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銀の盟約  作者: 朱市望
2 本編
26/32

㉖コンラッド


 コンラッドはフェネオン侯爵家の後継ぎとして、容姿も能力も、領主として相応しい資質を幼少期から既に備えていた。

 特に身分、というものを早い段階で理解した。これさえあれば、屋敷はおろか領地中でも逆らえる者はいない。市井の人々は平伏し、屋敷の者達も同じである。息子に甘い両親を含め、咎める者は誰もいなかった。


 ある日、コンラッドは急に街へ出かけたくなった。ところが今日は外出の予定がなく、父の許可を得た上で、馬具の修理と手入れをしていると説明された。どうかもう少し、と懇願する見習いの馬丁を延々と叱責していると、意を決したように割り込んだ者がいた。 


「どうか、それ以上は」


 相手は傘下の屋敷から、コンラッドの教育係として屋敷に上がっている者の一人だった。誰に向かって物を言っているのだ、とコンラッドは標的を変えた。それだけでは腹の虫がおさまらない。あまりに腹が立ったので、ありもしない話を両親に吹き込んで屋敷を追い出した。おかげで相手は次の仕事が見つからず、妻にも逃げられたらしい。ざまあみろ、と思った。もし相手が謝罪に訪れ、地面に額を擦りつけて許しを乞うなら、と思ったが、二度と現れなかった。



 そんな出来事から数日経ったある夜、寝台に横たわったコンラッドの前に、不思議な光景が広がった。霧の立ち込める深い森の彼方より、丈の長い外套を引きずるようにして現れた者がいる。威厳ある老人の風貌をした者は、手にした長い杖を傍らに置き、足元に恭しく跪いた。まるで、僥倖に巡り合ったかのように目を潤ませている。

 コンラッドには選ばれし者で、限られた者だけが使える特別な力を振るう素質が、十二分に備わっていると褒め称えた。あなた様のような方をずっとお探ししていた、とまで言われれば悪い気はしない。


 さあ、と促され、コンラッドはその者を受け入れた。その際にどうかこれだけは、と相手は腰を低くしながらも条件をつけた。


『特別な力を得た事は、決して誰にも知られないように。あなた様を狙う輩が現れるでしょう。奴らは銀を好みますから、どうか身の周りから遠ざけて』


 目覚めた後、コンラッドは言われるがまま装飾品の類や食器は廃棄するよう命じ、不審がる使用人に下げ渡した。両親も疑問を抱いたようだが、見聞きした知識をそれらしく並べ立てると、追及はしなかった。


 その日以来、コンラッドには特別な力が備わった。指先が少しでも触れた相手の夢の中へ押し入って、記憶や感情を覗き見る能力である。後には、用意した古い高価な装飾品を触らせる、という条件でも同じ事ができるようになった。


 他人の心を読めば、相手の弱み、ひた隠しにしている後ろめたい事実がすぐに判明する。脅しつけ、断罪し、コンラッド少年の名声はますます高まっていった。

 没収した財が、コンラッドの元に積みあがった。楯突く相手はことごとく失脚し、対立する者、意見できる者はいなくなった。

 銀の品物だけは避けているが、領主が好まないという理由でフェネオン領の高貴な人々の間では手にする者が減った。


『素晴らしい才能だ。だが、まだまだ満ち足りるには程遠い』 


 コンラッドに力を与えた老人は夢の中に留まって、こちらにあれこれと要求するようになった。毎晩ではないが、夢の中で誰かを訪ねる回数が増えていく。

 何をするのかと横から見ていると、夢の中で気味の悪い怪物や恐ろしい状況を作り出しては、相手に盛んにけしかけている。特に、子供が泣き叫ぶのを目の当たりにしては、嬉々としていた。


「……これは何の意味が?」

『何の、ですと? これこそが、あなた様の力の源となります』 


 夢の中で襲われている者をよく見ると、コンラッドの周囲の人々だった。これは夢の中の出来事に過ぎない、と老人は言い張った。しかしこれが何日も続けば現実の世界で体調を崩し、寝込んだ果てには簡単には回復しない。

