#9 ただの男だったらしいです先輩は
ワラムクルゥ 02
ミサキさんは約束通り、依頼主の男の子と会った。デートの首尾がどうだったのか詳しいことは知らない。まあ、だいたい想像はつく。彼女は高校一年の男の子が太刀打ちできる相手じゃない。当たり前だ。スグロ先輩が特別なだけで、そもそも男の子とはそういうものだ。
私は、男の子たちの幼稚なところは嫌いじゃない。コボリくんといると、これから先、大人になってもずっとそんな幼いままでいてほしいと思うことがある。もちろんそれは無理だし、それはそれで困る。でも、男の子が大人になっても、そういう幼い部分は無くならない気がする。銀のスプーンがいつの間にか黒くくすんでいくように、時が経つとそれが最初はどんな色だったのか、自分でもわからなくなっちゃうんじゃないかな。もしもコボリくんが大人になったとき、私がまだ彼のそばにいたら、私が彼のスプーンを磨いてあげられるんだけど。もう一度ぴかぴかになるまで、私が磨いてあげられるんだけどな。
ともかく、『マスター』の最後の依頼は失敗に終わった。スグロ先輩は最初から依頼主にはそのあたりを含んであったみたいで、特に文句はいわれなかったみたいだ。
でも、これで終わりじゃなかった。スグロ先輩の『マスター』としての仕事は終わったけれど、スグロ先輩とミサキさんとの関わりは終わらなかった。
「また来てる」
放課後、学校の側のバス停のベンチに、ミサキさんが座っていた。寒いのに熱心なことだ。依頼主の男の子とのデートが失敗に終わってから、ミサキさんは何度もうちの学校の前に現れた。スグロ先輩を待っているのだ。先輩が校門から出てくると、ふたりして駅まで一緒に帰っていく。
スグロ先輩がいうには、二股をかけていた彼氏とは別れて、今は恋愛相談に乗ってあげているそうだ。ほんとうはあまり乗り気じゃないっていってたけど……。
「スグロ先輩も、乗り気じゃないならはっきりと断ればいいのに。意外と優柔不断なんだから」
今日も、私たちは駅まで歩いていくふたりのうしろ姿をバス停のベンチに座って見送っていた。
私の言葉にリンコちゃんがうなずいた。
「まあ、あれだね。スグロ先輩も結局はただの男だったってことじゃないの」
イサミちゃんはバス停の時刻表をじっと見つめている。でも、ふたりのことが気になっていることはひしひしと伝わってくる。
「ねぇ、イサミ。このままだとスグロ先輩、とられちゃうよ」
「私は別に……そういうんじゃない」
「じゃあ、どういうの?」
「ただ……」
「ただ?」
「なんかモヤモヤする」
「あのね、イサミ。それって世間一般では好きっていうんじゃないかな」
「え……」
「スグロ先輩だって、イサミちゃんのこと、好きだよ」
「違う。先輩は、私のことを別に好きなわけじゃない」
「そんなのわかんないじゃん」
リンコちゃんがイサミちゃんの脇腹をつつく。
「わかる」
リンコちゃんの攻撃をよけながら、イサミちゃんは断固とした口調でいった。
「もしかして、イサミちゃん、スグロ先輩に……」
「ううん。私は先輩に何もいってない」
「じゃあ、どうして」
「先輩は……昔、私に似た誰かを好きだったんだと思う」
「ちょ、ちょっとイサミ、どういうこと、それ」
「スグロ先輩、そんなこといってたの?」
私とリンコちゃんの質問攻めにあっても、イサミちゃんはなかなか答えようとしなかった。『シカゴ』で問い詰めること一時間、ようやくイサミちゃんは、初めてスグロ先輩に会ったときのことを、西校舎の掲示板の前での出来事を話した。スグロ先輩が、初めて会ったイサミちゃんを見て涙を流したときのことを。
どういうことだろう。
スグロ先輩の言葉をそのまま信用すれば、イサミちゃんのいうように、昔イサミちゃんに似た誰かのことを思い出した、ということも考えられる。
でも、ほんとにそうなのかな。
結局、バス停でイサミちゃんは一度もスグロ先輩の方を見なかった。
それが一月二十八日。
問題の二月十一日まであと二週間。




