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私の幸せ、つまり結婚適齢期のうちにいい縁談に恵まれるためにはお兄様とコレット様の幸せが早急に必要、ということまではわかった。
とはいえ、結婚の日はもう決まっているので、そういう意味ではやることはない。
ただ、二人の仲がなんというか、こう、しっくりいっているという実感がまだないことが気になる。
お兄様はがつがつしてるし、コレット様は引き気味。それでも最初のころよりはマシだけど、できたら、もう少し仲を深めてほしい。
ヤスミンは「もうあとは自然にまかせておけばいいわよ」と放置しているけれど、本当は自分の結婚の準備をそろそろ始めなくてはいけないので、そちらに気を取られているからということはわかっている。
だが、私も一人では何もできず、結局それっきり、だらだらと日を過ごしてしまった。
その間、お兄様はきちんきちんとコレット様を誘って出かけ、お母様たちは結婚式の準備を進め、たしかに私が何もしなくても状況は問題ないように見えた。
ある日までは。
「コレット様がおかしいの」
その日もデートに行っていて疲れたヤスミンはさっさと寝ようとしていて、私が引きとめると面倒くさそうな顔をしたけれど、さすがにもう放っておけない。
何もできないけれど観察はかかさなかった私が見る限り、もう二週間はコレット様の様子がおかしい。
お兄様は先週から新しい仕事の研修に泊りがけで出かけてしまっている。ヤスミンはコレット様が沈んでいるのはお兄様がいないからでは、だったらむしろいい傾向なのでは、と言ったが、違う。お兄様が出かける前からコレット様はおかしいのだ。
そう必死で訴えると、ヤスミンもわかってくれた。
「コレットをお茶会に誘うわ。お兄様が帰ってくる日にしましょう。そうすれば、お兄様に原因があっても一気に解決できるし」
コレット様は抵抗したらしい。
別の日にしないか、とか、コレット様の家でしないか、とか。
そこまで重大と考えていなかったヤスミンも思ったより大ごとなのかと考えなおしてくれたくらい。
ヤスミンは別の日は都合が悪い、うちで新しく植えた百合を見せたい、とか言ってコレット様の抵抗をつぶした。
「コレットが嘘をつけない人でよかったわ。その日は用事があるって言われたらそれで終わりだものね」
嘘をつけないコレット様はしぶしぶというかおどおどというか、ともかく乗り気でないのが明らかな様子でやってきた。
一方、ヤスミンはしれっと百合のことに触れず、室内にお茶の用意をさせた。今日は風が強いのだ。
「あの、今日は二人だけ?」
「そうよ」
あからさまにほっとした様子を見せるコレット様。いそいそとカップに手を伸ばす。
「お兄様は夕方に帰ってくるの。帰る前に会っていけばいいわ」
コレット様の伸ばした手がカップに当たり、お茶がソーサーにこぼれた。
「ご、ごめんなさい」
「大丈夫よ」
「いえ、そうじゃなくて、それもだけど、その、私、今日は早く帰ろうと思うの」
「あら、何か用事があるの?」
「ええっと」
「とくに用事があるのでなければ遠慮しないで夕方までいてちょうだい。そのほうがお兄様も喜ぶんだから」
「……」
ヤスミンは手持ち無沙汰に扇子を半分くらいまで開き、すぐ閉じた。
「で、何があったの?」
コレット様が顔を上げる。目がうるうるしている。
「ヤスミン……」
「どうせすぐばれるんだから、さっさと話しちゃいなさい」
「ヤスミンンンン」
一気に涙腺決壊。私がハンカチを差し出すとコレット様は受け取って目に当て、そのまま泣き出した。
落ち着くまでしばし待ち。
「あら、おいしいわね、これ」
「あ、本当」
ヤスミンが口にしていたクッキーを食べてみると本当においしい。チョコレートベースに乾燥させたイチゴを細かくしたものが入っている。
「べ、ベアトリーチェって、誰?」
んぐっ。