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流れ魔弾と救国の英雄  作者: 天木蘭
1章:渦中の鉱人

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調査:火柱と鉱人3

「あら。またいらっしゃったのですね。昨日の法廷議事録についてでしょうか」

「いや、今日は別件だ。昨夜に発生した火柱の事件を調査している」


人圏管に訪れたガトレは、昨日と同じ兎人の受付に立っていた。耳をピョコと跳ねさせ、幾分か昨日よりも柔和な笑みが浮かんでいた。


「……あなた様の動力源は魔力ではなく知的好奇心なのでしょうか。若いヒト族だと思っていたのですが、もしや、年老いた馬人でしたか?」

「答えは否だ。その言葉、馬人には言わない方がいいぞ。……それにしても、私と君がそんな軽口を叩ける様な間柄になっていたとは驚いたな」

「あら、失礼しました。業務中に堂々と愚痴を吐く良い機会でしたから。お望みの資料はどちらですか?」

「試験記録や能力適性の記録を閲覧したい。対象は陸圏管の第八小隊だ」

「かしこまりました。少々お待ちください」


兎人は頷いて椅子から立ち上がると奥へ行く。ガトレは上を見上げてから、息を吐きつつ肩を落とした。


ガトレがこの兎人の受付を選んだのは、英雄殺しの被疑者である事を知っていて尚、業務に忠実な点を評価しての事である。


しかし、いつの間にやら縮まっていたらしい心の距離に、ガトレは若干引き気味になっていた。


「ん?」


そこで、ガトレが左腕に装着しているデュアリアが震えた。画面が発光し、文字が表示される。


『ナウアです。ガトレ様、今どちらにいらっしゃいますか?』


表示されたのはナウアからの文書であった。

デュアリアに搭載された機能を使用したものだ。他者のデュアリア宛に文字を送ることができるが、文章量に応じた魔力を消費する為、長いやり取りには向いていない。


『今は人圏管の受付にいる』

『現場周辺の調査完了。合流しますか?』


ナウアが得た情報をこのままやり取りで済ませると時間が掛かるだろう。今は効率的に動くべきだ。

ガトレは悩んだが、結論を伝える。


『現状、犯人に繋がる動機が不明。第八小隊に聞き込みを頼みたい』

『了解。時間的に聞き込みまでが限界でしょう。終わり次第、合流します』

『よろしく頼む』


ガトレは受付を兎人にしたのと同じ理由で、自分では第八小隊への聞き込みが円滑にいかないだろうと判断した。


早く英雄殺しの汚名を晴らしたいものだ。ナウアとサジ卿には頭が上がらないな。

感謝を浮かべながら、ガトレがデュアリアの画面を撫でていると丁度、兎人が受付に戻ってきた。


「お待たせしました。こちらが陸圏管第八小隊の記録です。一ヶ月前が最新でした。閲覧には階六次閲覧権限が必要ですが、昨日の時点でお持ちでしたね」


兎人から封筒が差し出され、ガトレが受け取る。


「更新されて今は階五次だ」


何の気なしにガトレが返すと、兎人は僅かな間、目を丸くして開口したまま固まった。


「……それは、驚きですね」


兎人は含みのない言い方で感想を述べると、差し出されたままになっていた両手も引っ込める。


「昨日のお連れの方がいらっしゃれば、法廷議事録の閲覧許可もご自身で与えられますよ」

「火柱の事件が片付いたらそうさせてもらう予定だ。この第八小隊の資料だが、持ち出しても構わないか?」

「七日以内に返却頂ければ問題ありません。ガトレ様には実績がありますし」


調査と法廷での証拠として使う可能性から、持ち出しに期間以外の制限がないのは助かった。

そう思うのと同時に引っ掛かった部分をガトレは追及する。


「実績というのは?」

「ピューアリア様から証拠品の返納がありました。実際に返納されたのはデリラ副門頭からでしたけど」

「そうか。返却されたのか」


忙しいだろうに、とガトレはデリラに同情する。たはは、と笑いながら受付に謝罪する姿が浮かんで消えた。


「残念ながら、未だ証拠品として有効ですので、お返しする事は出来ませんが」

「構わない。英雄殺しではないと証明できなければ、一兵卒にすら戻れないだろうからな」


裁判後、ガトレに戦闘門からの命令は降りていない。今のところ捜査の為に自由行動を取っているが、お咎めもないことから、許されているのだろう。


昨夜は宿舎に戻らずナウアの部屋を借りたが、立場的には正解だったかもしれないとガトレは考えた。