 夢の中の老人は徐々に見た目が若返った。既に老人ではなく壮年と呼べそうだった。


『まさか、怖気づいたのでは? もしここで中断すれば、今まで得て来た者は全て灰になって消えてしまうでしょう。あなた様の名誉も地位も、築いたすべての財産も。それでよろしいので?』


 コンラッドは思わず、そんな事は聞いていないと反論した。しかし相手は涼しい顔のままだった。種を植えただけでは、穀物を豊かに収穫できない。屋敷の者も継続的に給金を支払って雇っているのと同じだと繰り返した。

 

『よく考えてみてはいかがか。約束を守っている限り、誰があなた様を糾弾できましょう?』

「……」


 これに関しては、確かに相手の言うとおりだった。現実の世界で、コンラッドは不自然に思われない程度に握手などの挨拶や、訪問先の子供の頭を撫でてやっているに過ぎない。つまり、露見する事はあり得ないのだ。


『よく考えてみればよろしい。人間など、放っておいてもいずれ死んでしまうものです。あなた様は、それを有効に使ってやっているに過ぎない』


 コンラッドは更なる要求に従って、はじめは収容している罪人に目を付けた。しかしそこまで大量に確保できるわけではなかった。次は病人に手を付けたが、当たり前だが大した量は得られない。

 罪人は罰を受けて当然で、病人は見通しの明るい者ばかりではないので、罪悪感は薄いままだった。

 同じ理由で使用人達が次々と体調を悪くしても、見舞金を多めに渡せば逆に喜ばれる始末である。市井の状況や時勢を常に考慮している上、領地の人々が貧苦に喘いでいるわけでもない。結局相手の言うとおり、誰にも咎められなかった。



 近頃、コンラッドが教会へ近づくと、気分が悪くなった。理由がわからないので、手短に済ませるか、相手を呼びつけて対応した。しかし領主として、時には顔を出さなければならない日もある。ここには身寄りのない者や病人が多いので、自分の目的には最適だった。

 領地の辺境や、他の貴族領との境界付近を度々訪れ、気前よく立ち回れば疑われなかった。むしろ、気にかけて下さる素晴らしい人物だと評判は上々である。



「おっと、失礼」

 

 ある時、教会の廊下で軽く接触してしまった相手は、知っている顔だった。コンラッドが追い出した、かつての教師である。悪評を撒いたせいで、仕事に困っているらしい。それに随分と痩せて、身なりも随分とみすぼらしい。顔色は悪く、病の気配が色濃い。妻は出て行き、娘を一人で育てていると、風の噂で知っていた。

 そこで、できる限り優しく聞こえる声で取引を持ち掛けた。まとまったお金さえあれば、病や貧困を抜け出すのは簡単である。ただ、こちらの指示に従うだけだと並べ立てた。


「あの時は私も若かった。ところで、娘がいただろう。私の屋敷に奉公に出すといい。決して悪いようには……」


 これまで、この手の人間が抱えている弱みにつけ込むのは簡単だった。年頃の娘に貧しい暮らしをさせたくはないに違いない。病気の父親を思えば、娘も自分の身に何が起きようと、毎晩悪夢に魘されようとも口を噤むはずだ。


 ところが、目の前の相手は想像とは違う反応をこちらに向けた。あの時は確かに存在していた、諫めようという配慮だけが抜け落ちている。代わりにはっきりと、軽蔑のこもった眼差しをこちらに向けた。


「……話はもう結構」


 ちょうど教会の者がやって来たので、男は踵を返してその場を去った。

 残念ながら、夢の主に意趣返しさせるまでもなく死にかけていたため、どこまでも期待外れだった。後で娘がどうなったかだけこっそり調べたが、家財を売り払い、父親の薬代や医者への礼金を清算して、既にどこかへ離れた後だった。金に困っているのなら取り込めると踏んだが、その後の足取りは掴めなかった。






