいーてー、ノトーとごーりゅーしまーしたー!」

「アラクモ、質問だ。その合流について聞きたい。具体的には、どういう風に合流したんだ?」


側から聞けば、ガトレの質問はどうでも良い事に思えた。合流したという情報こそが重要で、疑問を挟む余地などないと。


しかし、ガトレにとっては違った。この瞬間こそが、見え方の異なる流れ弾、それが仕掛けられた部分なのではないかと気づいたのだ。


「アーとドートーで宿舎に着いてー、ドートーが先に部屋にはいーたの。でー、ノトーが部屋から出て来たから、いーしょにしょくどーにいーたよ!」

「食堂に向かったのは、休んでいたノトスを気遣っての事だったな。……ところでアラクモ。アラクモはどうして、部屋から出て来たのがノトスだと判断したんだ」

「えー? ノトーがドートーは後から出てくるーていーたからー」

「なるほど。ノトスがそう言ったのか」


ガトレはアラクモに合わせて質問を重ねているつもりだった。しかし、それはどうやら、アミヤにとっては快くない速度の様だった。


「代弁士よ。貴公の質問の意図がわかりかねる。何を聞き出そうとしているのだ」

「もう少しです。お待ちください。……アラクモ。ノトスが言ったというのは、そう話したという事か?」

「んー? ちがーう。ノトーは、デュアラーでいーたの!」

「デュアラーって、もしかしてデュアリアですか?」


法廷において発言のほとんどを控えていたナウアが、初めて思わずといった風に訊ねる。


「そうだ、ナウア」


ガトレはトントンと自身のデュアリアを指で叩いた。それからアミヤを見上げる。


「アミヤ卿、代弁士側の考えとしてはこうです。ドリトザ氏と被告人は、宿舎へ被害者を迎えに行き、ドリトザ氏が先に部屋へ入った。しかし、宿舎の部屋から出てきたのはノトス氏を騙ったドリトザ氏であり、事件発生までの間、アラクモと行動を共にしていたのもまた、ドリトザ氏であったというものです!」

「な、な、貴公は何を言っている!?」

「ゲッゲッゲ。……愉快な話を聞かせてもらったな」


理解が追いつかないという態度を露わにするアミヤ。一方で、先刻までは潰されたかの様に崩れていたリザルドは気力を取り戻した様だった。


「代弁士は急に考える事が出来なくなったらしい。目の前の相手が誰かだなんて、一目で瞭然だろう!」

「普通ならそうです。しかし、アラクモは違う。アラクモは人の姿を見分けるのが苦手なんですよ。同期の私が近くで話していても、他人に言われなければ気づかないくらいに」

「ばっ、馬鹿な! そんな奴がこの世に……いや、そうか。鉱人なら、あり得るのか?」

「事実、昨日の昼頃も食堂で、アラクモは私に気づかず、ドリトザ氏に言われてようやく気づいたそうですよ。第八小隊の面々が証人となるでしょう。……まったく、仕方のない奴です」


本当に仕方のない奴だ。その短所が、こんな事件に利用されてしまうのだから。……だが、やはり、アラクモという人物を信じて良かった。


ガトレの口元に笑みが滲む。その間に、リザルドは第八小隊に取り急ぎの聴取を行っている様だった。


ガトレはこれから浮かぶであろう疑問にも先回りしておく事にした。


「ただ、私よりも同じ小隊員の方が過ごした時間は長い分、見分けがつかなくても声はわかるはずです。だからこそ、ドリトザ氏はデュアリアの文書機能を利用して、アラクモとやり取りをしたのだと考えられます。アラクモかドリトザ氏のデュアリアを調べれば、何らかの履歴を確認できるのではないでしょうか」


途端に動き出したのはチュユン捜査士官であった。忙しなくアラクモの元に羽ばたくとデュアリアに触れ、何らかの操作をし、終わるとドリトザの元へ向かった。


「チュ、チュン! た、確かにその様なやり取りが! ノトスだと名乗り、ドリトザは後で部屋から出て行くと。それと、食堂でされたと思われる雑談、あとは中庭での移動経路も話チています!」

「こちらも確認した。確かに、第八小隊では被告人の相貌認知能力については周知の事実であった様だ。……なんという事だ。これだから鉱人は……」


チュユンとリザルドから報告が上がる。ガトレは、聞き逃せない一点だけは突いておく事にした。


「悪いのは鉱人ではなく、鉱人の特性を利用した者でしょう。自身がノトスであると騙したドリトザ氏、そして日頃から鉱人を貶めす者達。どちらも変わらぬ悪人です」

「…………」


ガトレの主張に法廷が押し黙る。

思い当たる点がある者、思い当たる者を責める者、ガトレの主張に反する者、それぞれの思惑で作られた沈黙であった。


そして、それを破るのはやはり、アミヤであった。


「正透門の門頭として、貴公の訴えは憂慮すべき点と受け入れよう。しかし、この場は個人の思想を発表する場ではない。……ドリトザ氏が被告人を騙していた。ならばやはり、犯人はドリトザ氏ではないのか?」


それは至極真っ当な思考であった。この法廷にいるほとんどの者が、同じ考えを抱いている事だろう。


しかし、ドリトザがアラクモと行動していた事で、覆ってしまう重大な点がある。


「否。私がドリトザ氏を犯人としたのは、魔術陣の用意、及び十七時までに灯籠の破壊が出来るという状況からでした。しかし、ドリトザ氏がアラクモと行動していたのであれば、ドリトザ氏の単独行動は無かったことになり、十七時までに灯籠を破壊する事も不可能となるのです!」

「っ! そうか、そうなってしまうのか……」


前提が崩れた事で、ドリトザの証言は全てが虚言となる。しかし同時に、ドリトザの行動は全てアラクモに見張られていた事にもなった。


「そして、ドリトザ氏がアラクモと行動を共にしていたとすれば、魔術陣の発動は至って単純です。中庭を移動中に、ドリトザ氏が魔術陣を発動するだけなのですから」


魔術陣は地面ごと破砕されていた。その事から、ドリトザが魔術陣に魔力を込めたのは間違いない。

しかし、その手法は遠隔でも仕掛けを使ったのでもなく、自らの手で発動しただけだったのだ。


「ここで新たな謎が浮かびます。なぜ、火柱の中から被害者の死体が出て来たのか。なぜ、ドリトザ氏は魔術陣の存在を知っていたのか。そして一体誰が、中庭の灯籠を破壊したのか」


その全ての問いを結びつける答えが、ガトレには一つしか思いつかなかった。


「考えられる可能性は一つ。この事件には共犯者がいたのです。そして、その共犯者は──」


ガトレは右腕を高く掲げ、そして振り下ろす。ピンと伸びた指先は、堂々たる鬣を纏った獅子人を差していた。


「──第八小隊小隊長、ウラド=シズマ氏。貴公であると考えます!」


逸れた狙いの先にいた者。

誰が気付くこともなく、流れ弾は既に、彼の胸元へと迫っていた。


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