「私も今は、あなたが英雄殺しでなければ良いと思っていますよ。用件は以上でよろしかったですか?」

「以上だ。ありがとう。また何かあれば世話になる」


ガトレは受付を後にして、受付の待機用に設置されている椅子に座った。椅子と肉体の間に魔力が挟まる為、座り心地は良くも悪くもない。


ガトレは兎人から手渡された封筒を開ける。封はされておらず、数枚の紙が入っている様だ。

書かれている情報はいくつかあるが、その中でもガトレが注目したのは名前、人種、能力適性、魔力紋の部分だ。


まずは被害者の情報からだ。

名前はロロアル=ノトス。ヒト族。魔力総量は並以上、術式描画速度は並、魔力操作能力も並。魔力紋は術式なし。どうやら、平均以上の能力は有しているようだった。


しかし、疑問が浮かぶ。魔力総量がそこそこ高い。ヒト族だが、生前の肉体は大柄だったのだろう。だとすれば、炭化するには火柱魔術の威力もそれなりになければいけないはずだ。

何故なら、身体を覆う魔力を頼りに、火柱から脱出する事ができてしまうからだ。


火柱の発生と同時に意識を奪う様な仕掛けがあれば別だが、その様な術式を魔術陣に組み込もうとすれば発動する為には更に魔力を必要とする。一体どういう事なんだ?


疑問を解消させる答えはすぐに見つからず、一旦は置いておき、そのまま資料を見ていく。


ドリトザ=グレオム。虎人。食堂で揉めたり、事件の夜にもその場にいた虎人だ。


そういえば、何故あの虎人は近くにいたのだろうか。シズマと同じく、アラクモ達の様子を見に来たのか? 雀人いわく、被害者を部屋に運んだり、アラクモと迎えにも行ったらしいしな。


続いてガトレはドリトザの能力も見ていく。

魔力総量は被害者よりも高い。術式描画速度は低め。魔力操作能力は並。魔力紋は……破砕?


魔力紋に術式を含むからか、ドリトザには特記事項が書き込まれていた。ガトレは指先でなぞりながらそれを読み上げる。


「魔力紋に破砕の術式あり。魔力を込めた物体が砕けてしまう……だと?」


訓練時に注意されたし、という言葉で締め括られた特記事項。ガトレはその意味するところに、現場の状況を重ねていた。


現場の地面が壊れた理由。あれは魔術陣に魔力を込めた事で、破砕の術式が発動したからじゃないのか?


それならば、魔術陣があった場所だけが抉れた様になっていた事も、土片がバラバラに飛び散っていた事にも納得がいく!


「犯人はドリトザだ。……いや」


思い込みは良くない。心を落ち着け、ガトレは一通り資料に目を通す事にした。


しかし、そもそも被害者のノトスよりも魔力が高い部隊員は、アラクモとドリトザ、そして小隊長のシズマしかいなかった。


魔力操作能力が極めて優秀であれば、魔力総量を補う事も可能ではあるが、いずれの部隊員も並で収まる程度であった。小隊長なだけあって、シズマは並より高いものの、そもそも獅子人の体格による魔力総量だけで十分だ。


他に印象的なものといえば、アラクモの術式描画速度が最低水準という事くらいだが、それは既知の情報だった。だからこそ昨夜、アラクモの分もガトレが術式を描いたのだ。


アラクモには苦手な事が多い。

昨日の食堂でガトレにすぐ気づかなかったり、術式を描くのも苦手だ。


だが、ガトレはそんなアラクモが好きだ。

だからこそ、許せない。アラクモに罪を被せようとしている存在が。


「犯人は恐らくドリトザ。これはほぼ決まりだ。あとは、どうやって魔術陣を発動したのか」


アラクモとノトスは二人でいた。ナウアはアラクモの声を聞いたが、俺は何も気づかなかった。近くに誰かが隠れていた可能性だってある。


ならば、もしもその場にドリトザがいたのであれば、アラクモが何かを目撃していないだろうか。最も事件現場に近い目撃者はアラクモだ。


「時間的に、アラクモとの面会が限界だな」


ナウアも今頃、第八小隊に聞き込みを行っているはずだ。合流の事も見据えておくか。


ガトレはデュアリアを操作し文字を送る。


『こちらは最後にアラクモと面会をし、そのまま法廷に向かう。合流時に情報を共有してくれ』


資料を封筒に仕舞い込み左脇に抱えると、ガトレはアラクモの元へと向かった。

あと1話挟んだら裁判が始まる予定です。

裁判部分は間を空けずに連続更新か、まとめて更新できたら……良いですね。


それと評価ポイントをつけて頂いた読者の方、本当にありがとうございます!かなり励みになりました!

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