 コンラッドは正式に、フェネオン侯爵の地位を引き継いだ。王都へ行って登城して挨拶を、と思っていたにも拘わらず、夢で何故か引き留められた。

 

『あそこはだめだ』

「なぜ?」

『よくない気配が渦巻いている』


 コンラッドには何もわからなかった。しかし初めて、彼の眼差しに焦りが浮かぶのを見た。結局は理由をつけて王城へは近づかないようにしていた。そろそろ、と言い出したのは春の頃である。


 早速情報を集めると、傘下の家の子息から報告があった。王城ではつい先日、実に下らない事件が起きたらしい。

 まだ年端もいかない子供達を集めて、余興が催された。ルイスという近習の一人が、出しゃばって計画を台無しにしたそうだ。そしてあろうことか小賢しく立ち回って、何の咎も受けずに王城を期間満了で辞したと言う。

 ルイスが妨害したという確固たる証拠こそないものの、あの者に違いないとオレリアン殿下は未だに憤慨しているらしい。国王夫妻に諫められたために表立っては口にしないが、不満は溜まっている様子だと教えてくれた。


 フェネオン侯爵の名前を用いれば、殿下とは簡単に会う事ができた。記憶を探ると、どうやらその元近習に腹を立てているのは事実だった。


「常に反抗的で、継母の手先として嗅ぎまわる煩わしい相手だった。もしそなたが、ルイスの尻尾を掴むのに成功した暁には」


 オレリアン殿下は嬉々として、自らコンラッドに持ち掛けた。望みを叶えよう、と約束した。要求は何であれ、相手は次期王位継承者である。彼のお気に入りとなれば、今よりずっと調達が楽になる。それは何より魅力的だった。何しろ、ルイスとやらを捕まえて軽く接触するだけで、相手の記憶や思惑は手に取るようにわかってしまうのだから。


 しかし既に、ルイスはあらかじめ伝えられていた出仕期間を終え、遠くにある領地へ帰ったのだと言われている。色々と調べたが、本人の評判は芳しくないようだ。傑物と謳われた父親と祖父より随分と見劣りするらしい。 

 接触さえできればその後は簡単だろうと思われたが、家同士の直接繋がりがなければ突然訪問するのは不自然である。有能な現当主は、コンラッドに疑いを抱くかもしれない。


 王城で聞き回った範囲では、彼を悪く言う者は多かった。王太子殿下の顔色を窺いながら、ルイスという令息の振る舞いを貶した。


「……さあ、よく知りませんので」


 もしくは、このように話を切り上げてそそくさとその場を辞してしまう。どことなく怪しい気もしたが、考え過ぎだと一蹴した。その多くが王城の使用人や身分の低い者であったから、取るに足りないと判断した。

 

 聞き回る中で一つ、有益な情報を得た。ルイスの婚約者、カステル伯爵家の令嬢が王都にいる。子供向けの集まりへ積極的に足を向けていたので、簡単に補足できた。声を掛けて話してみると、次期侯爵夫人という肩書を得ているためか、実に生意気な口の利き方をする娘だった。


 早速夢の中へ入って、必要な情報を探した。母親が亡くなり、父とは折り合いが悪い。弟妹の面倒を見て暮らしている。基本的な情報を得つつ、肝心のルイスについて探ろうとした瞬間に、コンラッドは制止され撤退を余儀なくされた。


「……もう少しだったのだぞ。邪魔をするな」

『危なかった。あれはよくない。他の方法を考えた方がいい』


 普通の、取り立てるほどでもない小娘だったとコンラッドは意見したが、相手は首を横に振った。現在はすっかり若返った姿となり、コンラッドと瓜二つの容姿となった。やり取りをしていると、彼と自分との境目が曖昧になりつつある。


