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流れ魔弾と救国の英雄  作者: 天木蘭
1章:渦中の鉱人
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医圏管師として

「さて、趣味の話が長くなってしまいましたな。そろそろヒトは休むお時間では?」


ガトレは左腕のデュアリアを見る。時間は十七と二十の時を示していた。


「私は夜行性ですが、ヒトはそうではない。一日の終わりが二十となれば、もう夜更けの様なものでしょう」

「ええ、まあ。まだ早いですが、戦闘門では十九の時に眠り、五の時に目覚めるのが規則ですね」

「そうでしょう、そうでしょう。しかし、時間というのも不便なものですね」


フギルノは手を広げたり、ガトレに見せ付ける様にして足を持ち上げる。


「私の手指は5本ありますが、足の指は4本。全部で18本ですから、指の数で覚えるには二十時間との相性は悪いのです。ホッホッホーウ」


冗談めかしてフギルノが笑う。

ガトレにとっては常識となっている二十時間だが、あくまでもヒト族の常識であり、連合軍となった時に合意して決まったものであった。


それまで外交や貿易がない一部の国は、主民族が全ての指で数え切れる数を時間として定めており、連合化した際にバラツキがあったのだ。


「ですが、5本あるのなら4回折り返せば20になります。それに、刻み時や分かれ時は数えやすいですよ。50刻で1分、50分で1時間。4本では数えにくい事でしょう」

「ホホホ。仰る通りですな。鳥人は種類によって足の指の本数が異なる事もあります。昔はこんな些細な事でも諍いがあったのでしょうな」


ガトレが生まれた時には、既に妖魔が存在していた。妖魔が現れる前は平和だったのかといえば、必ずしもそうではなかったのだろう。種族間の差別意識がある時点で、それは明らかだ。


「では、ナウアも睨んでいることですし、この辺りでお開きとしましょうか。ホホーウ」


ガトレが横を見ると、ナウアはジトっとした視線を向けていた。ガトレはフギルノの擁護と気遣いで口を開いた。


「気にしないでください。三日しかないんです。私には時間がありません。休むのも惜しい。限界が来るまでは調査を続けるつもりです」

「ダメです。助手として、何より一人の医圏管師として、それを許可する事はできません」


異論はナウアから飛んできた。

平常時であれば大人しく頷ける言葉だったが、今のガトレには無理な話であった。


「私の命が掛かってるんだ。命と健康を比較すればどちらが重いか、判断は難しくないはずだが?」

「命が掛かっているからこそ休むべきです。十分な休息を得なければ思考能力や身体能力が低下し、万全ならば辿り着けた答えに辿り着けなくなるかもしれません」

「しかし、休むことで必要な情報が得られず、真実が見えずに終わる可能性もあるだろう! お前は助手なんだ! 俺の支援をすれば良い!」

「ガトレ様、私の言い方が悪かった様ですね。私は助手である前に、一人の医圏管師です!」


ガトレとナウアの言い合いは激しくなり、周りの研究に没頭する者達の視線も惹き始める。気づいたフギルノは自身の翼でガトレとナウアを包み込み、近くへ寄せて囁く。


「まあまあまあ、二人とも落ち着きなさい。諍いこそ最も無駄な時間でしょう」


フギルノの翼には森の匂いが残っていた。

ガトレとナウアは、フギルノから漂う暖かさを感じる匂いで少し落ち着きを取り戻した。


「ナウア、すまなかった。……君は君で、全力で補助しようとしてくれているのだろう?」

「全力……いえ、そんな事は、ないです。なかったです。私はただ、医圏管師として動いただけで……」


落とし所を探す二人の様子を察して、フギルノが道を示す。


「ガトレくんは被告人として、牢の中にいたのでしょう? ならば今日は、ナウアに従い休むべきでしょう。三日しかないと言いましたが、三日あります。焦る心は目を曇らせますよ」

「……そう、ですね」


ガトレは素直に頷いた。

ガトレは自分がナウアに当たった事に、少なからず衝撃を受けていた。


俺は、理想の上官として接する事を思い描いていた筈なのに。軍人たるもの、冷静さを失ってはいけない。矜持を失ってはいけない。

守るべきものを守らなければならない。


軍人としての姿を失ったまま真実を解き明かしたとしても、俺にその先はないのだ。軍服についた汚れも、即完璧に落とし切るのは難しい。その事をガトレは思い出した。


「今日のところは医圏管師殿に従おう。丁度、休みたかった気がしてきたからな」

「……今の私は助手のナウアです。医圏管師でもありますが、ガトレ様の助手です。程々に聞き入れてください」


フギルノはホウと一鳴きすると、翼を畳み二人の姿を露わにした。周囲の興味も削がれた様で、研究に熱中する者ばかりの空間が取り戻された。


「わかった。ナウア、これからも頼む。……しかし、休むのは良いが、今の私はどういう立場なのだろうな。宿舎に戻り休んだ後、明日は訓練も行わなければいけないのだろうか」

「ガトレ様は猶予があるものの、被告人である事には変わりません。自由に振る舞っても問題ないかと思いますよ」

「それは、心強いが……心細いな」


宿舎でも仲間からは疎まれる事だろう。小隊の仲は、まだ構築されきってはいなかった。それに加え、隊内から英雄殺しを出したとなれば、立場も良くはないはずだ。


信頼度においては、昇進を目標にしていたガトレが、軍務への忠実さに重きをおいて、親交を深めていなかったというのもあるが。


「ガトレ様、良ければ明日は、私が迎えに行きましょうか?」


ナウアが首を傾げ、亜麻色の長髪が揺れる。

見据えられたガトレは心の隙間に入り込まれそうな気がして目を逸らした。


「ナウアは助手であり医圏管師だが、従者ではないだろう。私から迎えに行くとも」

「わかりました。ではその様に。宿舎まで送り届けます」

「いや、私はここで解散で構わないのだが」

「私は約束を守らない者が嫌いです」

「……まだまだ信用がないらしいな」


このまま解散すると、休むと言いながら休まないで調査を進めるとナウアは思っているのだろう。


すぐに信用を構築できるはずもない。だが、信用されていないというのも、一つの信用なのかもしれないな。


ガトレはナウアとの距離感が段々心地良くなってきているのを感じた。

アラクモだけで十分だと思っていたんだがな。ガトレは薄く笑みを浮かべる。


「わかった。では宿舎まで同行してもらおうか」


ガトレはフギルノに別れを告げると、ナウアを連れて宿舎へと向かっていった。

この世界での1日は20時間。1時間は50分。1分は50秒(刻)となっております。


またこの段階では作中で語られていませんが、一年も10ヶ月です。時の流れが早く、十二分ではなく十分で充分な世界という事ですね。


また、前話の通り、この世界におけるヒト族は中性であり、両性具有でもなく無性別です。

作者は性的要素のない中性的な容姿が最も美しいと思います。「宝石の国」はいいぞ。

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