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流れ魔弾と救国の英雄  作者: 天木蘭
1章:渦中の鉱人
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はぐれ者

「ガトレ様、気をつけてください。刑の執行前に死ぬつもりですか?」


ナウアは手布(しゅきん)も差し出したが、ガトレは咳き込みながらも右手を出してそれを固辞する。


「ゴホッゴホッ! はあ、はあ。いや、本当にそうだ。冗談にならないな」

「ふふっ。やはり英雄を殺せる様な人ではありませんね」


ナウアが口元に手を当てて微笑む。

表情に乏しい様子ばかり見ていたガトレはナウアの様子に目を瞬かせ、ふっと抜ける様な笑みを返した。


そんな二人の耳に、鉱石が打ち合う様な耳心地の良い声が流れてくる。


「アーもガトーはちがーとおーもー」


ガトレともナウアとも質の違う笑みを浮かべた声の主、アラクモに対して、ガトレは前のめりになった。


「そう言ってくれるヤツが一人でもいてくれるのは心強いよ。ぜひ席に座ってくれ」

「おー」


アラクモはぴょいと跳ねて、お尻から木製の長椅子に着地する。小柄な体躯だが赤晶石(せきしょうせき)で嵩を増した体重はガトレ相応であり、それなりに大きな音が立った。


ナウアは身体を少し引きつつも、物珍しそうな表情を浮かべてアラクモに尋ねる。


「鉱人とは珍しいですね。非生物と交わったアビト族ですから、その……とても軍人には向いていないですし」


ナウアは言葉を濁し口にしなかったが、ガトレはその口調に含まれていたものを察した。


鉱人は世間一般的に知能が低いというのが常識になっており、事実その通りでもある。


理由として考えられているのは、ナウアが述べた通り、鉱石という非生物と交わった存在であるからというものだ。


「しかし、体の一部が鉱石だと、体積は増量するし、鉱石部分の魔力伝導率が高いおかげで、魔術の強化にも役立つ。戦力として見ればお釣りが来るさ」

「ええ、まあ、そこは羨ましいですね。私なんて、少しでも体積を増すために髪も伸ばしているというのに」


ナウアは腰まで掛かる髪を掬い上げ、亜麻色の髪を目元まで持ち上げる。


「アーのこれうらやまし? どーしてー?」


自身の右腕を掲げるアラクモに、ナウアは優しく説明する。ガトレには、ナウアが心なしゆったりと話している様に聞こえた。


「魔力は人の肉体に宿り、体の大きさに比例して保有量も多くなります。つまり、基本的には体が大きい程、保有している魔力も多いのですよ」

「アーは小さいなー。少ないなー」

「いいえ、アラクモさん。体積と魔力総量はそうであっても、その他の要素で総量が変わる事もあるのです。その例が、アラクモさんの鉱石体や、救国の英雄の特異体質なのですよ」

「そうかー、変わるのかー」


恐らくアラクモにはこれでも理解しきれていないだろうなと思いつつ、ガトレは気になる点に追及する。


「救国の英雄の特異体質というのは、通常のヒト族ではあり得ない様な魔力総量の事か?」

「その通りです。身体構造の基本になりますが、魔力循環器はご存知ですか?」

「ああ。我々の左胸にある器官だな。魔力を全身に巡らせたり、取り入れた食物を魔力に変換する重要な器官だ」

「正しい認識です。救国の英雄は、この魔力循環器の働きが普通ではなかったのです」


ナウアが左胸に手を当てたのを見て、ガトレも釣られて自身の左胸に手を当てた。


軍服越しでも力強い動きを感じる。先ほど食べた流体固形食が、今まさに自身の魔力へと変換されているからだろう。


「あの方は特異体質により、魔力が体の中を常に異常な速さで巡り続けていました。どうやら、それが原因で常に魔力を消費していると体が判断し、魔力の保有限界が向上したようです」


魔力は基本、体積に比例した量しか保有できない。

ガトレは人体構造や魔力論に詳しくはないが、人々の肉体は必要以上の魔力を持たせるつもりがないらしい。


故に所属が決まるまでの訓練兵期間には、魔力保有量の限界を増やす為に、毎日魔力を使用するという訓練もあった。そうする事で、一日に必要な魔力はもっと多いと肉体に誤認させるのだ。


「また、食事もすぐに、かつ効率よく魔力変換される為、出撃前に多量に貯めておく事ができるのです。糧圏管の同期からも、救国の英雄は食べっぷりが良くて好感を持てたと聞きましたね」


亡くなった日も大規模な魔術を使用していた。きっと、たらふく食べて作戦に臨んだのだろう。


そうガトレは想像するが、だとするとやはり、自身の魔弾で撃ち殺せてしまったのは違和感がある。魔道銃に改造された痕跡がない事は、開発したピューアリアも確認していたというのに。


「……ところで、食べっぷりで思い出しましたが、アラクモさん。あなた先ほど、虎人と一緒にいませんでしたか?」

「アーいたぞー。だからこっち来たーん」

「彼とアラクモは同じ小隊だからな。でも、アラクモは良かったのか? 態度の変わらない相手がいる事は、俺にとっては幸いだが」

「いけーって言ったからー。アーもはなしたーかーたしー」


アラクモの陽気さと話し方から受ける印象とは、異なる背景をガトレは受け取っていた。


あの虎人は俺の事を嫌っていた。その俺に同僚を差し向ける。それも、性格の分かりきったアラクモを。


「つまり……いえ。アラクモさんは、あの虎人よりガトレ様と仲良し。それでいいでしょう」


恐らく同じ結論に至ったと思われるナウアに、ガトレは頷いて同調する。


「ああ、その通り。俺たちは、はぐれ者仲間だな」

「はぐれもー?」

「……医療業務から外れた医圏管。ふっ。私もはぐれ者の様なものですね。同じく仲間です」


ガトレは自嘲的な話し振りのナウアへ苦笑を返したが、同時に不思議にも思う。


サジ卿はナウアを問題児と言っていたが、今のところその様子は見られていない。むしろ助手としては優秀に思えるが……。


いや、まだ付き合いの短い相手だ。見えていない部分も多いのだろう。


そのように解釈して、ガトレは緩んだ気を少し締め直す事にした。

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