 今度は、起きている時間に父親のカステル伯と親しくなる作戦に切り替える提案をした。ところがそちらも、肝心の夢の主が拒否を繰り返す。


『そちらもだめだ。カステル伯の屋敷に直接は入れない。よくない気配がする。近づくのは無謀だ』


 コンラッドは相手の、要領を得ない説明に苛立った。ならどうするのかと尋ねると、今は力を蓄えるべきだと言う。そして高慢な要求を繰り返した。


『裕福な子供がいい。これだけ人が多いのだから、上手くやれば露見しない』


 王都では、まだ社交界に出ない年齢の少年少女をまとめて教育するような場があちこちに設けられていた。外部の人間は、と申し訳なさそうに断る者もいたが、大半は侯爵の身分や見た目を利用すれば、入り込むのは容易かった。


 侯爵家の年若いが優秀な当主。賞賛のまなざしを多数向けられて気分は悪くない。手持ちの宝飾品を見せて、目星をつけて回った。そして夜になれば、夢の主が作り出した分身が、獲物を追い立てる猟犬のように飛び出して行く。


 ところが、成果は芳しくなかった。効率を優先してあちこちに放ったにも拘わらず、二度と戻って来なかった。あちこちで体調を崩す子供の噂が聞こえているため、途中までは上手く行っているはずだ。

 こんな事は今まで一度もなく、夢の中でも原因がわからないと言った。仕方なく、コンラッド自身も直接赴く事になった。



 目を付けた子供は、数年前に馬車で移動中に嵐に巻き込まれた経験の持ち主だった。家族と共に近くの古い小屋に命からがら逃げ込んで、朝になるまで震えていたらしい。その記憶や恐怖を読み取って、悪夢として忠実に再現する。ただし、抱きしめ勇気づけてくれていた両親の存在は忘れさせた。


 雨と暴風雨が馬車を襲い、横転した馬車近くに何度も雷が落ちた。追い詰められた子供は怯え切った表情で、近くの小屋に逃げ込んだ。小屋の中は藁や古い木材で、非常に燃えやすいのを知っている。案の定、落雷によって小屋が半壊し、いくらもしないうちに黒煙が噴き出した。父や母に助けを求める悲鳴は、何より心地よかった。


「……何が可笑しくて笑っている?」


 笑いながら見物していたコンラッドは突然、背後からの衝撃で吹き飛ばされた。背骨が軋む音が聞こえ、雨でぬかるんだ地面にたたきつけられた。降りしきる雨の中でもはっきり聞こえた知らない声に振り返った状態だったせいで、首も痛めたらしい。すぐに立ち上がる事はできなかった。


 這いつくばったままでの態勢で見上げると、落雷と炎で一瞬だけ照らされた相手は、こちらを足蹴にした態勢で冷たく見下ろしている。軍装姿で、冷徹な一瞥を投げたのみだった。コンラッドを捨て置いて、小屋の扉を蹴破って中へと入って行く。



 コンラッドが態勢を立て直そうともがいているうちに、相手は子供を抱えて戻って来た。嵐はとっくに止んでいる。腹立たしい事に追撃よりも、子供がすすり泣くかたわらに寄り添って、慰める方が優先らしい。

 その隙をついて、コンラッドは命からがら逃走するのがやっとだった。相手が子供の安全を優先しなかったら、と思うとぞっとした。


「あれは一体何者だ。どうすればいい?」


 できるだけ遠ざかりながら、身体の痛みに顔をしかめながらコンラッドは喚いたが、返答はなかった。これまで、夢の中はコンラッドの意のままだったはずだ。それがこのありさまである。


 その上、目を覚まして何気なく起き上がろうとして、背骨と首が折れているかのような激痛が全身を襲った。夢の中で負った怪我が現実にまで反映されるわけがないのに、他に原因は考えられなかった。


「寝、寝違えですかね……。寝台から落ちた時の当たり所も悪かったのでしょう」


 呼びつけた医者のばかばかしい見立てに、コンラッドは怒り狂った。その者を追い出して、まともな診断ができる者を、と家令に命じた。四人目で、ようやく効果のある薬が提供された。

 それでも、寝台に横たわって、楽に呼吸ができるようになるまでしばらくかかった。王太子殿下からは、まだなのかと催促が来ている。何も知らない愚か者め、と憤ったが、今は夢の中で迂闊に動けない。

 コンラッドの狩りを邪魔していたのは、あの軍装姿の男で間違いない。そして再び遭遇すれば、今度こそ殺される。


 まるで悪夢だ、と震えるコンラッドに、カステル伯周辺を探らせていた者から有益な情報が提供された。令嬢が身寄りのない娘を教会から引き取って、使用人として側においているらしい。その娘は休日に頻繁に教会へ来て、掃除や雑用を請け負っているという話だ。


 奇しくも、それはコンラッドが追い出したあの男の遺児であるらしい。ようやく運が向いてきた、とコンラッドは歓喜した。元々はそこそこ裕福な身の上であったはずが、すぐそばで歳の近い娘が贅沢三昧している横にいなければならないのである。使用人として惨めに頭を下げる日々はさぞ辛くて、耐えがたい日々のはずだ。


 

 コンラッドは早速教会へ赴き、気分が悪いのを堪えて機会を窺った。人気のない場所で掃除と休憩をしているのを見計らって、声を掛ける。こちらの提案は悪くない話であるはずだった。

 ところが相手は目を瞠って、声と態度が硬化した。逃走する術を探るように、目線があちこちに走る。

 それができないと悟ると、娘は父親そっくりの眼差しで短剣を抜いた。しかし、見るからに素人臭い動きに拍子抜けである。

 せせら笑いながら腕を伸ばして拘束しようとした瞬間、信じられない事が起きた。あまりの痛みに、娘を掴んでいられない。連鎖するようによみがえった夢の中での負傷が、コンラッドをのけぞらせた。娘はこちらを突き飛ばして、走り去った。周囲の者に取り押さえさせるべく声を上げたが、間に合ったかどうかはわからない。ふと視線を向けると、娘を触った右手は皮がめくれて水ぶくれがいくつも浮かび、まるで焼けただれているかのようだった。


 信頼できる医者と薬師が居合わせている、と引き留める声を振り払って教会を後にした。


 しかし成果は上々である。愚かにも逃走したあの娘は遠からず軍が捕縛し、コンラッドはカステル伯爵家と、この上なく有利な条件で直接やり取りできる機会を得た。せっかく結んだ格上の相手との婚約に響くかもしれない、と大げさに書き立てておく。一緒に娘を連れて来れば酌量しよう、と記して送り付けた。


 手紙の効果が出るまで、コンラッドは夢の中でカステルの娘を散々に痛めつける手段を模索して時間を潰した。今まで損耗した分を取り戻すのに、娘がどうなっても知った事はない。可愛がっていた使用人の失態と婚約が破談になるかもしれない不安で心を壊したと、周囲はそれで納得するだろう。



 コンラッドは手筈を整えたが、あまりの痛みに舌打ちした。新たに負傷した右手と、薬で誤魔化している首と背中のために、手配した痛み止めを追加するほかない。

 新しい医者は、右手の傷を酷い火傷だと診断した。一通りの手当ての後で、理由を訝しむ視線が煩わしい。早々に部屋から追い出した。

 何故短剣を持った手を受け止めただけで火傷を負ったのか、コンラッドにも全くわからなかった。


「……旦那様、約束の方がお見えです。指示通り、客間に通しました」


 そこに使用人が呼びに来て、淡々と用件を伝えた。カステル伯とその娘に違いないと色めき立ったが、相手は少年が一人だけだと述べた。



「……はじめまして」


 客間にいたのは、黒髪に青い瞳、これはあまり見ない組み合わせである。まだ少年と言っても差し支えない相手はルイス、とありきたりな名前を名乗った。コンラッドが目を見開く前で、こちらに冷ややかな眼差しを向ける。

 

「……ところで何か、困っているのではありませんか?」


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